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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第40話 守るべき命(前編)

本エピソードはショッキングな場面があります。作者はこれらの行為を推奨する意図はもちろんありません。ご了承ください。




 「おはよう。あれ?達人は?」


「もう朝早くからお父さんと同じタイミングで出かけたわよ」


寝ぼけ眼の八重島紗良がリビングに降りてくるとこの家の居候である芹沢達人の姿が見当たらない事に気が付いた。ここ最近はトレーニング以外では部屋に引き籠る事無くここで過ごすことが多かったのだ。


「ハア。また女の人探しねぇ」


「別に告白しようってわけじゃないんだから、妬かないの」


「違うってば」


頬を膨らませる娘を微笑ましく思いながら梓はトースターからパンを引っ張り出す。


「ほら、朝練に参加するんでしょう?きちんと食べていかないと」


「分かってる。頂きます」


(何が世界の命運を握る、よ。真相が分かったらキッチリと説明してもらわないと)


「今日バレーの助っ人だから遅くなる」


「はい。いってらっしゃい」


行ってきますと言って紗良は玄関を飛び出した。




レジリエンスの鎧を着こんだ芹沢達人はf市の駅舎の上から人込みを観察していた。


(サンダーバードが言うにはこの間俺達を助けた謎の現象はグローツラングの物らしい。ならf市のどこかに潜伏しているはずだが)


そろそろ正午になるが以前聞いていた、特徴的な髪形と服装の女性は見当たらない。


(やはり、金持ちは電車やバスは使わんか。ならば)


レジリエンスは頭を巡らしてタクシー乗り場を注視する。


そこには今時珍しい托鉢僧が立っている他はタクシーから出てくるのはサラリーマン風の背広を着た男性ばかりだった。


「ム?」


一瞬その托鉢僧がこちらを見たような気がした。気のせいかと思っているとエレメンタル・エナジーによって機械的に強化されたレジリエンスの視力はその托鉢僧の口が『こちらへ来い』と動いているのを見て取った。


(罠か?だが手掛かりが無い以上は乗ってみるか)


達人は駅舎の屋根を降りると人目のつかない所で鎧を脱ぎ、タクシー乗り場に向かった。



「芹沢達人殿、悪鬼奴を成敗なさいまするか?」


托鉢僧は近づいて来た達人にだしぬけにそう言った。


「その悪鬼とやらが俺の追う奴と同じだとしてあなたにどんな因縁が?」


達人は出来得る限り言葉を選んで問い返した。


「あの悪鬼奴は我が一族の秘宝を奪い申した。しかし拙僧の力では奴には敵い申さぬ。したが達人殿貴殿の力添えあらば、と」


「俺はあなたも、俺の追う奴の事も良く分かっていない。だから即答は出来ない」


「・・・・・ではこの町の悪鬼のねぐらを教え申す。その上でどうなさるか返答をいただきとうござる」


達人は礼を言うと僧が教えたそのホテルへと足を向けた。


そのホテルは駅の南口から10分ほどの場所にあった。


入口には場違いなタンクトップを着たヤンキー風の男が1人壁に背中をもたれている。


痣だらけの2人のガードマンは何故か自動ドアの向こう側にいた。


(こいつよりはマシな服装と思いたいが)


達人は自身の服装を見て場合によってはつまみ出される覚悟で入口の自動ドアをくぐった。


「どういうご用件で?」


ガードマンの1人が達人を呼び止める。幾度との戦いですり切れた上着とズボンを履いたボサボサ髪の男は事情を知らぬ第3者からどう見ても不審者にしか見えない。このガードマンは2時間ほど前にそこに居るヤンキーに手も足も出ずに体もプライドも叩きのめされていて、プライドの方はこの新しい侵入者を追い返す事で癒そうという魂胆だった。


