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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第11話 海神の怒り

 芹沢達人は見知らぬ部屋で目を覚ました。


救助され病院に搬送されたかと思ったがあの赤紫色の空と太陽を見てここが異世界であることを知った。


寝かされているベッドは八重島家の物より手触りが良いことから高級品であろうと判断できる。


ベッドに掛けられている帳を開けるとそこは書類の山とマイク状の物が乗った机があり、そこで作業をしている髪の


長い金髪の女性と思われる人間がいるのを見た。というのもその人物は達人に背を向けていたからである。


「気が付きましたか。私はまたお会いしましたね。ソフィアが海岸で倒れているのを見つけて町の私と男性四人でここまで運んで来たのですよ。三日も目を覚まさないので心配していたところです」


ベッドの帳を開く音か彼の視線かで達人に気づいた女性が振り返ってそう言いながら近づいてくる。


「ありがとう。しかし俺はあなたを知らない。それにあまり近づかない方がいい」


そう言って達人は自分の手を見る。そうしてまだ普通の人間である事を確認する。


「心配はいりませんよ。あなたはあの鎧の加護がある。あまり離れすぎると効力はなくなりますけれどね。気になるのでしたらこれを」と女性は自分の首飾りを達人に掛ける。


「私はエリクシオ。それにこれ、覚えていませんか?」部屋の隅にあった遮光土偶のような鎧を見せる。


「あの時の・・そういえば声に聞き覚えがある」そこで肝心なことを思いだす。


「怪物はどうなりました?俺と組み付いてここに来たのですが」敬語を使うのは自分よりも年上かもしれないと思ったからである。


「いいえ。海はあなたが発見される前は荒れていましたけど今は静かなものですわ」


そういってマイクに向かって「海岸線に見張りを増やして。怪物が海からくる可能性が高いのです。鎧の解析と修復は進んでいますか?融合?そう刻まれているのですか?いえ、それに関しては何も。ええ、装着者が今目を覚ましました。そう、なら今からそちらに向かいます」


「鎧を修復してくれているんですか?何から何までありがとうございます」


「こちらも色々と知りたい情報や技術を学ぶ必要があるから気になさらないで。私たちはかつて持っていた技術や知識、といっても父の世代の事ですけれどそれらを復活する必要があるのです。この世界で生きていくために」


そこで達人はようやく彼女の言葉が日本語ではないことがその口の動きから気がついた。


「気がついたでしょう。この世界は一種の精神感応で意思を伝えることができるのです」達人の考えを読んだのかエリクシリオが答える


「嘘がつけないわけですね」


「抜け道は色々とありますけどね」


エリクシオの部屋を抜けて中庭に面した廊下から外の景色を見るとこの建物が丘の上に建てられており、いくつもの物見(やぐら)を備えた砦か城のようなものだとわかる。そしてこの丘を中心に円形上に町が造られていた。


突然空から稲妻を纏った黄金の鳥が突然現れその足に掴んだ巨大な魚を中庭に落とした。


「あれは何です?」


「我が一族と契約している守護霊鳥サンダーバードです。後で感謝の祈りを捧げなければ」


レジリエンスはその装甲を外され黒い骨格(フレーム)の状態になっていた。


入れていた箱も近くに保管されておりそれぞれの周りに数人の科学者らしき男女が骨格内部の機械部品の調査や部品の交換作業を行っていたり、外された藍色の装甲の分析を行っていた。


そこにはこの場所に不似合いな顔や手を真っ黒にした数人の子供達がいた。


「皆ご苦労様でした。タツト、この子があなたの命の恩人ですよ」


子供達はエリクシリオの労いの言葉に顔を赤らめ笑顔を見せる。そして一番奥の赤みがかった茶髪の女の子を達人に紹介する。


「君のおかげで助かった。ありがとう」


「もう平気なの?」


「ああ。もう大丈夫だ」達人の言葉に少女は笑顔を見せる。


彼らは珍しい『漂着物』を一目見ようとここに押しかけてきた。


その応対に困っていた研究員にエリクシリオはレジリエンスの鎧にこびりついた汚物を除去する手伝いをさせてはどうかと提案したのだった。


「ようやく汚物の除去ができました。しかし変換器はどう頑張っても無理ですよ。変換の過程で失われる魔力が多すぎる。一応一方向的な変換ができるように改良と強化はしましたがね」


30代半ばに見える男がエリクシリオに報告する。


「外部からの吸収量は増やせるのでしょう?装着者側で特定の二種類だけでも選択できるようにはできませんか?」


科学者達のリーダー格と思われる男の報告にエリクシリオが答える。


「戦闘中にそんな器用にできますかね?万能型といえば聞こえはいいがやれることが多いと使う側が把握しきれないのでは宝の持ち腐れですよ。それよりも焼き切れていた配線の修理で動きや情報伝達はかなり良くなっているはずです。7割方の回路が経年劣化していたというのにこれだけ動いているというのがまだ信じられませんよ。それはともかくどちらかというとこの鎧の戦い方は補助魔法と肉弾戦主体の方があっている気がします」


