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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第45話 創世の宝玉(上)グローツラング包囲網




 「うひゃー、凄い雨。もうこれで何日目よ」


「9日目だ」


夕方


八重島紗良が家に駆けこみながら愚痴をこぼし、2階から降りてきた芹沢達人が淡々と返しながらタオルを渡す。


「異常過ぎるわよ。急に高気圧が低気圧に変わって全国的に大雨なんて」


ウェンディゴを倒した日の夜。


気象庁から異常な発表がなされた。


日本を覆っていた高気圧が突如低気圧に変化し、全国で大雨が降り続いていた。


大雨の影響で日本各地では土砂崩れや川の増水による氾濫による被害が相次いでいた。


(気象の変化はウェンディゴのエナジーの影響だろうな。これは審判の日の前哨戦とでもいうのだろうか?)


芹沢達人は居間の窓から空を見上げながら思う。


「でも見て。明日からはようやく晴れるみたい。やっと洗濯物が乾くわ」


TVを見ていた八重島梓が安堵の声を漏らす。


(これが普通の人間の反応なんだ。この普通の日常が無くなる世界がそう遠くない未来に起こるというのか)


達人は梓を見ながら自分の戦いが地球の命運を賭けた物になりつつある事をようやく実感しつつあった。


「良かった。明日文化祭の買い出しに行こうと思ってたんだよね。達人も来てよ」


着替えてきた紗良がリビングへ入って来た。


「荷物持ちにか?」


「そう。皆で手分けするけど人手は欲しいわけよ」


「分かった。代わりと言っては何だがこっちの用事も手伝って欲しい」


達人の求める、世界を変えるほどの力を持つという宝玉についての情報は今の所皆無だった。


サンダーバードやガッシングラムからも聞いたことはあるが既に何者かに持ち去られているか、あるとしても大した力は無いのではないか、という見解を取っていた。


それは伝説は伝説のままだと確定しているような物だったが、一縷の望みを賭けて何か手掛かりを掴みたかったのだ。


「何をすればいいの?」


「図書館で本を探す。明日の買い出しは俺を含めて5人いるのだろう?手分けすれば早い」


「本ねぇ。何てタイトル?」


「殆どオカルトに近い。だからあるかどうかも分からない」


「いやまあ、あんたがそういうのを使って戦っているのは知っているけど。いいわ、ダメもとで探すの手伝ってあげる」


「助かる」


そう言うと達人は途中だったトレーニングの続きの為に2階の自室へと上がった。


同時刻・文明存続委員会本部


ティブロンの秘密の私室にある人物が招かれていた。ティブロンは監視ドローンとそれに内蔵されているエレメンタル・エナジー測定器でこの人物、北海和尚を探し当てると秘密裡に接触を図ったのだった。


「拙僧に用件とは?」


「貴方の一族がグローツラングに恨みを持っているのは知っています。そこで手を組まないかという事です」


「このような秘密の部屋こそ密約にはもってこいの場所、したが貴殿は何をお望みでござる?」


「私の望みはグローツラングの眼のみ。命や他の宝玉には興味は無い」


「ほう。では我が一族の秘宝には手を触れぬことを約束して頂きたい」


「では交渉成立ですね。こちらも援軍を送ります。手練れですからご心配なく、北海和尚」


「ご随意に。約定はお忘れなきよう、ティブロン殿」


「奴が破戒僧でないとは限らないからな」


フッと部屋から北海和尚が居なくなり、後に残されたティブロンは部屋の片隅に置かれたアイディオンの鎧を見て呟呟くと手元のPCからあるデータを呼び出す。そこには巨大なパラボラアンテナを備えた塔の様な物の設計図が映し出されていた。



翌日


「じゃあ気を付けて行ってらっしゃい」


「行ってきます」


梓に送り出された達人と紗良は駅前の商店街へと向かう。


「いや~太陽が出ている事にこんなに感謝する日がこようとは」


「そうだな。雨降る前はみんなして暑いから曇れとか文句を言っていたから俺達も身勝手な生き物だよな」


「すぐ暗い方に持っていこうとする。明るい話題もあるでしょ」


「最近でか?思いつかないが」


「例えば達人の戸籍ができる事とか」


「それは再来週の事だろ。そんな先の話をされてもな。戸籍といっても何が変わるわけでもないしな」


「先って、いつもどの位先の未来の事考えて生きてるのよ」


「精々明後日くらいだな」


「近すぎ。将来の事とか考えられないじゃない」


紗良としては達人が日夜命がけで戦っているのは分かっている。だからこそ戦いの先にある平和な生活に何かしらの希望を見出して欲しいと思っていた。


(少しは変わったと思うけどね)