「妾の客じゃよ」


達人の後ろから声が掛かる。


それは彼が探し求めていた女性の風貌と全く同じだった。違うのは後ろに大量の荷物を抱えた2人の男がいることくらいだ。


「ハ、ハア?それではごゆっくり・・・!?」


驚愕に目を見開くガードマンの視線を追った達人の目はそこに海蛇型上級UMAナウエリトを捉える。ヤンキー風の男の正体がこれだったのだ。達人は即座にレジリエンスの鎧の入った金属箱を召喚し、中に入る。


「お主もしつこいな。今日はこの男と話があるのじゃ。邪魔するでない」


若いボーイ風の男を後ろに庇う形で前に出た女性、白井良子はナウエリトを睨みつける。


「そうか。なら奴を倒せばいいわけだな」


全く見当違いの結論に達したナウエリトは箱から出てきたレジリエンスに左腕の高周波ランサーを向ける。


「はっきり言わぬと分からぬか?妾はお主の様な男は嫌いじゃというに」


「グハッ!だがいいぜ。そう来なくっちゃ面白くない。命拾いしたな、レジリエンス」


見えない言葉の矢に射貫かれたようにナウエリトは胸を押さえると次元の穴へと消えていった。


「何だったんだ一体?」


幾度も干戈を交えた仇敵のあまりの変わりように戸惑いながらも達人は鎧を脱ぐ。



「まあ座れ。一応挨拶はしておこうか。妾は白井良子。他の者共はグローツラングと呼ぶがな」


ホテルの自分の部屋へと戻った女性は達人を招き入れると豪華な椅子に座り彼と対面した。


「俺は芹沢達人。単刀直入に聞こう。双子の宝玉を今持っているのはあんたか?」


「いいや。あれはンデキデキが守っていて手が出せぬ。封印とやらもあるでな。仮に封印を解けるとしてもあれには興味はない、と言っても信用するかはそちら次第だが」


「封印?何を封印しているんだ?」


「さあな。それは興味ないのでな」


心底興味無いといった風に良子は欠伸を噛み殺しながら答える。その様子に達人も本当の事だろうと思う。彼女はそれらしき色の宝石を身に着けていない。それは少なくとも彼が伝え聞く装身具の収集狂ともいえるグローツラングの性格上あり得ない話だと思った。この手の物は他人に見せびらかして初めて価値を発揮するからだ。


「興味があるのは」


良子は血の様に赤い指輪を人差し指から抜いて翳す。


「これくらいの小さくて妾の好奇心を刺激する色を持っている物じゃな」


「それが他人の家宝でもか」


「そうとも。随分調べたな?それともそそのかされでもしたか?ま、何が大切かは人それぞれじゃ。この問題に関しては放っておいてもらおうか。決闘で奪った物ゆえ向こうも了承済みと思うておる。それともお主は再戦の代理人か?日は改めてもらおう。今日は忙しい」


良子はくッくッと笑いながら指輪を嵌めなおす。


「宝石探しか?」


「それが妾の生きる理由よ。お主にもあるじゃろう?」


「俺は理不尽を齎す者全てと戦う。2つの世界の為に」


「その戦いは終わらんな。何が理不尽かは人によって違うゆえにな。もっと俗物にならぬと身を亡ぼすぞ。それとも」


良子はその妖しい赤い瞳に自身の顔が映る程の近さにまでグッと達人に顔を近づける。


「理不尽の一つとして今妾を討伐するか?」


後ろの禿頭の男が前に出る。もう一人の若い男はおろおろするばかりだ。


「いや。あんたは嘘は言っていない、と思うし昔はどうか知らんが今のあんたはそれほど危険だとは思えない。この先対立するなら話は別だが」


「フ・・・妾は気紛れじゃぞ?昨日助けた者を今日殺す気にもなる位のな」


「なら今のあんたを信じるとしよう。それと奪った物は返すんだな。余計なトラブルは無いに越したことはないだろう」


「良かろう。その直言に免じて一つ言い伝えを話してやろう。向こうの世界の山の山頂に世界を作り変えるほどの力を持つという宝玉があるという。もっともそれが本当に存在するかは眉唾ものだがな」