「変換器の研究は続けてください。これが実現できれば壁を強化したり水の確保も容易になるのですから」


「もちろん。そのための研究ですから」研究員はそう答えて作業に戻る。


エリクシリオはその男に達人の案内を任せ子供達と外に出ていった。


「こんな風になっているとは思わなかった。骨格と皮膚まさに人体そのものだ」


1人残された達人がその骨格に触れてみるとゴムのように柔らかい感触に驚く。


「そこに装着者という肉とそして頭脳が入る。『皮膚』に当たるエルナタン合金製の装甲は強固ではあるがこれが万が一ひしゃげたりしてみろ、君の体に突き刺さるし内部構造もダメになる。そこでアンディロス鋼で骨格を作りその中に内部機構をしまうという訳さ。今この鎧は我らの首領の魔法で『眠って』いるが各機能は働いている。その為に我々は無事なわけさ」


「変換とか融合というのは?」


「どうもこいつは特別でね。火・水・風・土の魔力の四元素を状況に応じて変化させようとしたらしい。最もそんな事は無理な相談で、火を水にしたり風を土に変えたりなんてできる訳がないんだ。火が風になり風が水になり水が土になり土は火になる、いわゆる自然循環を再現するので今の所手一杯だな。融合に関してはこの鎧の全身に魔法文字が刻まれているが何をどうするのかさっぱりわからん」


達人の質問にリーダー格の男は一息にそう説明する。


「怪物がおそらく近くにいる。戦闘になりますよ。守りは大丈夫なのですか?」


「そう長くは持たん。この世界は魔力が不安定でね、防護壁を最大出力で張ろうものならものの十五分で大嵐さ。維持できる間はいいがそれを過ぎたら大惨事だよ。我々の生活に魔法は必要不可欠だが常に使用の制限が付きまとう。君も調子に乗って魔法を乱発しないでくれよ」


「了解。俺は芹沢達人です」


「パリノスだ。おやイオアンネスの爺さんの声だな。いつにも増して絶望的な声だが」


同時に外からけたたましい鐘の音が響く。


「あれは海神の怒りじゃ。やはりあんなものをこの都市に入れるべきではなかったのじゃ」


「一体何を言っているんです。怪物や他都市の住民の襲撃なんてそう珍しくもない。そもそも都市機能の維持向上に必要な機能を欲して鎧を運び込むのは民会の多数決で決まったことだ」


「『大災害』を知らぬ者にはわかるまい。あれはな、あの日現れた海神の使者よ。やはりお前かこの疫病神め。貴様を海神への生贄に捧げてくれるわ」


達人を見てそんな言葉を放った老人の声で達人は自分が初めてレジリエンスを装着した日にいた小さい方の遮光土偶の中身だったと確信する。


「生憎だが俺がはいそうですかと言うと思ったら見込み違いだな。確かにあのタコかイカの化け物は俺が呼び込んだ。だから責任をもって退治する」


「寝起きの状態で使い物になるのかという疑問があるが・・まあいいこれも実験だ。至急運び込め」


職員と達人も加わり骨格に各部の装甲を装着し箱の中にしまい込む。


「装着を手伝ってくれないんですか?」


「何言っているんだ。こいつの正しい装着法はこれだぞ」


パリノスが達人に杖を渡す。これも後端に先端と同じ色でサイズが一回り小さい宝石を埋め込む改修がされていた。


困惑する達人に「その箱に女神の浮彫があるだろう。それに杖を持たせるんだ」とパリノスが説明する。


言う通りにすると箱が倍ほどに大きくなり浮彫のある面が左右に開く。


そこに達人が入ると中にブーツと中吊りになった他のパーツがあった。


「あとは同じだ。鎧をどの順番で着込むかは知っているだろう」


達人がブーツを履くと吊り下がっていた腰・胸部・腕・肩の順番に装着が内部のアームによって行われ、最後に兜が

頭上から降りてきて左腰のスイッチが入りシュッという空気を抜く音と同時に視界が開けて動けることを悟る。


(便利な物だ)


達人は箱の右側にある杖を取り外すと窓から飛び出し眼下の海目指して丘を駆け降りる。


後ろから「勢い余って壁や門を壊すなよ」という声が潮風に乗って聞こえてきた。


その言葉通り反応速度が上がっているためか動きが以前より軽快で跳躍力も上がっていた。


実際何度か町の門や警備の巡回兵に激突しそうになりなりつつ力の調整を行う。


(力が上がっている。この町にはあの子達の家もある。必ず守ってみせる)


