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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第14話 バノプリアの脅威

  新宿の異常は笠井恵美の運転する車からでも確認できるほどだった。


「ビルが浮いている?こんな力があるなんて。達人君大丈夫?」


彼女は後部座席で揺られガランガラン音を立てる鎧を装着している芹沢達人に声を掛ける。


「天井を開けられないか?ああこのスイッチか」


天井に飛び出したレジリエンスは全身に風と太陽の残照とそしてポツポツと付きだした気の早い街灯の光を浴びてその機能を回復させてゆく。


目標に近づくにつれて何やら黒いものが周囲を漂い始めた。


それはパノプリアによって巻き上げられた塵だった。


「この黒いのは塵かしら?ケホッゴホッ上閉めるわよ」


「ああ。笠井さん、水のエナジーが欲しい。川の近くを走ってくれないか」


異世界の戦いで土は水に有効だったためどこまで役に立つかは未知数だが未知の相手を前に万全を期すに越したことはないと感じ達人はそう言った。


「わかったわ。でもあまり余裕はないわよ」


彼女は現実的な人間だ。だから四元素の関係だののオカルトを彼女はその人生で一度も考えたことはない。


今の彼女にあるのはただこの状況を好転させ得るあらゆる手を打つことだけだった。


彼女は脇道に入り川沿いに車を走行させる。止めてくれと上から声がする。


「ここから俺一人で行きます。もう奴のテリトリーに近い」そう言って天井から飛び降り走り出す。


「頼むわよ」笠井は文明存続委員会本部に向かって車を走らせる。




「さて次はTV局か国会に乗り込むのもアリだな。とは言っても政治家共は要求をすぐには呑まねえだろう。もっとセンセーショナルにいかないとな」


熱海悟朗は列車がその体をねじくれさせながら空へ飛んでいくのを見てそう考える。


同時に体全体に何か妙な感覚を感じているのだが彼は自分の中でそれを表現する言葉を持ち合わせていなかった。


彼の頭に浮かんだのはこの宙に浮かぶ列車をどこか象徴的な建物にぶつけるというアイデアだった。


そこへ人影が現れた。レジリエンスである。


屈辱を味逢わされた相手をそのままにしておくことは当然悟朗のプライドが許さなかった。


さらに付け加えるなら圧倒的な力でもって嫌いな相手を叩き潰すという事に快感を覚えない人間などこの世に存在しない。


その二つの理由から悟朗は狂喜し、雄叫びを上げてレジリエンスに突っ込んだ。


彼の頭には先ほどの「計画」など微塵も残っていない。


あるのは目の前の獲物を嬲り殺しにするという事だけだった。


重力を操作し頭上の列車とパノプリアの両腕を相手目掛けて飛ばす。


突っ込んできた列車を飛んで躱したレジリエンスに獲物を追い立て嬲り殺しにする二匹の蛇さながらの動きで邪魔な建物を分解吸収しながら襲い掛かる。


さらにパノプリアは視界にとらえたレジリエンスを重力操作で浮き上がらせその自由を奪い飛ばした鉄拳の餌食にしようと右腕を向かわせる。


「こいつ腕を飛ばす?しかもビルをエナジーに分解しているだと!」


レジリエンスはなけなしの水のエナジーで作り上げた水の銛を空中に巻きあがったアスファルトかビルの破片に引っかけて空中を移動することでその攻撃を躱そうと試みる。


レジリエンスはいわば即席の空中ブランコをしているのだがこの場にいるただ一人の観客は彼に声援でなく悪態をついていた。


この行動で彼の姿が視界からやたらと消える為である。


レジリエンスはパノプリアと比較して兜の性能では勝っていた。