「・・・・・・そうだな。それだけの力ならもう誰かが取ってしまっているだろうな」


達人は立ち上がる。これ以上の会見は無意味だと悟ったのだ。


「情報の提供には感謝する。出来ればお互い関わらないのが一番だ」


「そのようだな。まあやれるところまではやってみると良い」



(理不尽は人それぞれか)


ホテルを出た達人はその言葉に考え込んでいて知らない道に入りこんだのに気が付いた。元来た道を戻ろうかと思った時路地裏から猫の鳴き声と数人の男達の笑い声が聞こえてきた。


脳裏に閃いた嫌な予感に従い近づいて見ると、果して輪になった男の1人が他の男達が押さえつけた黒猫の首に長い針の様な物を刺している最中だった。


「やめろ!何をしているのか分かっているのか?」


「ああん?今良いところなのによ。ケッ、お前マジダリーわ」


「コイツにぶっさそうぜ」


男の1人が別の針を取り出しながらニタニタ笑う。良いねえという賛同の言葉と共に男達は達人を囲むように動く。


「おい伏せろ」


「ああん?何言って」


人間への怒りと絶望ともいえる叫びとエレメンタル・エナジーの波動を放射しながら黒猫はその姿を変える。


そのエナジーを受けた2人の男は黒い霧となって声も上げずに消滅した。


「うわワッ、に、逃げろー!!」


「おい、待て!うっ」


狂乱の黒猫、猫型UMA翼猫は手近な達人へ口から針を放つ。


達人はレジリエンスの鎧を装着すると翼猫の攻撃をあえて受け続ける。翼猫の爪も牙もレジリエンスの鎧に全て弾かれ続けるだけで乾いた反響音が周囲に木霊すだけだった。悲痛な鳴き声を上げる翼猫はもはや意地のみで腕を動かしているだけだった。

「お前さえよければ、その復讐を手伝ってやる。あいつら以外の人間を害さないという条件でだが」


達人はその両腕の動きが止まり、ズルズル膝をつく翼猫の細かい粒子が立ち上る腕を取って立ち上がらせるとそう言った。





藤栄高等学校の放課後


「よーし、もらっ、た!」


レシーブされたボールを紗良は相手コートへ叩きつける様にスパイク。それがその試合の決め手となった。

逆転勝利という事で歓声も一際大きい。だが次の言葉が得意げな紗良の表情に水を差す。


「キャーケイ君すごーい!!」


見れば観客席も試合が終わったバレーボール部員たちも隣のサッカーコートに目が釘付けになっている。


「うわスゴっ」


それは確かに紗良も認めざるを得ない光景だった。



1人 2人 3人


運動神経を買われてサッカー部の助っ人に入った黒川ケイは相手DFを次々と抜いてゴールに迫る。


今日既に2点もケイに得点を許しているGKは警戒して身構えた。


ところがシュートと見せかけケイは近くの味方にパスを出す。


味方の鋭いシュートがゴールポスト隅に決まった。


笛が鳴り試合終了。ケイ達の勝利だった。





「誘って正解だった。次も頼むぜ」


「これでサッカー未経験ってどういうことだよ」


試合が終わり放課後のf市のファストフード店で祝勝会を開くことになったその道中。


クラスメイト達がケイへの称賛を口にする。


「がむしゃらに走ってボールを奪ってシュートしただけだって」


「謙遜謙遜。今日のMVPだからな。俺達でおごるよ」


「俺今月きついからあまり高くないもので頼む」


「お前な」


そんな他愛無い話をしているとふとケイは雑踏の中に見知った顔を見た気がした。


その彼は長い黒髪を二つの巨大な輪にして頭頂部で結って、その輪の間に冠の様な物を被ったチャイナ服の女性と一緒だった。


戒厳令解除後の反動か、いつも以上に賑わう週末の繁華街でも彼女の姿は一際目を引いた。


その側には禿げ頭の大男がいる。


男二人は女性の買い物の荷物持ちだろうか、大きな袋や箱を両手一杯に持っていた。


(まさか件のグローツラングという奴か?)