町の門を振り返り、達人はそう決意する。


達人は新たにレジリエンスから示された魔法を使うべく右手を振って三角形を描きその上方を横に切るように動かし風の探知の呪文プサクフを唱える。


魔法は荒れ狂う海を町に向けて進むトンガリ頭の下に巨大な単眼を持つ顔に両腕それぞれに長い四本の触手状の指を持つ怪物の姿を達人に見せた。


「まるで伝説のクラーケンだな」


さらにプサクフを唱え、周辺を探知する。


すると南東に岬がありここで迎撃した方が被害を少なくできると達人は判断した瞬間にぷつりと映像が切れる。


風のエナジーを消費し過ぎたのだ。


(消費量が変わるほど都合良くはないか)後は戦闘時に魔法を使うことを考えこれ以上の使用をやめる。


達人がその岬にたどり着いたと同時に海中から四本の触手が彼目掛けて飛んでくる。


それを横に飛んでかわす。触手の先端が鋭利なナイフのように尖っておりそれが先ほどまで達人のいた場所に突き刺さりそこが炎を上げる。


「あいつ重油を吸収したのか。それでそんな能力を身に着けたのか」


言う間にもう片方の腕からも四本の触手が迫る。


こちらは各触手の先端から火炎が放射されレジリエンスの頭部を焼こうとする。


精密機器が集中する頭部にこれを受け続けるのは危険だった。


頭部の前で両腕をX字に構えて反射魔法を使い火炎を吸収しようとする。


この呪文は両腕のみに刻まれているのだ。


達人は触手でなく怪物本体に向けて吸収した敵の炎で形成した赤い光球を発射した。


だが光球はクラーケンに届く前に消滅してしまう。


「何、しまった!?」


この反射魔法は反射できる威力も限定的なら射程も半減するという曰く付きだった。


その情報を今更ながら提示してきた事へ毒づくと同時に死角から触手が襲い来る。


クラーケンに両腕と両足にも触手が巻き付き動きを封じられる。


強引に引きちぎろうとするが触手には恐るべき柔軟性があり容易にはねじ切ることができない。


四肢に突き立てられた爪から煙が上がる。


(一か八かこれができるか?)達人はかつて施設での化学の座学で学んだある事を思い出す。


拘束されつつもゆっくりと両腕で逆三角形を描きアムピテノー(ギリシア語で周囲を切り裂けの意)と唱え全身に絡みつく触手を紙のように切り裂く。


ウォ―ターカッターの要領で大気中の水のエナジーをダイヤモンドさえ切断する刃に変えたのだ。


しかし切り口から泡が伸び瞬時触手が再生される。


怪物はそのまま横薙ぎに振った触手の一撃でレジリエンスを海に叩き込むとその半透明の頭部を発光させる。


すると海水が数十本の竜巻状に巻きあがりその一本が凄まじい大渦でレジリエンスを圧死させようとし、残りを陸地に、レジリエンスが守るべき都市へ向けて進ませる。



「あれこそ海神が遣わした古の怪物の力ですぞ。あの渦でいくつの都市が海の藻屑となったことか。今からでも遅くない、皆の衆海神に懺悔をするのじゃ。さすればお怒りを鎮めてくれるやもしれん。お嬢様も、さあ」


神殿からも見える水竜巻がこちらに迫ってくるのを見て当時を思い出してかイオアンネスが避難した住民達に贖罪を促す声を掛ける。


「まだ戦いは終わっていません。神託では海神は禍でなく希望をもたらしてくれると出ています。我々の英雄を信じるのです」


エリクシリオの演説の背後で一つの水竜巻のその上方の四分の一ほどが石に代わりバラバラに崩れる。


人々の歓声と畏怖の声にパリノスの解説が入る。「あいつめ。水の元素を土の元素に変換したな。もう恐れるものはないぞ」



大渦に呑まれながら達人は打開策を考えていた。


その時先ほど聞いた四元素の周期的循環を思い出し、各元素を対応した物に変換できるかもしれないと考えた。

水は固着し土に変わると。


(大気の水分をエナジーに変換できるならやれるはずだ)


達人の意思にレジリエンスのメカニズムが反応し水が固い土に変わる。


砕け散る渦巻の砂と水滴を浴びながらレジリエンスは水が引き地肌がむき出しになった海底を一足飛びで駆ける。


予想外の事態に動きが固まる怪物目掛けレジリエンスが杖の先端を土のエナジーで出来た戦鎚を振り上げる。


クラーケンは右手を上げてそれを受けるが戦鎚の触れた部分が石と化してボトボトと地に落ちる。


レジリエンスはその勢いを殺さず振り上げた戦鎚を怪物の胴に叩き込み宙へと打ち上げる。


クラーケンは残った左腕の触手を伸ばすが、それを踏み台に跳んだレジリエンスは怪物の頭部へ渾身の一撃を食らわせた。


属性の相性からか打たれた頭が、胴が瞬時に石化し崩れさり、その落下の勢いで戦鎚は地面を抉る。


その割れ目から金属製の箱の一部が姿を現した。


怪物の体が灰色の粒子となって消えると同時に逆巻いていた海水が元に戻る。


ほぼ同時にレジリエンスが箱を海底から引っ張り上げた。


空には魔力のバランスが崩れた為に時空の大穴が開き箱も海水もレジリエンスも飲み込んでいった。


「あれを回収します。それが私の使命ですから」


穴に飲み込まれていく新たな箱とレジリエンスを見てエリクシリオはイオアンネスにそう伝える。


お気をつけてという従者の言葉を背に土偶上の鎧を纏い彼女もまた穴に飛び込んでいった。


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