後者は風と土の属性間の相性の絶望的な悪さから確保できる視界は装着前の半分の60度ほどに対し前者は装着前と120度とほぼ変わらない。


つまりパノプリアは普通の人間が片目で戦っているのと変わらない状態で戦う事を余儀なくされるのである。


そのためパノプリアは敵の動きを追う為に絶えず体や頭を動かしていなければならない。


空飛ぶ腕や重力制御はそう言った欠点を補う機能でもあった。


「チョロチョロと鬱陶しいんだよ。これで落ちろってんだよ!」


体全体を360度回転させながら旋回、両肩が上下に開き土のエナジーをビームとして乱射する。


全方位に放たれた黄土色の熱線が周囲の建物や空中に漂う残骸を消し飛ばす。


レジリエンスが放った水の銛も投擲先のビルの残骸が消し飛び空を切る。


そこにパノプリアの鉄拳が迫る。


レジリエンスはトイコスを唱えそれを即席の足場とした。


それを蹴って(トイコス)が粒子の帯となってパノプリアに吸収されるのを見ながら敵の真上に躍り出てフロギストンを放つ。


重力力場から逃れたレジリエンスはそのまま川へと落下した。


火球は着弾するが全くダメージを与えることなく赤い粒子となってパッと霧散した。


「自分の体にもあの魔法はかけられるのか。待てよ。肘に当たる部分が光っているがあれが杖替わりなのか?あれを破壊できれば攻撃手段がなくなるな」


そう判断したレジリエンスは立て続けに火球を放つ。


敵の狙いに気付いたパノプリアはその肘の先に(トイコス)を展開し攻撃を完全に防ぎ切った。


「馬鹿め!こいつを忘れていたな」悟朗の言葉と共にレジリエンスの背後からパノプリアの左腕が飛んでくる。


水中へと身を隠すレジリエンス。


だが飛んできた剛腕はその重力操作能力で水流を真っ二つに裂き襲いかかる。


それはまるで出エジプト記でモーセが海を割ったあの奇跡と同じだった。


違うのは原典が逃げる為であり、今回は追う側であるという点だが。


(ここまでの力があるとはッ)


ほとんど反射的にレジリエンスは杖先で腕の側面を叩いて軌道を逸らす。


しかしもう片方の腕が目の前に迫る。


「残念だが腕ってのは二つあるんだよ」


パノプリアから勝ち誇った声が聞こえる。


しかしすぐその兜から舌打ちが聞こえてきた。


左腕も全く予期しない方向から来た火球でまたもや軌道を逸らされたからである。


「エリクシリオ。無事だったのか」


「攻撃の手を休めてはいけません。エナジー切れを狙いますよ」


二手に分かれて攻撃を開始する二人。


それぞれに火球を放ちパノプリアを狙う。


それを両腕に展開した壁で防ぐパノプリアも左右の腕を二人に向けて飛ばして攻撃する。


腕の追跡から逃れる二人の経路はそれぞれの考え方の違いから異なっていた。


エリクシリオは腕にエナジーを吸収させないように比較的瓦礫の少ない場所を選んで通っていた。


逆を言えばそれは相手に狙われやすいともいえた。


実際パノプリアは鎧を身に着けていない彼女の方に向かって肩のビームを連射してきた。


それをエリクシリオはジグザグにジャンプしながら火球を放つ。


攻撃は分解魔法を展開しているが同族性以外は吸収はできないので鎧の内蔵エナジー量は着実に減っていた。


もう一方の達人は相手に対して有効打がほとんどない事と先の戦闘で相手の『見える』範囲が限られている事を推測し遮蔽物を利用して相手の死角からの攻撃を目論んだ。


これは火の残りのエナジー量も少ないことも関係していたが。


「別の魔法と組み合わせられないか試してみるか」

ビルの残骸に隠れながら両腕で三角形を描きパノプリアの背後に躍り出たレジリエンスは左手で描いた三角形の頂点付近を横に払い火球(フロギストン)突風(プノエー)を同時に放つ。