彼らを追って細い脇道に入る。


しかしそこに人間はおらず、首を怪我をした三毛猫がいるだけだった。


「どうしたんだよ」


「いや、柏木英輔君を見た気がしてね」


怪我をした猫を抱き上げながらケイは言う。


「柏木を?そういや戒厳令出たあたりからずっと休んでいるよな」


「あいつ生活費稼ぐためにバイト掛け持ちしてるんだよな。無茶しなけりゃいいけど」


「獣医って近くにあるかな?」


「こっちだ」


「祝勝会は?」


「こっちが先だ。見つけちまった以上見捨てる訳にゃいかないだろ」


不満を漏らす同級生にサッカー部キャプテンはそう言って病院への道を先頭に立って歩き出した。






「先程は危なかったな。お主、あの小僧と知り合いか?」


高級ホテルの一室で化けたグローツラング、白井良子は柏木英輔に尋ねる。


「学校のクラスメイトですよ、最近転校してきた。でも魔法で逃げる事はなかったんじゃないですか」


「知らんのか?あの小僧は先日お主も見たマルスとかいう奴の正体じゃよ」


「えええっ。いや確かにそんな噂はあったけどまさか本当にそうとは」


「あ奴は、というより奴の属している組織は危険じゃ。お主も気を付けないとしょっ引かれるぞ」


「何でです?」


「連中は俺達みたいな存在を根絶やしにしたがってるのさ」


巨漢のタキが横から口を挟む。


「そういうことでな、お主も大事な収入源を失いたくあるまい。大金も命あって初めて用をなすからの」


彼らは英輔を専属ボーイとして『貸し切り』何かと面倒を見させていた。


用を申し付ける度彼らは英輔に多額のチップを弾んでいた。


その額は英輔のひと月のバイト代に匹敵する物だった。


英輔の家の家計は苦しい。だから彼もその提案を了承した。


こうして既に2週間に渡って彼らについている内に英輔は不思議な事に巻き込まれ続けていた。だが不思議と悪い気がしないのは彼らの人柄だろうかとも思う。実際噂のレジリエンスも毒気を抜かれて帰っていったぐらいだからだ。


(もう少ししたらちゃんと皆に説明しよう)


