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魔甲闘士レジリエンス   作者: 紀之


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第10話 環境テロリストE₃

日曜日


八重島紗良は芹沢達人と共にf市駅近くのショッピングモールに来ていた。


だが


今日の主役ともいうべき男は紗良の後方二十メートル程にいた。


そこはこのモールで比較的人の少ない場所だった。


思えば家を出る時からもこんな調子でとかくこの男は『ずれて』いる。


[この前みたいに鎧を着こむのは禁止。試着する時にこんなの着てたら大変だから」


「そういう物か」


仕方なく鎧一式を金属箱に入れて担ぐ達人に


「それいつも担いでいるけど置いていったら?魔法で呼べないの?」


「やった事がない。だがいつも次元を超えても近くにあるからもしかしたらできるかもしれないが試している時間がなかったな」


自身の背丈ほどある金属製の箱を持って出かけようとする達人に彼女が前々から思っていた疑問を投げかける。


「今やってみましょうよ。ここに箱置いて達人は外へ出る。箱が移動すれば後は10キロだろうが100キロだろうが同じ同じ」


「さすがにそれは暴論だと思うが」


その結果だけを先に言うと達人が杖を持っていた場合に箱は転移した。


杖が何らかのセンサーになっていてそれを辿ってくるらしい。


彼は身軽に行動できるようになったが今度はモールへの経路に人の少ない通りを行くことを主張して譲らなかった。


紗良も市営バスのミイラの一件から乗物には抵抗があった。


結果2人は紗良が普段なら絶対使わない道を通って遠回りをした為に普段の三倍の時間をかけて目当てのモールにたどり着いた。




怪物にいつ変身して人を襲うかわからない




その言葉を何度も聞かされていた紗良は当初こそ対人恐怖症の言い訳かとも思っていた。


しかしその言葉を発する達人の眼には言い知れぬ悲しみと後悔の色がある事に気が付いた。


それは昔両親が自分達の不注意からまだ幼児だった息子の大樹つまり紗良にとっては弟を死なせてしまった事を話す時と同じ眼だった。


紗良自身も幼かったがおぼろげながら葬儀の時に母・梓が自分も一緒に棺桶に入るといって泣き叫んでいたのを

おぼろげながらも覚えている。


紗良は知らないがその1件以来修一郎も梓もあまりにも先の事を考えるのではなく今を楽しく生きるにはどうするか、という事を子供の教育方針に決めたのだった。


現在達人が使っている部屋は本来は大樹の部屋として使う予定だったものだ。



それが彼が来るまでは物置代わりに使われていたのを彼が居候をするにあたりそれらしく整えたのだった。


「そこにいちゃ始まらないでしょ。どういうのが好みなのよ」


「服なんかなんでもいい」


「求める物とかは?おしゃれなものとか、機能性とか」


「・・・そういうのならすぐ替えが利いてある程度頑丈な物がいい」


「中々難しい注文をするわね。となるとあの店は?」


そこは世界的に有名な衣料品店で商品の値段も手頃だった。


店に入ると達人は商品を見ているのか疑うレベルの恐ろしいスピードで店内の通路を進む。


一通り回ると地味な色のカジュアルシャツとスラックスをひっつかむと


「これと同じものを五つずつお願いします」と会計に回った。


ここまでわずか10分の出来事だった。


「ええ・・・・もう少し悩んだり比べたりしないの?試着とか」


「サイズは大体わかっている。俺が消えたら八重島さんも着れるからな」


「そういう気づかいはいらないから」


一般的な価値観とあまりに乖離した達人の考え方に紗良は眩暈を感じた。




「お昼はわたしが決めるからね」


「いいだろう」


相方の男が服装に何らのこだわりを見せない所を見せられた紗良はもしも食事までこの調子なら一緒に何を食べる羽目になるか知れたものではない、と感じこの点で妥協をする気はなかった。