その一環としてある計画を八重島家全員で本人には内緒で立てていた。


まだ予定時刻5分前だったが駅前の広場に既に竹山さゆみと松川かおりの2人がいた。


互いにおはようの挨拶の後さゆみから買い出しメンバーだった黒川ケイが急用で来られなくなったと紗良と達人に伝える。


「あれ?行かなくていいの?」


「応援要請が無いという事は1人でどうにかなるという事だろう」


「信頼しているのか、突き放しているのか分からなくなるのよね。あんた達の関係」


「確かに。でもこれでウチらが襲われても助けてもらえるかな~って思うとフクザツ」


呆れとも諦めともつかない紗良のぼやきにかおりも同調する。かおりもさゆみも翼猫を巡って達人とケイが対決した事を知らない。


「それで、買い出しと言っていたがどこへ行くんだ?」


「ちょっと歩くんだけど、問屋があるのよ。そこだと纏めて買えてお得だから」


「そうそう。うちの学校の文化祭の時いつもお世話になっているとこ」


さゆみの説明をかおりが補足する。4人は駅前の大通りを出て車1つがようやく通れそうな細い道を歩き、昭和の商店街といっても信じられそうな商店街に出た。道路の両脇は狭いが雨除けのトタン屋根のついた歩道となっており、畳店だのコーヒーショップだのといった脈絡のない店舗が並んでいる。


「そういえばこの近くだよね。柏木君の家。ずっと休んでるけど大丈夫かな」


紗良は休学している同級生を思い出した


「帰りにお見舞いがてら様子を見てみる?」


「でも大丈夫かな?家の都合って言ってたけど」


かおりの提案にさゆみは慎重だった。3人とも柏木英輔とそれほど親しいわけではない。奨学金で通っている苦学生である事を知っている程度だ。さゆみはその事を伝えた担任がこの事にあまり触れたがっていない様に思えた事を今更ながら思い出していた。しかしここで彼の安否を確認しないのは教師達のことなかれ主義と同じ事だ。そう思い直したさゆみは結局かおりの提案に賛成する事にした。


「柏木君というのは彼か?」


「そうそう。よく知って・・・いるわね?」


部外者である達人がなぜ柏木を知っているのか?そう思って達人の視線を追った紗良はそこに時代錯誤な光景を目にした。


まるで決闘でもするかのように商店街の交差点を挟んで僧侶と若い女性が向かい合っていた。そして女性の後ろに決闘をやめさせようと今にも飛び出そうとしている柏木英輔とそれを抑えているマルスの装甲服を着た黒川ケイがいた。



3人娘にすぐ家に帰れと言いながら達人は杖に念じてレジリエンスの鎧の入った箱を召喚する。


「柏木君の事お願い。気を付けてね」


「善処する」


そう言うと達人は巨大化した箱に入って行く。


そんな軽口を叩けるほどいつの間にか紗良も『この程度の事』には動じなくなっていた。




眉間にしわを寄せ、両手に印を結んで一心に呪文を唱える男とそれを薄笑いで眺めている女。達人が以前出会ったあの托鉢僧北海とそれに対峙する白井良子の表情は対照的だった。


「魔性のモノよ、少年から離れよ。2千年以上を生きる妖魔を今こそ滅さん」

「笑わせるな。貴様もそうであろう?のう、マネギシ」


「その名よりも北海上人と呼ばれたい処ではあるがな」


「昔はどうか知らないけど今は違うと思うよ」


英輔の言葉に我が意を得たりと踏ん反り帰る良子はマルスの驚いた声に北海と共に言葉を切って視線を足音の方へと向けると笑みを浮かべる。それは目の前の僧に対する侮蔑ではなく純粋にこの面倒事を任せられる奴が来た、という期待から出た物だ。