そう心の中でクラスメイトに英輔は謝るのだった。




「これで良し。全く動物を虐める不届き者が後を絶たなくて困る」


ケイ達が連れてきた野良猫に治療を施した獣医は忌々し気に呟く。


「多いんですか、こういう事件は」


「月に数件ある。ここの所怪事件続きでニュースや新聞の片隅に押し込まれているが立派な傷害事件だよ」


「あんなかわいいネコを虐めるなんてひどい奴もいたもんだ。そいつこそ首を切られろってんだ」


「そういう事を言うのは良くない。法律ってのがあるんだから」


憤るクラスメイトをケイはたしなめる。


「お前もお人好しだよな」


別のクラスメイトは呆れた声で言った。





その夜


「ハアッ、ハアッ、畜生何で俺がこんな目に合わないといけないんだよ」


f市市立西邦学園の逆木俊哉(さかきとしや)は何者かに追いかけられていた。


直ぐ後ろから鳥の羽が羽ばたく音がする。


真っ黒なそいつは目だけを爛々と光らせ、時折唸り声を上げながらペッと何かを吐き出す


「ひイイイッ」


逆木の目の前に長い針が目の前に突き刺さる。


恐怖から逃れる事しか頭にない彼は路地を飛び出し、大通りに飛び出す。


飛び出した先にぱっとライトが照らされ乗用車が彼に迫った。



病院のベッドで逆木が目を覚ましたのは翌日の昼頃だった。


心配する家族を鬱陶しいと早々に病室から下がらせた彼は大きく息を吸うと再びベッドに横になった。


寝すぎて目が覚めた逆木は目の前にワル仲間の待屋俊平(まちやしゅんぺい)がいるのに気が付いた。


「ついてねえぜ。怪物に追っかけられて交通事故なんてな。ウチのババアはうるせえし、女医もナースも不細工ときてる」


「で、どんな奴だった?」


興味津々に待屋が尋ねる。


「よく見てねぇ。ただバサバサ羽音と目が光ってる事ぐらいか。後は・・・なげえ針みたいな物を投げるかしてきたな」


「針だと?まさか」


待屋の言いたいことを察した逆木は顔面が蒼白になった。


「そんな訳あるか!第一俺達が」


「声がでかい。誰かに聞かれたらどうする」


「そうだな。ま、聞かれてもホウリツが俺らを守ってくれるさ」


危機感のない逆木に内心呆れた待屋は遅くなる前に病院を出た。


既に空は暗くなっていた。


住宅街を歩きながら内心彼は怯えていた。逆木の次は自分だという確信があった。


帰り道風の音や虫の羽音が聞こえる度彼はビクリと周囲を見回した。


「チッ、確かにあいつの言う通りさ。俺達が痛めつけたのは猫だ。鳥じゃない。猫に羽が生えるなんてことがあるはずが・・な・・い」


その言葉が言い終わらない内に空から黒い猫、すなわち猫型UMA翼猫が彼の目の前に降りてきた。


首の毛がマフラーの様にたなびいてそれを動かして飛んでいるのだ。


あり得ない事が起こったのと猫が怪物になる前に自分のグループが何をしたかを思い出した待屋は悲鳴を上げて逃げ出した。


首の毛を羽ばたかせて翼猫が後を追う。


翼猫は口から何かを吐き出した。


町屋の右肩をかすめて電柱に刺さったそれは鈍色に光る人間の腕くらいの針だった。


「助けてくれ、助けてくれ。生きてるって事は死んでないんだろ?なら殺す必要はないだろ。俺達だってそうだったんだから」


待屋は怪物の自分への殺意を感じて半狂乱で命乞いを始めた。


そんな言葉に耳を貸さず、翼猫は自らの仇に迫る。


そこに翼猫のエナジー反応を感知したマルスがガンウルフに乗って現れた。先日同じ反応があったがすぐに消えてしまった為彼らマルスチームは翼猫の行方を追い続けていたのだった。


「逃げてください」


「た、助かった」


マルスはよたよたと逃げ出す待屋を庇うように前に出る。


本能的にこの相手には敵わぬと見た翼猫は飛び去ろうとした。


その移動先を読んだマルスは腰のマルスブラスターを抜き放ち、光弾を撃つ。


光弾はしかし、翼猫の目前に突如出現した半透明の灰色の壁に阻まれ四散した。


「何ッ!?バカな、そんな事が」

その光景にマルスは目を疑う。だがその疑いを裏付けるように暗闇の中、翼猫の後ろからレジリエンスが現れた。


「逃げろ、翼猫」


「馬鹿な。達人さん、奴を庇うんですか!?」


翼猫は彼に一声鳴くと夜の闇に飛び去って行った。


「あいつは普通の猫だった。それがあの男の悪ガキグループの憂さ晴らしかゲームだかで虐待されていてな。たまたま俺が通りがかって連中を追い払っている最中にその時の恐怖と怒りでUMAになったんだ」


