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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第41話 守るべき命(後編)




 猫型UMA翼猫は元はただの黒い野良猫だった。


それが逆木や町屋らの不良グループの『遊び』で虐待されていた。


首を針で刺された時彼の生存本能と人間への怒りからUMAとなったのだった。


偶然その場に居合わせた芹沢達人がそれを目撃し、彼は翼猫に関係のない人間を巻き込まない事と復讐対象の命を奪わない事を条件に義憤から彼の復讐を見守る形となった。


マルスの攻撃から逃れる最中翼猫は復讐心の影響か普通の黒猫の姿に化けるという新たな力を身に付けた。


その姿で住宅街の塀の上を歩いていると逆木や待屋とは別の、自身を傷つけた人間の1人を見つけた。


その男は仲間と馬鹿笑いしながら歩いていた。


男が仲間と別れ一人になるのを見た翼猫は彼の前に先回りした。


そして一声鳴いてその姿を現す。


「ン、猫か。黒猫って縁起が悪いんだよな。逆木も入院したって聞くし」


男は目の前の猫がまさか自分達が痛め付けた復讐に来ているなど毛程も思っていない。


そもそも目の前にいる猫がそうであるとも気が付かなかった。


だから翼猫が本性を現し、彼に襲い掛かってもその理由が自分にあるとは全く判らなかった。


男は爪で顔面を切り裂かれながら必死に住宅街を逃げる。


彼は背後から呪いの様な鳴き声を聞きながら大通りに出る橋を渡ろうとした。


背後から翼猫は針を口から吹き出す。


針は男の左足に突き刺さり、男は痛みから足を踏み外し橋の下の川に落下していった。


その無様な様子をせせら笑う翼猫は自身の体から粒子の様に立ち上る自分の細胞を見てふと思う。

これだけでは割に合わない、と。思えば彼らは他の猫にも同じ事をしていた連中だ。ならば自分と共に立ち上がる猫達もいるはず。


残された寿命から次第に人間全体への復讐へと突き動かされる翼猫はその思い付きを実行に移すべく闇夜へと消えた。



その翼猫を探すレジリエンス=芹沢達人はチリン、と鈴の音の方へ首を向ける。そこには先日グローツラングの居所を教えてくれた托鉢僧が立っていた。


「あんたか。すまないが、あんたの話には乗れない。あの女が何か悪事を働かない限りはな。悪いが先を急いでいるんだ」


「残念。したが悪鬼と拙僧の戦いに介入無用としてもらいたいものじゃて」


「ああ。第三者を巻き込まない限りはな。個人の復讐にまで口を出す権利は俺には無い」


そう言って達人は夜の町を駆ける。そしてある家の屋根の上で翼猫を見つけたのだった。


「大丈夫か?」


心配するな、と言いたげな鳴き声を上げる翼猫。その体から立ち昇る粒子は最初見た時よりも多くなっていた。


「最初にも言ったがお前の個人的な復讐には協力するが関係の無い人間も猫も巻き込むな。その約束を守ってくれる限りは俺も協力する」


「ワカっている」


嘘をつくのはこうも簡単な物か、と内心翼猫は思う。これがあるから人間は信用できないのだ。


「後3人か?お前を襲っていたのは」


「ソウだ。ヒキ続き頼ゾ」

そう言うと翼猫は身を翻して闇夜に消えた。



翌日


逆木は昨夜遅く重傷で運び込まれた男を見て驚きと恐怖を一層強くした。


「馬鹿を言え。猫が人間様に復讐するなんざ迷信もいい所だ。あれは別の猫だよ」


襲われた男は逆木や待屋の復讐猫の話をまるで信じなかった。


重傷を負った男が疲れから眠ってしまった後


「おい、どうするよ。このままじゃ俺達」


逆木は完全に怯え切って窓の外の景色から目を離せなくなってしまっていた。


「慌てるなよ。この町には怪物退治の専門家がいるんだ。俺は昨日そいつ会ったんだ」


「本当か」


待屋の言葉に少しだけ安堵の表情を見せる逆木


「ああ。俺が狙われているのは向こうも知っているはずだ。だからよ、あいつらの仕事をやりやすくしてやろうと思うんだ。横田の言葉じゃないが人間様に逆らうとどうなるかも猫共に教え込んでやる」




