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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第43話 再起の為に

「何故止めを刺さなかった」


文明存続委員会本部の一室で黒川博士は帰還した息子のケイを詰問する。


ケイは黙ったまま答えない。


「UMA共が人間に近い姿を取るのは人の悪意を学習しているからと教えたはずだ」


「全てがそうじゃない」


「今回はそうだ」


黒川はケイの反論を短く制す。


「仮にお前の言う通りだとしても、後ろにいた市バスの乗客の命を危険に曝したのだ。全ての生命を守れる程の力は我々にも芹沢達人にもない」


「でも助けを求めている人間を見捨てる訳にはいかない。それも何の罪もない人達を」


父親にケイは反論する。


今までもマルスの力に浮かれていないとは言えない。


だが今やケイにとって人間を守るという信念は一種の呪いの様になっていた。


「芹沢達人の方がその辺は理解しているな」


黒川博士は息子の隣に立っていた芹沢達人に目を向ける。


「割り切れというんですか。守れなくても仕方ないと?」


突然黒川から賛辞とも皮肉にも取れる言葉を受けた達人は困惑しつつも


「割り切ってはいるつもりは無い。被害を少しでも減らせるならと俺はここに来た。それが失敗した俺達が守れなかった道夫君と彼の父親に報いる唯一の方法だ。でなければ死んでいった者達の無念を晴らす事は出来ない」


「人間以外も守るという達人さんはそれでいいかもしれない。その為なら人間と敵対するのも厭わないんですからね」


「だがな、命に誰も責任を持つことは出来ない。自分自身でさえもな。だから戦う者には覚悟が必要なんだ。お前にはその覚悟があるのか?この先人間の姿をした怪物に惑わされずに倒す事が出来るか?人類を守るために」


達人の問いにケイは答えられなかった。


ただ黙って部屋を出た。


「では、ウェンディゴの対策についてだが」


「なっ!?引き止めなくていいんですか?達人君も」


間違いなく止める為の必要なケイの不在を気にしていないかのような黒川に笠井恵美が抗議をする。


「今は何を言っても納得しませんよ。俺もそうでしたから。結局の所周囲の人間はきっかけを与えるだけで再起するのは本人次第です」


「でも」


「笠井さん、俺に出来てあいつに出来ない訳はない。あいつは俺の戦友でライバルだから」


(男って・・・・)


面倒な生き物だと笠井は思う。時に突き放す事が信頼の証だと思っているのだから。


「話を進めるぞ。ウェンディゴの本体たるあのエネルギー体をどうするか。これに尽きる。方法は2つある。一つはエネルギーを物質に変換してしまえばいい。達人、お前が融合する時に仲間のUMAの体を金属状に変換するあの方法だ。もう一つはかなり困難が予想されるがエネルギー体諸共消滅させるやり方だ」


「そして断っておくがエネルギー粒子が少しでも残っていればそこから再生される危険がある。奴の生み出す眷属は手駒であると同時に奴の栄養ドリンクも兼ねているから、どの道全てのウェンディゴを抹殺する必要がある」


黒川の説明にティブロンが補足を入れる。


「分かった。俺に考えがある」


「良かろう。こちらは監視を密にする。連絡をいつでも取れるようにしておけよ。全く人間を同化させ操るとはブラックウッドの小説そのままではないか」


達人の作戦を了承した黒川博士は呻くようにマルスの新装備・カノンボアの仕様変更書に目を落とす。黒川博士にとってこれこそが本命だった。



(俺には覚悟が足りないのか)


ケイは答えの出ないままフラフラと市街に出ていた。


事件の影響で閑散としているがそれでも食料品その他を求めて外を出歩いている人は多かった。


(レジリエンスと同様の魔法の力がマルスにあれば)


