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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第44話 人類を守る砦




 ウェンディゴが現世に舞い戻って数日。この間怪物は自らの宣言通りに人間達を憑依吸収し、自身の眷属を増やす事に専念した。


怪物にとって誤算だったのは人々がこの国のトップの居所を知っていてもその場所への行き方を知らない、という奇妙な点だった。


そこでウェンディゴは予定を変更し、自らに盾突いたレジリエンスとマルス両名の排除に乗り出した。やり方は至極単純で憑依吸収した犠牲者たる眷属ウェンディゴに『土地を寄こせ』とうめき声を上げさせながら人の姿のままゾンビの群れの如くひたすらに歩かせるだけである。彼らは変身しないまでも並の人間など歯が立たないほど強力だったし、彼らがウェンディゴとしての姿を見せればその際に発生するエレメンタル・エナジーによってネズミ算式にウェンディゴが増えていく事になるのだった。そして仮に死ぬ時は文字通りウェンディゴ本体に吸収されるのだ。


昼下がりの太陽の下、大通りを征くその野獣の群れの行進に人々は恐怖し門戸を硬く閉ざしてこの災厄の通過を願うばかりだった。人類を狩る死神の行列は正に無人の野を行くが如しという状態だった。


(さあ、いつまで待たせるつもりだ?それとも降参か?)


だがウェンディゴは自分の考えが間違っていたと知り実体のない黄金の嵐を歪めて笑う。


大通りを我が物顔で行進するウェンディゴ軍団の前に達人が現れたのだ。


達人は箱を置くと中に入り、レジリエンスの鎧を装着する。同時に背後から鳥の頭を持った合体UMAグリフォンが出現する。


「合身していられるのは精々3分だ。サンダーバードが本調子じゃねえからな」


「2分で雑兵を片付ける。残り1分で雑兵の数に関わらず例の攻撃を掛ける」


相談を短く終えるとグリフォンと合身しスィスモスとなった。


スィスモスは軍団の中心へ突撃し眷属ウェンディゴの1体に大斧で切りかかる。


途端ウェンディゴの姿が主婦の姿に変わる。


「やめておくれよ!?あたしゃ何も知らずにこうなったんだ。後生だから・・・・」


哀れを誘う口調で懇願するが、スィスモスの動きは止まらない。


「すみません。貴女の無念はきっとこの手で」


斬られる瞬間ウェンディゴの姿に戻った主婦を後ろから躍りかかった別の1体ごと両断する。


ウェンディゴの集団は悲鳴を上げて潮が引くように後ずさる。その波を更に押し戻すように悲鳴と気合の入り混じった雄叫びを上げながらスィスモスは大斧を振るう。


『達人そろそろ時間だ』


サンダーバードが気づかわし気に達人に時間を伝える。


「分かっている!」


達人は大きく息を吐き精神を整える。


「ヴァリーティタ(ギリシア語で重力の意)」


スィスモスの兜の両脇の2本の角から真上に放たれる重力波をまるで餅でもこねる様に楕円上に形成するとそれをウェンディゴ軍団の中心へと叩きつける。重力球はその中にウェンディゴ軍団を全て取り込んだ。眷属ウェンディゴはその超重力で身動きが取れない中本命たる盟主ウェンディゴはその中を光の粒子となってグルグル回転していたのは完全な想定外だった。本来ならこの粒子さえも動けないハズの超重力があの球には発生しているはずなのだ。


「だがやるしかない!」


スィスモスは持っていた大斧を変形させその先端を巨大なクロ―へと変えると金色に輝く重力球を挟み込む。このまま超重力で粒子ごと圧壊させるのが達人らの作戦だった。


「これで!!」


クローの力を徐々に込める。中のウェンディゴらの悲鳴が上がり、スィスモスは一気に力を込め重力球を握りつぶした。


(その苦しみと悲痛は1秒でも短い方が良い)


肉や骨のひしゃげる音と空間そのものが破裂する音が混じり合う嫌な音を達人は生涯忘れないだろうと思った。


クロ―の内側を見る義務を感じた達人がそれを確認するとそこに黄金の粒がこびりついていた。


「まさか!?生き延びたのか!」


粒子はスィスモスから距離を取り魔獣の姿を取る。同時に合身がスィスモスは解け膝をついたレジリエンスと地に付したガッシングラム・サンダーバードへと分離した。力を使い果たした2体のUMAは次元の彼方へと去って行く。