待屋達が不穏な会話を交わしているのと同時刻


黒川ケイが八重島家を訪ねてきた。達人の真意をどうしても確かめておきたかったのだ。


転校生の突然の来客に驚く八重島紗良に


「芹沢達人さんはいますか」

耳にかけているレシーバーを外しながらケイは尋ねる。


「達人なら今かあさ、母の手伝いをしているけど。今度の事件の作戦会議か何か?」


紗良は本人からそんな話を全く聞いていなかった為、首を傾げつつ彼を呼びに行く。



「盗聴の心配はありません。聞かせて下さい。あなたは必要なら、あの子達にも昨日の奴と同じ目に合わせるんですか」


達人にあてがわれている部屋に入るなりケイはそう言った。


「まさか」


達人は答えながらケイに一つしかない椅子を勧め自身は床に座る。


「狙われた奴らは俺達と同じくらいかそれより上の齢だ。物事の善悪の判断がついて当然の奴らとそういう事をこれから学んでいく子供を同列に扱うのは酷だろうが。最も度が過ぎれば対応は変わってくるけどな」


「あなたの境遇には同情はしますよ。だから人間に必要以上の親しみが持てないというのも理解できるつもりです。ですが怪物共を守るという事がどんな悪影響を及ぼすかはよくご存じのはずだ。それが達人さんの言う理不尽を生む

可能性が無いと言い切れないでしょう?」


「そうだな。そこが問題でな。考えても答えはいまだに出ていない」


「なら」


「だがケイ、人間全てが善人で無いようにUMAも全てが悪じゃない。前にも言ったが俺は人間含めた地球の生命全てが等しくバランスできる世界ができると信じられるようになってきたんだ。それはあらゆる理不尽を超えた先にあると思っている」


「人間の今の状況が正しいとは僕も思いませんがね、それを認めることは人間の生存圏の大幅な縮小を招くと思いますよ。あなたの言い分を認めると人間は必要最低限の資源消費しかできない以上文明の後退や消滅もありうる。動物や植物にまで人間並の権利を与える事の危険性もね」


「それが人類だけを守るマルスを造った理由か。お前達文明存続委員会ならエレメンタル・エナジーを実用化して環境問題に貢献できるのにそれをしないのは何故だ?人間が地球の支配者だという意識が無くならない限り恐らくUMAは出現し続けるだろう。危険だと思われる存在を全て抹殺した先に人類の幸福も未来もないと思うが」