無い物ねだりとは分かっていながらも不満と無力さが溢れ出してくる。


それは同時に芹沢達人に対する嫉妬や憎悪も芽生えさせる。


ケイはそれに気づき更なる自己嫌悪に陥る。


「どうしたの?ひどい顔してるけど」


柏木英輔が声を掛ける。


彼は両手に大量の荷物を抱えている。


「君も人の事は言えない顔していると思うけどね」


ケイは無理に笑って同級生に言った。


「まあ、ちょっとね。居候が2人も増えちゃって。その買い出しにね」


「ここで会ったのも何かの縁だ。僕も手伝うよ」


「そんな悪いよ」


「いいんだ。体を動かしたい気分なんだ」


英輔はこの同級生の正体を知っている。本人が言っていないにもかかわらず。


その罪悪感と同居人の正体がバレれば彼らの命を脅かしかねないという危機感があった。


襲撃以来ホテルを追い出された例の2人(2匹)は英輔の家に転がり込んだ。


態度は相変わらずだが、英輔は2人に恐れより親しみが上回り始めているのを感じていた。


それは何度も助けてもらったという事と人間と大差ない感情を持っている事が分かってきたからだった。


しかし本格的に鍛えている人間に敵うはずもなく強引に荷物を分担することになる。


「ここか。いい家だね」


「普通だと思うけど」


その時玄関の扉が勢いよく開いて


「遅い。早う上がれ」


白井良子を名乗るグローツラングが不機嫌そうに手招きする。


「ここ俺の家なんだけど」


「知っておる。そして妾の家でもある」


「柏木君。お節介かもしれないがこういう人間を家に入れるのは感心しないな」


「でも良いところもあるんだよ、これでも」


そんな会話をしながら居間に入ると座っていたタキが立ち上がる。


それを良子は手で制して椅子に腰かける。


「あれほど注意せよと言ったのをもう忘れたか」


「友達を無視する訳にもいかないだろ」


「柏木君、まさかこいつの正体を知っているのか?それを承知で」


「実はそうなんだ。でも悪い奴じゃないんだ。まあ見た通り変人ではあるけど」


「妾は確かに対等の関係で良いとは言ったが、遠慮が無さすぎではないかエイスケ?」



そしてケイに向き直りその顔を見つめる。


「そなた、悩んでいるな。そういう奴には妾は倒せん。いかにお主が強かろうともな」


「あんたに何が分かるんだ」


「分かるとも。人間を守ると言いながら助けられない事。違うか?そして人間の悪意を知りそれが信念を揺るがしている」


「それを何で・・・まさか」


「そうとも。人間の言う所の魔法よ。それで心など簡単に読める」


「やはり危険だな。お前を友達の近くに置いて置けない」


「それで良い」


「何だと?」


ケイは毒気を抜かれて良子を見る。


「その思いで十分ではないか。出来る限りの範囲で身近な人を守る。ただし志は高く持て。数百年前の誰かは忘れたが『一国を制すには世界を統べる気概がいる』とな」


「全ての人間を守る覚悟が無ければ身近な人も守れないというのか」


「そういう事よ。言っておくが妾などより今話題のウェンディゴの方が質が悪いぞ。あちらはまさに手あたり次第、無機物とも節操なく融合できるからな」


「とりあえず今は見逃してやる。柏木君に何かあればその時は容赦しない」


薄笑いを浮かべる良子にケイはそう言って立ち上がる。


「柏木君、また学校で」


「あ、ああ気を付けて」


「君もな」


ケイは柏木邸を後にする。


不思議と心は軽かった。そうなると自然と当面の驚異たるウェンディゴへの対応策が浮かんでくるのだった。


異世界某所


ジャージーデビルは苦痛に呻くウェンディゴを見つけ声を掛ける。


「よう、精霊級ってのはそんなもんかい。それとも油断があったか?これでも食って元気出せよ」


そう言ってウェンディゴの前に瀕死のリザードマンによく似たUMAを投げる。


それに憑依し取り込むウェンディゴ。ややあってリザードマンはくすんだ金色のゴリラに似た姿へと変わる。


「負けはしないが、向こうに居られるのは5分そこらで、タイムリミット内に連中を殺すにはもっと強い奴に取り付く必要があるってか?おっと俺は勘弁してくれよ」


「まだその心配はしなくていい」


しかしウェンディゴがジャージーデビルを見る目は獲物を見つけた猛獣の物だった。


「俺はレア物かもしれんが強くない。上級UMA狩りでもしないか?もしくはあのマルスって野郎を取り込むのでもいいかもな」


「居場所が分からない」


「心配するな。ちょっと姿を消しておけ」


そう言ってウェンディゴが粒子化して暫くすると


「探しましたよ、ジャージーデビル。ウェンディゴを解放したのはあなたですね」


フライング・ヒューマノイド、イエティ、ナウエリトが現れた。


「こいつは1軍団を率いてレジリエンスに返り討ち、求心力の低下も甚だしいフライング・ヒューマノイド先生じゃないか。おかげで過激派が好き勝手やっているぜ」


「その筆頭はあなただと思いますがね」


相手の挑発には乗らず淡々と話すフライング・ヒューマノイド


「そうか。では俺が何を考えて突っ立てるかわかるか?」


「大方ウェンディゴの能力を吸収するつもりと見ましたが」


「違うな。お前らみたいなウザイ奴をまとめて始末する為だよ」


ジャージーデビルの声と同時に生温かい風が吹く。


「ウェンディゴが来るぞ」


「凍らせてしまえば動けまい」


ナウエリトの声にイエティが冷気の渦を周囲に放つ。


「イエティ、それはいけません」


フライング・ヒューマノイドの静止と共に周囲に稲妻状のエネルギーが発生する。


「邪魔をするな。俺は人間の土地を分捕って俺達の国を創る。それが手っ取り早いと学ばせてもらった」


ウェンディゴは金色のつむじ風のまま唐突に宣言する。


「俺達を吸収しなかったのはそんな事を表明する為か?」


ナウエリトの言葉には明らかに呆れの感情が込められていた。


「そうだ。今の世界は人間共の支配する世界だ。そこで俺達が生き抜くためには奴らを従わせる以外にない。それも奴らの流儀でな。俺達の数が増えれば連中も無視できまい」


「力を示せば従わせることが出来ると?忠告しますが以前私はそれをやって失敗しているのですよ。もちろん貴方は封印されていましたがね。いいですか?人間は愚か者と賢い者それぞれいてそれで種族全体の調和を保っています。つまり貴方の考えているようには事は運ばないでしょう。何よりレジリエンスとマルスがいる限りはね」


フライング・ヒューマノイドのその意見はイエティとナウエリトには散々聞かされていた物だった。数十年前にヨーロッパという地域で毒ガスで死にかけていたある人間の若者の憎悪を読み取ったフライング・ヒューマノイドがその人物になり替わり一国の指導者として戦争を引き起こし、人類を破滅を計画したがそれは様々な要因で頓挫したというものだ。

「それは承知の上だ。だが計画完成の暁には真っ先にお前らを血祭りにあげてやる」

そう言うとウェンディゴは現世へと向かった。


「今後の事も考えると最悪レジリエンスと共闘することも考えなくてはね」


「今後?まだヤバいのがいたか?」


「ええ。ある意味ではウェンディゴ以上の者が数名ね」


フライング・ヒューマノイドは嘆息して赤黒い空を見上げた。


ジャージーデビルもすでにどこかへ姿を消していた。彼はこういった思想を最も嫌っていたのである。


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