第30話 UMA軍団総進撃(下)もう一つの切り札
地下から突如出現したミミズ型UMAモンゴリアン・デスワームが牙だらけの口を開き毒液を吐きながら噛みついてくる。
とっさの事にレジリエンスの新形態ケイモーン・ノテロス(ギリシア語で嵐の意)も対応できず、左腕をかざして毒液を防ぐ。
「グッ、これ以上やらせるか」
右手のトライデントを突き出すが怪物の体から刺股状の突起が出て防がれてしまう。
怪物は噛みつきを防がれてやり方を変えたのか、長い体をくねらせ敵に巻き付く。
それを振りほどこうとするがデスワームの力は強かった。
レジエンスの新形態ケイモーン・ノテロスは飛行能力と魔法戦には長けている反面単純なパワーではグランドウォリア―に劣る。
トライデントも武器というよりは魔力増幅器としての色合いが濃い。
デスワームは相手を締め上げると共に電流を流す。
「ぐわあっ」
同時に合身可能時間が過ぎレジリエンス・サンダーバード・ガッシングラムの3体に分離する。
そして2体のUMAはその消耗から異世界へと帰っていく。
合身の影響か、レジリエンスの装甲表面は高熱で溶け出していた。
(分離して奴の拘束を図らずも逃れたが、消耗が激しすぎる)
立ち上がろうにも動けないレジリエンスに再度襲い掛かろうとするデスワーム。
その背中にプロトマルスが刀を突き立てると咆哮を上げデスワームは地中へ去って行った。
「立てますか?」
「すまん、手を貸してくれ。殆どエナジーが残っていない」
プロトマルスに支えられながらレジリエンスはバンガロ―へと入って行った。
バンガロ―の大リビングに生徒達は集まっていた。
リビングにいることは各生徒の任意だったが怪物に襲われることを恐れる生徒達は自然と集団でいる事を選んだのだった。
そのソファーの一つに鈴宮玲を交えた八重島紗良達のグループが座っていた。
「怪物は逃げていったのかな?」
「大したダメージを与えていませんからね。まだその辺にいるでしょうね」
「じゃあ、もしかしたらこの床の下にいるかもしれないって事?」
玲の発言にゾッとして紗良は足を床から離す。
窓際に座っていた生徒達から悲鳴が聞こえる。
紗良達がそちらを見るとバーベキューコンロ前の開けた地面から穴が出現しそこから耳障りなノイズと共に土煙がたなびいていた。
「今、地面からなんか出た!」
「怪物の息とかじゃないか。クジラの汐吹きみたいにさ」
訳知り顔で説明する男子生徒の言葉に再びリビング中に悲鳴が上がる。
それは怪物が自分達をここから逃がすつもりはないという宣言に等しい。
「下山は無理よね」竹山さゆみが呟く。
そこに学年主任の大川と芹沢達人がリビングに入ってきた。
彼は教師陣に事情を説明した後にレジリエンスの鎧を水を張った風呂場の一つに入れた。
(これでどれだけ回復するか。何にせよ地中からくる怪物の対処を考えなければ)
この件は教師達と対応を話し合っても出てこなかった。
「とりあえず皆さんはここで待機。各部屋にいる生徒もここに来るように言ってきます。それと行動するときは2人
以上で、絶対に一人では動かない様に。今先生方が下山についての方法を検討していますから皆さんは心配しない様に」
大川の言葉に生徒達はざわつく。
だが外からくぐもったような下から突き上げる異様な音がすると一瞬にして騒ぎは静まる。
「なるべく静かにしていましょう。そうすれば怪物もこっちを見つけられない」
その大川の言葉通り外の音は止んでいた。
「今の言葉本当でしょうか」
「地中にいる生物なら視覚でなく聴覚その他の器官で外界の様子を知るというのはあり得る話ではあるな」
大川の話の後玲と達人はデスワーム対策の話し合いをしていた。
「魔法は使えないの?地面を探るみたいな」
「広範囲を探る魔法はあるが地中を見るようにはできていない」
(そういえばガッシングラムは奴の接近を感知していたな。後は有効な戦法を考えられば)
達人は竹山さゆみの発言から僅かながら光明を見た気がした。
「そういえば鈴宮さん凄い剣さばきだったよね。剣道部だったりするの?もしかして相手の気を読めるとか出来たりとか」