「スィスモスでも奴を倒す事が出来なかった・・・」


失意のレジリエンスはしかしエナジーの大半を失い動くことが出来ないでいた。そこへ聞き慣れたトレーラーの音をレジリエンスの耳が捉えた。


「ケイ達か」


もっと早く来てくれ、と内心毒づく。というのも黄金の嵐は逃走を図るべくゆっくりとその場を立ち去ろうとしていたからだ。流石のウェンディゴも無傷とはいかなかったらしい。


だがトレーラーからゆっくりと出てきたマルスはノロノロと去って行くウェンディゴには目もくれず両腕に構えたガトリングランスとマルスブラスターをレジリエンスへ向ける。


「何のつもりだ?」


「決心がつきましてね。俺は皆を守る。その為には魔甲闘士はマルス1人でいい。しかしマルスはまだ弱い。ウェンディゴ対策いや、今後の為にはレジリエンスの魔法の力が必要です」


「そうかもな。だが後にしろ」


「今やります。マルスにレジリエンスの魔法を加える。その為には鎧の解析が必要。僕がその装着者になれば・・・」


「本気で言っているのか、ケイ」


達人はマルスのバイザーに危険な光が宿った様に感じた。


「それに覚悟も経験も技能も1歩先を行くあなたを倒せれば僕は戦士として成長する。嫉妬に苛まれる必要もね」


そう言って通信機を切って先程から聞こえる笠井の叱責を遮断する。同時に腰のマルスブラスターを引き抜き発射する。レジリエンスは飛びのくがその動きを完全に読んでいたマルスのブラスターはレジリエンスの胸に直撃する。


