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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第21話 誇り高き獣王(前編)




 アフリカのサバンナ


この広大な地の一角で群れからはぐれたアフリカゾウを狙う密猟者がいた。


目的は象牙だ。


しかし銃声と共にライフルを構えた密猟者は地に倒れる。


「これで10人目か。不届き者は減らないな」


「まあ象を守れたからいいじゃないか。そう言えばここのライオンは送らなくていいのか?」


密猟者を射殺した2人の男の乗るジープにはあのEスリーのロゴが入っていた。


「野生のには手を出すなとのことだ。現地に送るのは動物園で監禁されている個体だそうだ」


「そうか。『S計画』は隊長の長年の夢とはいえ独断で動いて成功するかね」


「今度の総会でも否決された以上、もう後がないってことなんだろう。Eスリー自体抜ける奴が増えている。上層部がこの作戦の歴史的意義を理解できない以上俺達だけで動くのは当然さ」


「もし成功すれば俺達が組織のメインストリームになる。あの何を考えているか分からん今の代表も解任の憂き目に遭うとなるとメシウマだな」


「全くだ」


男達は次の獲物を求めてジープを走らせる。


サバンナに排ガスの煙と騒音をまき散らしながら。



Eスリーは複数の過激な環境保護団体がより集まってできたテロ集団である。


この2人の属していた元々の団体は野生動物の保護を訴える組織だった。


活動内容としては

・野生動物の保護を訴えるデモ

・密猟者の実力的排除(こういう人間はクズだから生きている資格はないという見解を取っていた)

・全世界の動物園や水族館の廃絶


特に最後の内容は『種の保存』がこれらの施設の意義の一つでもあるので全くの偏見である。


最も世間的には家族連れや若いカップルにとって外出目的が一つ消える為という点で迷惑極まりないものだった。




「奴ら本気で動いてますよ。正気の沙汰じゃない」


Eスリー本部の代表の部屋で側近の一人が上司にそう告げる


全身をマントとフードで隠し仲間内にさえ素顔どころか手足も見せないEスリー代表は先の新宿壊滅の一件で求心力が低下していた。


「『S計画』は組織創設以来全ての総会で否決されてきましたからね。確か内容はシリア地域でかつてテンプル騎士団によって絶滅したライオンを再繁殖させる、と言う物でしたね」


「そうです」


マシンボイスによりこの人物の性別も年齢も特定できない事が不興を買う原因なのだ。


それはこの側近とて同じ思いだった。


「否決理由も全て同じ。発案者以外誰にも利益のない史上最低の作戦。この見解は今も変わっていません」


そこで代表は言葉を切る。そして


「指揮を執っている青田義男隊長の部屋を調べなさい。作戦のスケジュールがあるでしょう。それを各方面へリークしなさい。ああリーク先にはこの組織も忘れないように」



「文明存続委員会?何です、この詐欺団体めいた組織は?」


渡された紙を見て不思議そうな顔をする側近に


「ところが今回はこの組織が一番いい仕事をするでしょう。断言しますよ」


(もはや組織が死に体である以上はティブロン様の意見に従う他ない。後はどうこの組織を順当に解体していくか?)


今回の暴挙はある意味では渡りに船ではあった。


それは同時に総裁たるテオドラの計画の終焉の始まりでもあったが、ティブロンの『計画』が現実味を帯びてきた以上はそれに乗らない訳にはいかなかった。


そしてその計画ではEスリーという組織自体が邪魔となる。


(我らが故郷をこの世界に再び!)