この場ではお気楽すぎる発言をする松川かおりに
「実家は剣道場を開いていましたが、さすがにまだ獣の、それも地中の敵の気を読む事は出来ませんね」
玲は冷静にそう返す。
「やっぱり駄目かあ。そうなると」
そこで全員押し黙る。
そこから先の発言は言ってはいけないという空気があるのは誰もが分かっていた。
「見張り、交代しましょう。」
「分かった。2時間後にまた」
時計は午後10時を回っていた。
リビングの中央で達人と玲は交代で外の様子を見張っていた。
敵がどこから来るかは判らない以上は可能な限り外の四方の様子を見ることのできるここが得策だと考えたのだ。
今達人は玲と見張りを交代し男子生徒達が雑魚寝している一角で横になった。
既に臨戦態勢の為レジリエンスを箱に仕舞い、杖を小脇に抱えて目を閉じる。
地面と接していると、否応なく不安を煽る不気味な地鳴りが聞こえてくる。
最もそれは過敏になっている自分の心臓の鼓動かもしれなかったが。
そんな状況でも達人は疲れからか微睡み始めていた。
達人のぼんやりした目に刃物を持った大川の姿が映る。
彼が腕を振り上げるのと達人が跳ね起きたのは同時だった。
「大川先生、何をするんですか!?」
それには答えず、大川は達人に襲い掛かる。
他の生徒を巻き込まない為達人は外へ出る。
大川もそれを追う。
この騒ぎで殆どの生徒が起き出し、外を見ていた。
「フフフ、さっき死ねば良かったものを。余計な絶望を彼らに与えずに済んだのに」
そう言いながら大川の姿がフライング・ヒューマノイドに変わる。
「生きていたのか」
「厳密には私は分体、つまりオリジナルの細胞から作られた同一存在ですよ」
「そんな・・・じゃあ本物の大川先生はどこなの!」
「ああ、f市の河川敷で性別不明の焼死体があったでしょう?あれが本物ですよ」
フライング・ヒューマノイドは首を180度回して紗良に答える。
「何ッ、あれはお前の仕業か」
「元々あなたの正体、つまり10代後半と思しき男子を突き止めるために適当な学校の潜入先を探していたのでね。彼とは性格の一致もあって化けるのは容易でしたよ。しかしまさか学校に通わずUMA退治とは今時珍しい」
「…装着」その言葉を達人は無視してレジリエンスの鎧の入った箱を召喚しその中に入る。
レジリエンスが飛び出すとフライング・ヒューマノイドも相手に向かって飛び込み、その頭目掛けて爪を振るう。
レジリエンスはそれを杖で弾く。
「UMAの襲撃は今世界中で起きている。これの意味が分かりますか?地球環境改善の最善策は人間の数が減る事だと地球が判断しているのですよ。元々人間は古来より農業等で環境を変えて生き延びてきた。人間という種はいわば環境破壊を宿命づけられているのです。それが50年くらいの寿命で各々の腹を満たすぐらいの開発ならまだしもそれが昨今では倍近く寿命が延びかつ人口も増加しているとなれば、あなた方を駆除する我々は地球の意思の代弁者と言っていい」
「なら地球が大丈夫だと判断するまでお前達の攻撃は止まないとでも言うのか?」
「その通り。あなたのしていることは単なる悪あがきだという事です。本当に人類と地球の両方を思うなら今ここで死ぬことです。この地とその裏側の地で人が死ぬ、ただそれだけの違いでは?」
「断る。たとえ力及ばなくてもこんな理不尽に俺は最後まで抗う。そして守って見せる」
「だがその体ではね!」フライング・ヒューマノイドはその腕を振り抜くと腕をかざして身を守るレジリエンスの腕を弾いて強引に隙を作るとレジリエンスの胸をもう片方の腕の爪で切り裂く。
溶け出していた装甲に亀裂が入る。
傷口から火花も修復と防護膜を兼ねる、血の様な青いエナジーも出ない。それは鎧内部に自己修復に必要なエナジーすら枯渇している事を意味していた。
「くっ」
「鎧に相当な負担が掛かっているようですね。その分では機能停止も近い」
フライング・ヒューマノイドの指摘の通り、外部装甲を喪失する事はそれだけ外部からエレメンタル・エナジーを吸収できる面積の低下を意味する。