『その力、俺が活用してやろう』


目の前の仲間割れを好機と見たウェンディゴはその嵐でマルスを包み込む。


粒子はウェンディゴの姿となり、新たな形態へと変化させる。


骸骨状の頭部の上半分がマルスに似たヘルメットに覆われ、左腕が突撃槍(ランス)その物となっている。


全身を覆う鎧は緑がかった金色となり右腰に銃の様な物が下がっている。



「ケイ、しっかりしろ。自分を強く持つんだ」


レジリエンスの問いかけに答えずウェンディゴはそのまま突撃してくる。


レジリエンスは体を開いて右にその突撃を躱し、杖の先端に形成した土の戦鎚ランドキャリバーを横薙ぎに振るう。


ウェンディゴはその巨体に似合わぬ機敏さで回転すると槍の先端を開いて戦鎚を受け止めた。


そしてそのままレジリエンスの体を持ち上げると右手の甲に新たに作り出した小振りの剣を突き出した。


レジリエンスは右足でそれを払うが怪物は槍が回転し先端から黄金の竜巻を発生させる。


竜巻に吹き飛ばされ、廃工場の壁に打ち付けられるレジリエンス


ウェンディゴは右腰の銃を可動させ口からのビームと合わせて発射、レジリエンスを屋外に吹き飛ばす。


「本当にこれがお前の望みなのか」


レジリエンスは立ち上がりながらなおも怪物の中にいるであろうケイに語り掛ける。


「グウッ、ウウウゥ」


ウェンディゴが突如苦しみだし数度の緑色の発光と共に怪物と分離、工場奥に吹き飛ばしながら黒川ケイの姿が現れた。


「ケイ、やったな」


「すみませんでした、達人さん。これ以外に奴の攻略を思いつかなくて」


「何故だ。何故なんだ!?どうして憑依を解除できた?」


ウェンディゴの緑がかった黄金のエネルギー体が不規則に揺れる。


「芝居だよ。お前が怒りや恐怖に引き付けられるならそう演じればいい。やはり上っ面の感情に騙されるとはお前らの人間理解とやらもたかが知れるな」


「だが戦闘力は以前の比ではない。お前達が力を与えたのだ。お前達自身の力でお前達は滅ぶ」


「それは違う。装着!」


ケイの右腕のブレスレット型ガジェット・ユニットオーダーが音声入力によりケイの体をマルスの装甲服で覆う。


「何?」


「残念ながらオリジナルの鎧は別の場所にある。それを短時間ながら再現しているだけだ。だからお前は俺の体までは乗っ取れなかったんだ」


そう言いながらマルスはユニットオーダーにある入力を行う。




「マルスよりカノンボアの発進コードを確認」


文明存続委員会本部で戦闘の様子を見ていた黒川博士は大きくうなずく。その顔はケイの無事を知ってか安堵と希望に満ちていた。


「良いだろう、発進させろ。レジリエンスにも心理的威圧になる」


黒川は淡々と指示を飛ばす。


「顔に出してもいいと思いますよ、こういう時はね」


古川は振り返りながら上司に笑みを向ける。


「そうもいかないさ。例の調整は住んでいるのだろう?」


「勿論です」


古川の報告に黒川は満足して再びモニターを見上げた。



「許さんぞ、貴様らガアッ」


怒りに燃えるウェンディゴは黄金の嵐となって接近しようとしたがそこに予期せぬ一撃が入る。


「来たか、カノンボア」


ATL―SP2ビハイクル・トーテム カノンボア


イノシシ型側車型サポートメカでその内蔵武器は実弾装備で固められている。光学兵器中心のマルス本体の攻撃が通用しない敵が現れた時の為の物だ。そして先程の一撃はイノシシの牙に当たる部分にある大型キャノン砲、メタルランチャーの物だった。


「コネクト」


マルスの音声入力でマルスとカノンボアは背中合わせになる。


カノンボアが直立すると座席部分が変形しマルスの背部のコネクターに接続される。


メタルランチャーとその内側に配されたバルカン砲が肩部に、車体後部に備え付けられた片側6門計12門の対UMAミサイルランチャーが両腰に、車輪が踵に移動・展開することで合体が完了する。この重武装形態はその重量から自力歩行できず、車輪と背部のバーニアで移動を行う。


マルス・ガンフォートレスモード


一対多数を想定した、それはまさに人類をあらゆる脅威から守る最大最強の砦だった。



「ガンフォートレスモード機能正常、合体成功です。火器管制システムオールグリーン」


トレーラー内の笠井の報告を受け満足そうにモニターを見つめる古川と複雑そうな顔をする黒川とティブロン


モニターのレジリエンスとウェンディゴも驚いている様だった。


「連中のうろたえぶりがここからでも分かりますね」


「全く。だが真に成功かどうかはこの後の結果を見なければ」


ティブロンに黒川博士は冷静に答える。



マルスは右手にガトリングランス・ガトリングモードと左手にマルスブラスターを構え


「人類の敵を排除する。ガンフォートレスフルファイア!!」


その声と同時に両腕のガトリングランスとマルスブラスター、肩部のランチャーとバルカン、腰部の対UMAミサイルランチャーの砲口を前方へ向け一斉に火を噴いた。


「ウッ、粒子化できないだと?」


「残念だがこの実弾にはUMAの体機能を狂わせる仕掛けがある。観念しろ」


「こんな事が・・・こんな奴らに人間如きが精霊を滅ぼす力を得たと!?」


絶望に沈むウェンディゴの背後にジャージーデビルが現れる。


「それじゃお前の細胞頂くぜ」


そう言うと彼の肉片を一部切り取ると同時に消える。


直後ミサイルの爆炎と共に放出された赤い光がウェンディゴの体を鈍い鉛色の金属状に変え、続けてメタルランチャー、バルカン砲の実体弾とビームの嵐がその巨体を跡形も無く粉砕した。


濛々(もうもう)と立ち込める煙を背後にカノンボアと分離したマルスはレジリエンスと握手を交わす。


「改めてお前を敵に回したくないよ」


「お互いにね」


互いに表情は判らないが笑顔だろうと確信していた。


(こういう日がいつまでも続くと良いんだけど)


その様子をトレーラーのモニターで見ながら笠井恵美はそう思うのだった。




「合体の必要性があるのかという疑問はともかくこれをどう説明しますかね?」


ティブロンはマルスの攻撃で10メートル四方の更地を見て言った。明らかに過剰戦力であると見られかねないとその眼が言っていた


「貴方の最初の意見には賛成ですがね。それが私の仕事ですよ。では上の連中の説得に行くのでこれで失礼」


「ロマンですよ!やっぱりビジュアルが大切ですよ。説得にはね!」


合体機能を強行した古川のはしゃぐ声を珍しく肯定しながら黒川は本部を後にするのだった。

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