「テベリスの兜か。こいつはあの鎧の一番重要な個所だ。良く回収してくれたな」


「剣は胸に当たって爆発したから残骸があるか判らない。だが手足がいくら探しても見つからないのは他の誰かに回収されたかもしれません」


芹沢達人はエリクシリオの治める都市の城塞に来ていた。


先日対戦した、テベリスの兜を渡す為である。


城塞にはエリクシリオはおらず代わりにパリノスが応対した。


「ボスはいないんだな」


「ああ、彼女なら都市の外の農園にいるよ。土壌改善の視察だよ。都市付近に転移してきたのなら会わなくて当然だな」


「そうか。どうもありがとう」



農園に行ってみて達人は後悔した。


屋外にあるという事は人はその高濃度エレメンタル・エナジーに曝されない様に防護服を着こむ必要がある。


UMA化しない為にである。


この世界で普及している遮光土偶型の防護服は傍目から見て誰が誰だが判別がつかないほどのバリエーションが無い。


せいぜい身長で大人と子供が区別できる程度である。


そんな中でレジリエンスを装着している達人は嫌でも目立った。


そんな彼を見つけた小さな遮光土偶の一団がガシャガシャ音を立てて彼に近づいてくる。


「こんにちは。お兄ちゃん」


「こんにちは。ソフィア、でよかったか?」


「当たり。見てみて、新しい畑ができてるの」


「俺達も手伝ってるんだぜ」ソフィアの友達の少年が誇らしげに言う。


「そうか。偉いな」


「お兄ちゃんはエリクシリオ様に会いに来たの?その鎧は重要機密だもんね」


「そうなんだが、誰が誰だか判らなくてな」


「あの頭飾りが多いのがそうだよ」ソフィアが教える。


「あれか。ありがとう」


「そうですか。結局テベリスは破壊されたのですね」


「ええ。兜だけ回収してパリノスさんに渡してきました」


「ありがとうございます。又こちらの生活が改善されます」


「農園は屋内に作るんですね」


心の内では別の事を聞きたかったのだが、口から出てきたのはそんな話題だった。


「そうですね。一定の環境を保つために必要な事です」


「向こうの世界にも似たような物がありますよ。材質はこちらのような石や宝石の様な物ではないですが」


「人間場所が違っても考えることは同じなのかもしれませんね」


「かもしれません」


ふと互い視線が合う。


互いに着けているフルフェイスの兜には表情が無い。


(今どんな顔をしているのだ?)お互いにそう思っていた。


「そろそろ帰ります。長居すると仕事の邪魔になりますから」



沈黙の後達人はそう言って立ち上がる。


「また来てくださいね」エリクシリオの声を背中に受けて達人は戻っていった。




「やっと帰ってきた。お客さんが来てるよ」


「ただいま。俺に来客?」八重島家に帰ると八重島紗良が達人にそう伝える。


「笠井さんて人。知り合い?」


「委員会の連中か。彼女を寄こすという事は何かの依頼か」


「エリクシリオさんに会って来たんでしょう」


「何故そんな事が分かる?」


「顔に書いてある」


そう言って二階の部屋に上がっていった。


「何でこうなるかなあ」自分の机で頭を抱える。


八重島紗良にとって芹沢達人は今まで見たことのないタイプの男だった。


恋愛感情ではなくとも気になる存在ではある。


「それを認めると、今度は敵うはずないんだよなあ」


互いに出来る事は無い。


だがあの2人にはそれがある。


それを思うと紗良は胸の奥が締め付けられる思いがするのだった。




「単刀直入に言うわ。達人君これどう思う?」


達人がリビングに着くなり笠井恵美は一枚の紙を渡す。


「これは動物園の襲撃計画?これをどこから?」


「さあね。いきなりコンピューターにこれが送られてきたの。ただこんな突拍子もない事を考えるのはEスリーくらいだと思うわ」


「計画は明日、同時に5か所。このLが恐らく目的の動物か」


「普通に考えるとライオン(Lion)だけどそんなに集めて何をするのかしら」


「資金集めの密輸とか」


「ないわ。ここに合流している組織の一つに密猟者狩りをしている団体がいるもの。最もその組織は動物園を動物の権利侵害といって永久的な閉鎖を求めているけどね。馬鹿げてるわ」