フライング・ヒューマノイドが振り上げた爪をレジリエンスは前のめりに躱しながら抱きつくと『アムピテムノー』(ギリシア語で周りを切るの意)を唱える。
空気中の水分子が見えない水の刃となってフライング・ヒューマノイドの全身を切り裂く。
「味な真似を。まだそんな力が残されているとは」
フライング・ヒューマノイドが腕を振るってレジリエンスを吹き飛ばす。
「達人!」
レジリエンスの苦戦に助太刀すべくプロトマルスが走り寄ってくる。
しかし玲は足元の違和感から本能的に左へ横っ飛びに飛ぶ。
そこにモンゴリアン・デスワームが地中から姿を現し、右肩の盾をその牙で引きちぎった。
プロトマルスはその衝撃で地面を転がる。
デスワームはそこへ追い打ちをかけるべく、毒液を吐こうとしたその時
真っ暗なバンガロ―が急に明るくなった。
紗良達生徒・教師陣が集められるだけの照明をデスワームに向けたのだ。
その光を受けてデスワームは苦しみだす。
「やった!やっぱり地中にいるから光に弱いんだ」
紗良は自分達も何かできないかと考え、生徒達を説得していたのだった。
当初はみな渋っていたが、さゆみやかおりが賛同し、説得に加わると徐々に協力者は増えていった。
そして物知りの生徒の1人が提案した作戦がこれだったのだ。
「やってくれる」
フライング・ヒューマノイドは左腕を建物に向けて熱線と電撃を飛ばす。
その前に体を大の字に大きく広げたレジリエンスが割って入る。
火花を散らし、腕や足、胸部装甲の一部が弾け飛び、レジリエンスは膝をつく。
フライング・ヒューマノイドは止めを刺すべくゆっくりとその仇敵にに向け歩み寄る。
その戦いの様子は契約者たるガッシングラムとサンダーバードにも伝わっていた。
「おい、サンダーバード。人間達があれだけ出来るのに俺達が行かないってのはおかしいんじゃないか?」
「そうは言うが我はもう向こうへは行かれん。その為の力を蓄える必要がある」
「・・・そういえばさっきはあんたがグリフォンの体の主導権を握っていたよな。今度は俺が主導権を持てばそのままあんたも向こうへ行けるんじゃないか?」
「といってうまくいくかどうかも分からんぞ。仮にそれが出来たとしても今度はレジエンスの鎧が合身時の圧力に耐えられるかどうか」
「だがいつかのあんたの言い草じゃないが何のために契約したのか分からん。あいつは・・・」
「そうだな。人と我らUMAの両方を信じ、守ろうとしている。そんな人間を見過ごすわけにはいかぬ」
そう言うと2体は光に包まれると同時に空に次元の穴を開け飛び立った。
「人間共の目の前でその守護者を屠るのは最高の絶望を与えるというものだ。さああの世へ行くがいい」
フライング・ヒューマノイドがレジリエンスの首に爪を掛ける。その時
『まだ終わっていないぞ』
レジリエンスの傍に地面からグリフォンが現れる。出現時の翼の羽ばたきでフライング・ヒューマノイドは後方へ飛ばされた。
その顔は日中と違いライオンではなく鳥の顔でその顔はライオンの口から生えているという奇怪なものであった。
「グリフォン!?サンダーバードがこの短時間で現界できる訳が」
「それができるのさ。今グリフォンの主人格はこのガッシングラムだからな。ここから逆転するぞ、達人」
「分かっている。精霊大合身!」
レジリエンスからの光を受け金属化したグリフォンの鳥の頭と翼、尻尾を含めた後背部のパーツが外れる
グリフォンの体が直立し、ライオンの頭部が90度前に倒れる
外れた翼が両肩に接続され腕部から拳が飛び出す。
後背部のパーツがレジリエンスの杖の先端部と合体し、戦鎚となり左肩に接続される。
グリフォンの胸部にレジリエンスが入る。
鳥の頭の嘴が180度回転し頭が左右に分かれる。
さらに登頂部からノーズガードが下がり、レジリエンスの頭部に装着され、合身が完了する。
その見た目は羽毛のマントを羽織ったヴァイキングの首領といった荒々しさがある。
「ケイモーン・ノテロスは2つの形態を使い分けるのか!?」