「決闘なら別の場所でやれ。周りの迷惑だ」


「そうは言うてもな。向こうが聞かぬ」


レジリエンスへ良子はむくれる。北海は最初から耳を貸す気は無いらしく呪文を唱え続けている。


「あっちが仕掛けてきたんだ。いきなり家の中に現れて」


マルスの拘束を振り切った英輔が良子を庇うように前に出ながら言う。


「それで、お前は何をやっているんだ?ケイ」


「気乗りしない任務ですよ」


英輔へ視線を向けたままマルスはぶっきらぼうに返す。同時に北海の呪文が止むと同時に衝撃波が一帯に飛ぶ。


「馬鹿め」


良子は小さく呟くと周辺にバリヤーを張り、衝撃波は霧散した。


「これで分かったか?歴然たる実力の差をな。ウン?エイスケお主顔色が悪いぞ」


「何でもない。それよりもうこんな事は」


「勿論仕舞いじゃ。帰るぞわが家へ」


俺の家だって、という英輔と指を絡めて背を向けた良子は何かに気付き、英輔をレジリエンスの側へ着き飛ばした。


突然トタン屋根の上からチンピラ風ともホスト崩れとも見える男が良子目掛けて飛び降りてきたのだ。


「なるほど。この姿も時と場合によっちゃ役に立つな」


良子は自身を襲った男を睨む。


「お主はまさか」


「覚えているか。貴様に恥をかかされたこのミゴー様を」


そう言ってホスト崩れは変身する。


先端の尖った壺か瓶の様な頭部の中央に光る単眼


全身は古代中国風の黄色がかった緑色の鎧で胸と背中の中央に楕円形の金属プレート状の物が付いている


右手に幅広の剣、左手に丸盾を持っている。


この怪物の名はオオトカゲ型UMAミゴーと言う。


「ここは私が」


影の様にどこからともなく現れた禿頭の大男、タキがミゴーの前に立ち塞がる。


「うむ。さ、エイスケ行くぞ」


そう言って良子は英輔と共にその場を後にする。2人が十分に離れたのを見たタキが立ち塞がり、その姿を変える。


それは異様な姿だった。


人体でいえば首や頭が無く鎖骨辺りにある巨大な単眼。


両肩に計6本、つまり片側3本の刃物のようなトサカを生やしていた赤茶色の体色。


がっしりした脚と筋骨逞しい両腕にヒレ状のトンファー


「お前タキタロウか?お前程の男が小間使いとはな」


「俺はあの方に命を救われた。ミゴー、日本のUMAは義理堅いんだ」


「厄介な相手だ。だがこの盾を抜けるかな」


そう言ってミゴーは盾を構えてじりじりと近づいていく。


彼としてもイワナ型上級UMAタキタロウの力は知っている。だが同時に自身の力に自信を持っている。ミゴーの盾はその頑丈さももちろんだが魔法を吸収し、その属性の小型光弾として打ち返すことのできる優れモノだった。


その能力をタキタロウも知っている為うかつに自身の十八番である水鉄砲は撃てない。


自然接近戦になるのだが剣とトンファーでは間合いが違う。


「ウッ」


相手の剣を受け止めたタキタロウは体が燃えるような感覚に襲われる。


後退するがそこにミゴーの胸の金属プレートが強烈な光を放つ。


その光をまともに見たタキタロウは目が眩み、動きを止める。


「止めだ」


赤熱化した剣を振りかぶるミゴーにタキタロウは逆に突進しミゴーを吹き飛ばす。


「主人に以前衆人環視の中フラれた挙句叩きのめされたのがそういう戦い方だと分からんらしいな」


「黙れ。お前に何が分かる!」


その戦いの渦中に飛び込もうとするレジリエンスをマルスは静止する。潰し合いをさせておけばいい、と言う冷徹な意見を裏付けるかのように新たに現れた怪物2体は魔甲闘士らの存在を気に掛けず戦っている。


「あの托鉢僧は何をしているんだ?」


「あいつの体変じゃないですか?」


北海は片手で印を結び呪文を唱えていた。マルスの指摘通り、法衣の左腕が不自然にダラリと垂れていた。その意味に気が付いた魔甲闘士2体は同時に英輔と良子の向かった細道を駆けだした。




「タキさん大丈夫かな」


「心配せんでも良い。あやつは手練れじゃ。後れは取らぬ。それよりも」


良子はグッと顔を英輔に近づける。


「妾を守ろうとしたじゃろ?無茶をするな」


「いやまあ反射的に」


(結局意味なかったんだよな)