笠井はそう吐き捨てる。


「まさか元の場所に返す気か?」


「だとすると船を使う可能性は高いわね。この五点で一番近い港はここよ」


「なら最悪取り逃がしてもここに行けば良いという事か」


「本当ならこんな事を頼める義理はないのだけれど、よろしくね達人君」


「分かった。善処する」





翌日


「これより作戦を開始する」


青田義男の号令の下5つの班が目標の動物園へ向かう。


清掃員に成りすましたメンバーがライオンの檻を開ける。


そこへ園の通用門から乗り入れた別のメンバーが運転するトラックにライオンを誘導する。


S計画実行部隊の行動は迅速だった。


「A班収容完了」


「こちらB班収容しました」


「ここからが本番だ。各自港へ急げ」


部下の報告を聞きながら青田の指揮する班も襲撃を終えて港へトラックを向ける。




「D班了か、うわああ」


青田の指示を受けた襲撃部隊の一つは通用門を出たところにレジリエンスに出くわした。


レジリエンスはトラック内からの吠え声からそれが件の襲撃部隊と知るや正面からトラックを園内へと押し戻した。


鎧に刻み込まれた「身体強化」の力である。

レジリエンスはフロギストン(火球)でトラックのタイヤを焼くと同時に運転席から襲撃班の1人を引きずり下ろした。

他のメンバーもトラックから飛び降りるがレジリエンスと生身の人間の身体能力は歴然の差がある。

全員追い付かれ気絶されられるのに3分とかからない。


「しかし、ライオンもあんな声で鳴くんだな。何かを呼ぶとか祈っている感じだ」


無力化した襲撃部隊を園の責任者に引き渡し、笠井の運転する車に乗り込みながらレジリエンスは呟いた。


「呼ぶとか祈るとか何を?」


「ライオンの守護神だろう」


「まさか。神を持つのは人間だけよ。あらゆる動物にもし神がいるなら人間は今頃絶滅よ」


(しゃべる鳥がいるならしゃべるライオンがいてもおかしくはないが)


達人はそう思うのだった。




「どうした?D班応答しろ」


「隊長どうします?救援に向かいますか?」


「いや予定通り港へ向かう。この装備では心許ないしな」


襲撃計画が漏れていたとしてももはや止まる事は出来ないのだ。


「人間に飼われているとやはり卑屈になるんですね。この哀愁を誘う吠え声は動物の王者とは思えませんよ」


「全くだ。彼らには新天地でしっかりと野生を取り戻してもらいたいものだ」


青田の言葉が終わると同時に道路の真ん中に突如穴が開いた。


その穴から出てきたのは巨大な斧を持ち、古代ローマの兵士を思わせる兜と鎧を着た人型のライオンだった。


ライオン型上級UMAガッシングラム。


ライオン達の吠え声は彼らの守護者たるこの怪物を呼ぶものだった。


運転手が慌ててブレーキを踏むがトラックは急には停まらない。


ガッシングラムはトラックにゆっくり近づくとその斧でトラックのキャビン(人間の乗る部分)を紙のように両断した。



「ライオンの化物!ぐうう」青田の部下はそう叫ぶと黒い霧のようになって消滅した。


ガッシングラムの発する高濃度エナジーにあてられたのだ。


「なんだ?密輸じゃない。俺はライオンの為に行動している。シリアに人間の勝手な都合で絶滅したライオンの楽園を再び取り戻したいだけだ。お前達だって仲間が増えるのは歓迎だろ」


青田の声は悲鳴に近い。


ガッシングラムはそんな青田にぐっと顔を近づけると


「余計な事をするな、人間よ。確かに1000年前我々の一族はお前達と戦って敗れた。だがそれは我らと人間の正々堂々の生き残りを賭けた種族同士の決闘だったのだ。お前のしていることは人間とライオン双方の誇りを汚すものだ。去れ。まだ命のあるうちにな」


そう言って荷台を引き裂くと自身の庇護民の無事を確認する。


そこへ笠井恵美の運転する車が到着する。


「ライオンのUMA!まさか本当に出てくるなんて」


「どうも普通のUMAじゃない。人間と襲うよりも檻に近づけさせないようにしている様だ。笠井さん、あの血を流している男を捕まえて警察に引き渡してくれ」


「あなたはどうするの」


「奴と話をしてみる。俺達が居なくなるまではここを出ないでくれ。UMAn位ならない為にも」


そう言ってレジリエンスは車を降りてUMAに向かう。


「お前が彼らの守護者なのか?」


「いかにも。我が名はガッシングラム」


「まだ助けを求めている奴がいるんじゃないか」


「もちろんそうしたいが人間達は儂を恐れて近寄れぬ。彼らの安全を確保できないのだ」


「ここは協力しないか。俺も襲撃部隊を捕まえたいからな」


「よかろう」


直ぐに動物園と警察へ連絡する。


ガッシングラムは人型形態から黄金のライオンへと姿を変えるとレジリエンスを乗せて走り出す。




「全く人騒がせな奴らだよ、お前らは。よりによってライオン泥棒とはね」


青田義男は今駆け付けた警官と共にパトカーに乗り連行されていた。


「人騒がせだと。誇りを汚すだと。許さん許さん許さん」


「おい、何をぶつくさと」隣にいた警官は驚愕の叫びを上げる。


青田の体が雄叫びと共に人型の虎の怪物に変わっていた。

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