「あのさ、お互いこれでも飲んで落ち着いたら?」


ドアの外で待っていた紗良が堪り兼ねたように部屋へと入ってくる。


そして2人の間にドン、とジュースの乗ったお盆を置いて2人を交互に見ながら


「結局2人はお互いをどうしたいのよ?」


「僕は達人さんにレジリエンスの力を人間の利益の為だけに使って欲しいだけだよ」


「俺はケイにも委員会の連中にも考え方を変えてもらいたいだけだ」


「ならまだるっこしい事言わずそう言えばいいじゃない」


「確かにな」


「どうもお互いに父さん達の悪い所を知らず知らずの内に学んでいたようですね」


互いにジュースを一気に飲み干すと


「こうしよう。俺は人間を含めた地球を守りたい。だがその為に人類に敵対的な行動もとるだろう。以前にもやり過ぎだと判断したらその時は殺してでも止めてくれ」


「僕は人類を守るために戦いますが、あまりに身勝手だと思ったらそちらが止める。それ以外は協力関係を結びましょう」


「えーと、和解成立でいいのかな」


 困惑する紗良に


「そうだ。紗良のおかげだ」


「なるほど。確かにオブザーバーの力は侮れませんね」


達人とケイは紗良に感謝の言葉を述べる。


「そ、そう?ならよかったけど」


その時外から猫の鳴き声と怒号が聞こえてきた。



待屋は自分の所属するグループの残りメンバーをかき集め『猫狩り』を開始した。


残りのメンバーは半信半疑であったが襲われた仲間の敵討ちと聞かされて協力した。


そして目につく猫が野良か飼い猫かを判別せず手あたり次第に殴りかかったり、手にしたエアガンで撃ち始めた。


その人間と猫の一団は八重島家のある区域にやってきた。


「オラァ、人間様ナメンなよ!!」


「おい、これ以上に面白いモンが見られるって本当かよ」


逃げ惑う猫を見ながらメンバーの一人がニヤついた顔で待屋に尋ねる。


「ああ、いい加減出てくると思うけどな」


そこに八重島家を飛び出した達人とケイが割って入った。


「お前達、まだ懲りてないのか」


「お前この間邪魔した野郎か。待屋、こいつの事か?」


「うんにゃ違う。だが借りを返す相手だってことは違いねえ」


待屋達が達人とケイを取り囲む。


「数が多いがやれるか?」


「勿論。そっちもやり過ぎないようにお願いしますよ」


「何をゴチャゴチャ言ってやがる!」


男の怒号と同時にケイのスマホが鳴り、それをケイは取る。


「ケイ君、今そこに近づいているUMA反応があるわ。何かに呼び寄せられるみたいに」


「例の猫が来ますよ」


ケイは達人に小声で伝えると大ジャンプで虐待グループの輪を飛びだした。


達人も杖を取り出すとレジリエンスの箱を呼び出すと同時にその中に入り鎧を装着した。


達人が再び外に飛び出すのと同時に一際大きな猫の鳴き声が空の上から響く。


逃げ惑っていた猫達は足を止めて翼猫に反論しているような鳴き声を一斉に返す。


尻込みする同胞を奮起させようと翼猫は猫の集団の許へと降下するが、彼らは翼猫のエレメンタル・エナジーに当てられて呻き声を上げて黒い霧となり消滅していく。


「な、なんだこいつら!?急に消えやがった!?」


突然の事態に虐待グループのメンバーが悲鳴を上げて後ずさる。次は自分達だと悟ったのだ。


「おい、正義の味方だろうが。何とかしろ」


待屋が怒鳴りながら隠し持っていたエアガンで猫を撃ち始めた。


「やめろ。これ以上彼らを刺激するな」


「お前の代わりにやっているんだろうが。むしろ感謝して欲しいぜ」


その待屋に向かって翼猫は急降下しながら襲い掛かる。


待屋は悲鳴を上げながらエアガンを乱射するが弾は全て翼猫の体をすり抜ける。


この時ようやくケイがマルスの装甲服を装着し戻ってきた。


「・・・俺がやる。こうなったのは俺の責任だからな」


彼らを守る為空中にいる怪物にマルブラスターの照準を合わせるマルスを制したレジリエンスは翼猫へとゆっくりと近づいていく。


「こうなるからお前の復讐に他の猫達を巻き込むなといっただろう。やるなら一人でやれとな」


「オマエタチにんげんはザンコクだ。だから猫のコンゴのタメ二テッテイテキに痛めつけてオクコトにシタ。

タトエ同族からのサンドウをエられなかったとしてもダ」


「・・・・そうかあの猫達はそう言っていたのか。だが分かっただろう?今のお前はもう普通の体じゃない。彼らもこれ以上の凶行はしないだろうし、俺達がさせない。だから」


だがレジリエンスの説得に耳を貸すつもりは無い翼猫は首のマフラーをはためかせて彼の後ろにいる仇へ飛び掛かる。


(駄目だ。怒りで完全に頭が血が上ってしまっているか)