達人の狙い通りかはたまた鎧がその思惑を理解してくれたのか炎の渦がエリクシリオを狙っていたパノプリアを包み込む。


「うおッ!?あのくたばり損ないの仕業か。身動きが取れん」


目の前からも火球を放とうと腕をこちらに向けてくる相手と後ろの敵を同時に始末すべく自身を巻き込んで重力操作を唱える。


だが悟朗は『くたばり損ない』は自分の方であると事を気づいていなかった。


先ほどからだんだん目は霞み体力が猛烈に奪われている、というよりは吸われている感覚に襲われていた。


その原因を鎧内部にこもった熱のせいだと思っていたが今鎧を脱ぐことは彼にとって敗北を意味する。


広域の重力操作で相手を押しつぶすという早期決着以外に彼の取れる道はなかった。


重力が増大しビルの残骸はひしゃげ道路が陥没する。



戦いが長引くにつれて悟朗は意識の混濁に反して徐々に高まる攻撃性を制御できなくなっていった。


「まだだ。俺はここで終われないんだよ。俺に逆らうものすべてぶっ壊して好き勝手出来る世界を作るまでは」


遂にパノプリアはその悟朗の言葉に禁断の魔法を示す。


「ウラァー!!!さっさと死なねえと大変な事になるぜ。超重力崩壊ブラックホール!!」


パノプリアの頭上に野球ボールほどの高重力の渦が出来上がる。


渦は大きくなりながら重力嵐を起こし周囲の物を吸い寄せ始める。


レジリエンスとエリクシリオは共に周囲に壁を張って耐えるがその壁ごと少しずつ渦の方へ引き寄せられていった。


魔法の渦は徐々に大きくなり今や人間の頭以上の大きさとなっていた。


重力異常の影響が徐々に広がり今まで被害のなかった区域の建物や道路バラバラとひしゃげながらちぎれながら空を舞い、車がそして人が巻きあげられ渦の中に吸いこまれていった。


さらに水道管が破裂したのか町のあちこちで水が噴水のように天に伸びいくつもの柱を形作り、天に向かって逆巻いた。


「あいつ、何もかも消し去るつもりか」


「達人、気をしっかり持ちなさい。少しでも気を緩めたら吸い込まれますよ」


「しかし、ここに留まる事も難しくなってきた。何かあれを破る方法はないか」


「パノプリアを倒す以外にはあの渦を止められません」


目の前の光景に勝利を確信し、哄笑する悟朗はふと自分の眼や口が兜に近すぎるのではないかという疑問を抱いた。


目の前には悟朗の知らぬ間に自分の手足や心臓までもが鎧に張り付いてパノプリアに『移植』されて動いていた。


笑い声が一転して悲鳴に変わる


「バカな。あいつが俺になっているだと。じゃああいつを見ている俺はなんだ」


次の瞬間自分の眼が相対するパノプリアの目に変わった時彼の意識は永遠の闇の渦にに呑まれていった。



重力の渦は突然無くなった。


水は自然の法則に従い上から下に流れる。


地上には巻き上げられた土砂やアスファルト・そしてビルの破片が次々と降り注ぎ地上にさらなる混乱をもたらした。


「止まったようですね」


「重力異常は感じられない。エナジーが完全になくなったのか」


この事態を引き起こした犯人がいると思しき場所にそんな会話を交わしながら達人とエリクシリオは近づいていく。


そこにパノプリアはいた。


両腕をだらんと伸ばした前屈姿勢で。


達人にはその姿が全ての力を以てしても目的や夢が叶わず燃え尽きているように見えた。


近づこうとするエリクシリオを制して達人はパノプリアに近づく。


装着者の声は聞こえない。


(だが悪態をついているだろう。鎧を外したら飛びかかってくる。奴はそう言う性格だ)


そう思いパノプリアの兜を外す。


そこには何もなかった。


鎧の中はガランドウの空洞だった。


ガラガラと音を立てて主を失った鎧のパーツが地に落ちた。


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