「どんな理由があろうがUMAは危険だ。人間に害をなす存在を僕は見過ごせない。それに彼らの罪を裁くのは人間の法律であって、怪物じゃない」


「ああいう連中は死ぬほどの恐怖を与えるか、さもなくば死ぬ直前でしか改心しない物さ。俺は自分の父親をはじめそういう連中を山ほど見てきたからな。奴らにとって法律は効力の無いただの免罪符にしかならないんだよ、ケイ」


「それがあなたの考えならば、僕はあなたを排除する」


マルスはブラスターの弾倉を交換し光弾を連射する。


その一射一射がレジリエンスの手足に当たり火花を散らす。


(正確な狙いだ。流石に動きを分析されているな。レジリエンスが魔法を放つ前に仕留めようという訳か)


内心感嘆しながらレジリエンスはその銃口から射線を予測し、紙一重でその攻撃を避けながら住宅の塀を利用してマルスに強引に突っ込む。


マルスはガンウルフの後部からガトリングランスを取ると足裏のローラーダッシュで前進しながらブラスターを撃つ。


道の真ん中にレジリエンスが来た時左腰からADプレートを放った。


この時マルスは大きく移動するレジリエンスに気を取られ、相手の腕の動きが逆三角形を描いていたことに気が付かなかった。


対するレジリエンスもマルスの新装備に身構えてしまい、魔法の詠唱が遅れる。


レジリエンスが横に腕を振り「トイコス」と唱えたと知ったマルスは素早くガトリングをランスへと変形させると同時にブラスターを放つ。


(どこを撃っている?)


左腕に灰色のバリヤーを張ったレジリエンスはあらぬ方向へ飛んでいった光弾が空中に浮かぶ何かの破片に反射し翼猫のマフラー状の翼の先端を焼くのを見てその性質を理解する。


(マズイ物を作りやがった)


レジリエンスは歯噛みしながら両脚から火花を上げて槍を突き出すマルスをバリヤーを張りつつ、体を捻って躱す。


高速で旋回したマルスはガトリングモードへと変形させたガトリングランスを至近距離でレジリエンスへ打ち込む。左手は変わらずブラスターを握っており視線をレジリエンスへ向けたまま、その銃口を中空へ向けて光弾を放ち続けていた。


ガトリングの連射で左腕のトイコスを破壊されたレジリエンスは左腕を逆三角形に動かすと『カスレフティス』(鏡の意)を唱える。


「何を…しまった!」


マルスもその呪文の効果を知っている。だがレジリエンス本人に何の変化も無い事に疑念を抱いた彼は一拍遅れて相手の思惑を悟ったが対処するには遅かった。


青い鏡が翼猫の周りに展開され、ブラスターを全てマルスへと跳ね返す。周囲に光弾が着弾し、小さな爆発が起こる。マルスにとって幸運だったのは相手も正確な狙いを付けるまでにはいかなかった事だ。


周囲の爆発を吸収したレジリエンスのエレメンタル・アンプリファイアを装着したその右腕は火のエナジーで燃えていた。


炎の鉄拳をマルスは咄嗟に回転させた槍で受け止めながらパワーユニットを装填し、ドリルに紫電を纏わせる。


互いのエナジーがぶつかり合い、スパークし爆発が起きる。


爆炎の煙が晴れた時そこにマルスはいなかった。


(撤退した?これ以上の接近戦を嫌ったか)


地面に落ちた溶け崩れた槍を確認し、翼猫の撤退を感じ取ったレジリエンスはその場を後にした。




爆発の後マルスはガンウルフに乗って早々に撤退した。


マルスの姿が緑の粒子になってケイの姿が現れる。


文明存続委員会の研究チームはレジリエンスの融合合身を研究し、マルスの鎧を粒子化していつでも纏えるようにしたブレスレットを開発していた。


ただし、まだ研究途上で周囲のエレメンタル・エナジーをマルスの装甲服として結晶化していられるのは精々5分程だった。


彼の撤退した理由がこれだったのである。


「流石に強いな。僕もまだまだだな」


そう言ってケイもまた夜の街に消えていった。

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