レジリエンスは炎の剣フレイムキャリバーを杖先に展開し振るう。だがその剣は空を切る。


「消えた!?いや変身したのか」


翼猫は元の黒猫の姿に戻り杖を蹴り、次いで塀を三角飛びの要領で跳ね回り、一瞬で待屋達の目の前に躍り出る。


「ヒ、ヒィィ―!!」


恐怖のあまり尻餅をついた為その突進を幸運にも回避できたが翼猫の視線の先に突然犬を連れた子供が現れた。


「しまった!」


子供を守る為マルスがマルスブラスターを引き抜こうとした。


この子供は間が悪い事に現場が混沌の最高潮に達した時に散歩から帰ってきたのだった。


人間への怒りに支配された翼猫は何の関係も無いこの子供に飛び掛かった。だが、ブラスターの狙いを定めたマルスいや、その場の誰もが驚愕する出来事が起こった。


主人を守るべく犬が一瞬にして巨大な犬となり翼猫に飛び掛かかりその喉笛に嚙み付いた。


「人間を守るためにUMAになったのか、あの犬は」


呆然とするマルスのヘルメットの通信機から


「ケイ、あの犬もUMAとなった。どんな字事情があれUMAと人は共存できない。処分せよ」


マルスの通信機に黒川博士の無情な指令が入る。


「できないよ。父さん、あの犬は人間の為にUMAになったんだ。人間の為に行動する物を僕は撃つことは出来ない」


息子の思いがけない反抗に文明存続委員会本部のモニターからその戦いを見ていた黒川博士は


「笠井君、止むを得ん。マルスの自動防衛システムを作動させろ。あのUMAドッグマンは殺処分せねばならん」


黒川博士の言う自動防衛システムとは本来は装着者が意識を失う等の危険な状態になった時その命を守る為に搭載されたAIが代わりに戦闘を続行する物で、これは外部から操作することもできた。そのAIとはあらかじめ設定された敵、探知範囲内にいるUMAとレジリエンスを排除するまで止まる事の無い殺戮マシーンへとマルスを変貌させる危険性も備えていた。


「それは・・・博士、ケイ君を、息子さんをもっと信じてあげて下さい」


笠井恵美の抗議にも黒川博士は眉1つ動かす事は無く、先ほどの指令を繰り返そうと口を開くが、モニターの様子を見て別の言葉を掛ける。


「そうだな。その必要はなさそうだ」


モニターには、翼猫からドッグマンを引き剥がすレジリエンスが映し出されていた。




「もう主人を狙う奴はいない。落ち着くんだ」


レジリエンスの言葉を証明するように既に事切れた翼猫が灰色の粒子となって消えていく。


同時にドッグマンの体からも同じ粒子が急速に立ち昇り始める。それは急激な体の変化に耐えられず、ドッグマンの寿命が近い証だった。


「ようやくメデタシメデタシ、ってわけか」


「そんな訳があるか。お前達のせいでこの少年と犬は永遠に別れなければいけなくなったんだぞ」


レジリエンスが怒りに震える声で待屋に言う。


その視線の先で少年とドッグマンが最後の別れを交わしていた。


「じゃあ、もうベスとは会えないの?」


「ベスはね、君を守る為大きく強くなったんだ。その代わり一緒には暮らせなくなってしまったんだ。でも君がまた

危険な時に駆けつけてくれる。君たちは親友なんだろう?」


真実を言うべきか否か。迷った末にレジリエンスの口から出てきたのは噓の方だった。真実を悟らせないように声を震わせないように出来るだけ優しい口調で。


「うん」


その少年の言葉に応えるようにドッグマンいやベスは一声鳴くとレジリエンスと共に異世界へと消えていった。


彼が最後の瞬間を静かに迎える場所を探すためである。


「あれを見てお前らは何とも思わないのか?人間らしさが残っていない怪物は、そうだお前達も汚染されているはずだな。なら」


マルスはヘラヘラ笑っている待屋達にブラスターを向ける。相手が人間であるという警告音がヘルメット内に木霊すがケイはそれを無視した。


「ひいいいっ、行くよ警察に行くよ。自首するよ」


そう言って一目散に逃げていった。


マルスは警告音が消えても彫像の様に彼らが去った方向に銃を向け続けていた。



新聞の片隅に今回の事件に関与していた逆木らも入院先で逮捕されたという記事が載っていた。


その記事を見ながら


「何故敵を倒さなかった?UMAが人類の敵だと散々教えてきたはずだが」


「姿形は違えど人間の為に戦う同士と思いましたので」


黒川博士の叱責にケイはそう返した。


「馬鹿な。UMAは家畜ではないんだぞ」


「まあまあ黒川博士。ケイ君の指摘は興味深いではないですか。UMA共を生物兵器として使役できれば人間側の人的損失は少なくて済む。研究し甲斐のあるテーマだと思うが」


ティブロンがケイへの助け舟を出す。


「守るべき命にも優先順位がある。それを忘れるな」


黒川はそう言って部屋を出ていった。


「しかし、博士の言う事も一理ある。全てを守れるほどの力は我々にはないからね」


「分かっているつもりです」


「よろしい。期待しているよ、マルス」


1人残されたケイは机に放りだされた新聞記事を見る。


「本当に守るべき命はどれだったんだ?」


その呟きに答える者はいなかった。


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