「違うな。今の俺はスィスモス(ギリシア語で地震の意)だ」
驚愕するフライング・ヒューマノイドにレジリエンスいやスィスモスが答える。
「だが、そう長くは合身していられまい」
「ああ、だから速攻で終わらせる!」
スィスモスが左肩の戦鎚を振るう。
それをバリアーでフライング・ヒューマノイドは防ごうとするが
「体の自由が利かない?スィスモスの武器はバリアー類を阻害する働きがあるのか」
バリヤーを突破され原形質流動を使い衝撃を緩和しようとするが、スィスモスは両腕に装備されたライオンの爪で怪物の体を貫く。
それを見てようやく光からの苦悶から立ち直ったモンゴリアン・デスワームが吠える。
「では後は任せます、モンゴリアン・デスワーム。ご武運を」
貫かれた部分を強引に切り離し、フライング・ヒューマノイドは撤退する。
『達人、今度こそ奴を倒すぞ』
「ああ」
ガッシングラムの声に達人は右肩の戦鎚に両腕の爪を変形合体させ両刃の大斧とする。
スィスモスは武器戦主体のパワーファイターだ。使える魔法もそれをサポートする類の物に限定されるがどれも強力である。
上から噛みついてくるデスワームの体を大斧を横に一薙ぎで両断するが、切断の直前トカゲの尻尾切の要領でデスワームは自身の体を分離させる。
残った下半身が意思を持ちスィスモスを締め上げる。
その間に怪物は体を再生させ地中に潜る。
「こんな物でこのスィスモスの動きを封じる事は出来はしない!!」
スィスモスは容易にデスワームの体を引きちぎると地面を見ながら
「プログノーシス(ギリシア語で予測・予知の意)」と唱える。
彼の脳内に敵の動きが示される。
その予測通りにデスワームの全身に生えた刺又状の突起が地面から襲い掛かるがこれを難なく躱す。
スィスモスは斧の刃を形成している爪を変形させ巨大なクロ―状にする
そしてクローを左肩に取り付け飛び出してきた怪物を両腕と左肩のクローで受け止め放り上げる。
「空中なら動けまい」
爪を外し、斧を戦鎚に戻すと背中に付いているサンダーバードの両脚を変形合体させる。
それを戦鎚に装着し巨大な騎兵槍とするとそれをドリルの様に回転させ飛び上がる。
『斬岩烈槍』
落下してきたデスワームは最後まで戦意を失わず毒液を浴びせかけるが、ドリルの回転は毒液を防ぎながら怪物の体を縦に引き裂く。
引き裂かれたデスワームの体は赤と灰色の粒子となって消滅した。
その光景に生徒達の歓声が上がる。
それに答えるように胸のライオンが吠える。
戦いが終わりグリフォンと分離したレジリエンスはその場にバッタリと倒れる。
完全にエナジーが切れていた。
「ケイモーン・ノテロスにスィスモス。共にここぞという時にしか使えないな」
そう呟きながら達人は安堵から気を失った。
異世界へ逃げ戻って来たフライング・ヒューマノイドの分体は体の殆どを失った本体と融合し、外見上は元通りになる。
「しかし、まさかこんな事になるとは。我々、いや私の完全な落ち度です」
「ま、気を落とさずまた作戦を練ってくれや。今回は相手が悪すぎた」
「そうもいきませんよ。この失敗で我々の地位を狙って様々なUMAが動くでしょう。それはこちらの勢力の低下につながる」
フライング・ヒューマノイドはナウエリトのの慰めを受けつつもこれからの事態を懸念する。
事実実力者たる彼の敗戦の報は既に知れ渡りつつあり、その懸念はやがて現実の物となるのである。
一方辛うじて勝利した達人が次に目を覚ましたのはf市の病院だった。
彼が意識を失っている間に生徒・教師陣は救助され検査の為近くの病院に搬送されたのだ。
ただ達人のみ文明存続委員会の息のかかったこのf市の病院に搬送された。
この事に彼は警戒したものの、拘束等される事無く数日の検査入院の後解放された。
それはレジリエンスそしてプロトマルスが彼らにとって用済みとなった事、つまりいつでも抹殺できるという自信があるのだという事を達人は知らなかった。
文明存続委員会は遂に人類だけの救世主たる魔甲闘士マルスを遂に完成させたのだった。