バツの悪そうに顔をそむける英輔。


「まあ嬉しかったがな。しかしお主浮いとらんか?」

「え・・・・えええええ!」

良子に言われて英輔は自分の足が地面についていないのに気が付いた。



達人らの懸念は当たった。巨大なヌメヌメした両生類の手が英輔の首を掴んで空へと上昇していた。その先には次元の裂け目がその赤黒い口を開いている。ためらう事なく、マルスは腰から拳銃型デバイス・マルスブラスターを引き抜き、その手を撃ち落とした。レジリエンスが落下する英輔を抱き抱え立たせる。その顔は恐怖と疲労の色が刻まれている。それはかつて達人も経験した高濃度のエレメンタル・エナジーに曝された者の症状に似ていた。


「約定を違えるおつもりか?」


霧の様に現れた北海和尚がマルスを責める。


「俺の、マルスの使命は人間を守る事だ。彼に、俺の友達に手を出した時点でお前は排除対象だ」


「ヌウ・・・レジリエンスも同様の意見の様子。ここは一度引くか」


「逃がすと思うてか」


「待て。ここでやり合うと彼がUMA化するか最悪死ぬぞ」


北海に向けて右手をかざした良子をレジリエンスは押しとどめる。


「そうじゃった。怒りに呑まれてとんでもない事をしでかす所じゃった。しかし、このままでは奴の挑戦を受け続ける事になる。問題の根は絶たねば。向こうの世界で奴の息の根を止めてくれる」


「彼の傍にいてやれ。愛しているのならなおさらな。その役目は俺がやろう」


達人はレジリエンスの鎧を脱ぐと首に提げたペンダントを英輔の首にかける。途端に英輔は体調が良くなった気がした。


「それは・・・」


「お守りだ。だが大事な物だからな。体調が本当に良くなったら返して貰う」


「その・・・ありがとうございます。それと良子、恨み買い過ぎだろ。あの人の宝石返してやりなよ。宝石いっぱい持っているんだから」


「その通り。それが一番手っ取り早い。それと彼の前に金輪際近づかない事だな。所詮異種族間の恋愛なんてものは成立しようがない」


英輔の意見にマルスも賛同しつつ良子へブラスターを向ける。


「阿呆めらが。あの宝玉は正当な勝負のいわば褒賞。逆恨みも甚だしい。それとレジリエンス、お前の意見は聞けぬ。安全とは敵を叩き潰してこそ得られるというのが妾の持論ゆえ」


敵対者を葬る覚悟を決めた彼女もその姿を変える。


変身後の良子は英輔の知識では全体的な姿は中国の女官に似ていた。


結婚指輪に似た頭部に様々な色に変化する単眼


蛇が絡みついたような両肩と異様に膨らんだ袖から突き出る小さな手


その白色の全身を血の様な赤い血管状の器官が通っている。


この器官は胸の辺りで二股に分かれてまるで舌を出した蛇の頭そのものに見えた。


これが多くの人間の男とUMAの雄を手玉に取ってきた蛇型上級UMAグローツラングだった。


グローツラングは英輔を振り返り


「この姿を見せたくなかった。しかしもう遅いな。妾が恐ろしいか?」


「驚いているよ。でもそれだけだ。不思議と怖くないんだ」


「それを聞けただけで十分じゃ」


そう言うと自身を追う破戒僧を追うべくグローツラングは異世界に繋がる穴を作るべく手をかざす。


「必ず帰って来いよ。タキさんと2人で」


その言葉にグローツラングは一瞬体を強張らせた瞬間、巨大な穴が現れ、周囲の物を吸い込むかの如く凄まじい風が吹きだした。その風はまるで意思を持っているかの様にレジリエンス、グローツラングそして未だに戦い続けているタキタロウとミゴーをその見えない手で引き込むと同時に消失した。


「何だったんだ、今のは?」


「まるで吸い込む対象を選んでいるかの様だった。魔術か?」


それをやったのはグローツラングで無い事は明らかだった。


(そいつは何者だ?)


更なる危険な存在と異世界へ干渉できないこの装甲服に歯がゆさを感じながらも今は同級生を守れたことに安堵するマルスだった。

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