最もこの男の境遇を考慮すれば悪食か味覚音痴という事も十分に考えられる。その点でいえばまずどんな店でも文句は言わないであろうことは幾分彼女の気を軽くした。


「たしかこの通りを進んで・・あったここだ」


スマホの道案内アプリで目当ての店を通りの向かいに見つけた二人は信号が変わるのを待つ。



その時店の前に路上駐車していた車がいきなり爆発した。


それを契機にしてやや時間をおいて彼らの目的の店やその周辺の駐車場や路上駐車中の自動車やバイクが次々に爆発炎上する。


市内は一瞬で大混乱となった。


「一体何が起きてるのよ!?」


「まだ伏せていろ」


達人は一瞬の機転で狭い路地裏に紗良を引っ張り込み自分の体を盾にして爆風から彼女を守った。


数分の後彼らの頭上から声が聞こえてきた。


達人が見上げると空に小さな気球が浮かんでおり拡声器で次のような音声を流し続けていた。



『我々はEキュービック。(Eliminate Enemy of Earth。略称E₃。地球の敵を排除する者の意)。人類の活動によって地球は破壊され疲弊しきっている。よって我々は地球再生のためには人類の生産活動を産業革命以前の状態に戻すべきだと結論付けた。

その手始めは大気汚染の象徴たる自動車を始めとしたあらゆる化石燃料を使う機械やそれらを採掘する産業全体を消滅させる。先ほどの爆発事故はその狼煙という訳だ。これをきっかけに全世界の人類が自らマイカーやバイクを手放してくれることを期待する。今後も住みよい地球を作るためにあらゆる作戦を並行して行うことを我々は宣言する』


「明らかに正気じゃない。連中は世界に何億台車があると思っている?」


達人は呟く。


隣で紗良は両親に電話やメールを駆使して何とか連絡を取ろうとしていた。


「もしもしお父さん!?よかったァ無事だったんだ。うん、うん私は大丈夫。お母さんはまだ連絡が取れなくて。うん。そっちも気をつけてね」


「八重島さんは無事なのか?」


「うん。大学の方にはまだ被害がないって。今日車で出かけたから心配だったんだ」


「急いで帰ろう。梓さんが心配だ」


市内は警察署や消防署・病院のパトカーや消防車さらには救急車も標的にされた為捜査や救助活動に支障をきたしており、車やバイクに近づかないよう警官が市内の各所で呼びかけていた。


二人は行きと同じ裏道を通ったことで殆ど危険な目には合わずに家に帰り着いた。


「ああ良かった。二人とも無事だったのね」


家に入るとTVをつけてニュース速報を見ていた梓が二人を見て心底ほっとした様子で出迎える。


TVから世界に向けて先ほどの気球から流れていたのと同じ内容の犯行声明否、宣戦布告が行われていた。


TV画面には一人の人物がその声明を発していたがその正体は黒ずくめのマントで全身を覆い、声も機械で変えているのか人種や性別までも分からなかった。


達人は鎧を装着すると


「できるだけ街の人を助けてくる」


「どうやって?達人一人できる事なんて限られているでしょ」とんでもない事を言い出した達人に紗良が反論する。


「方法はある」達人はそう言うと外に飛び出した。




達人は市内のあちこちで起こっていた火災を鎧のエナジー吸収能力で鎮火し、炎に巻かれ、怪我を負った人々の幾人かを救助し病院へ運び込む。


病院のスタッフはいきなり現れた甲冑人間に驚きながらも深く追及はせず自分達の仕事を優先し、怪我人の救護に当たった。


さらに速報が入り病院内のTVの画面が切り替わり大型タンカーが襲撃されているニュースが入る。


(そこにテロリストがいるのか。あちらの方が危険だ)


達人は外に飛び出し右腰のスイッチに触れる。



周囲に人がいないのを確認し、襲撃されているタンカーを頭に描きながら足元に形成した次元の穴に飛び込む。





たどり着いた先は火の海だった。テロリストに襲撃されたタンカーは黒煙を上げ、その体内の黒い血液が大海に血だまりを作っていた。

 

次元移動してきた達人は火災を『吸収』して鎮火すると目の前の明らかに動揺しているテロリスト達に向き直る。


「そんな馬鹿なことが・・お前ナニモンだ」


いきなり自分達の足元から現れた甲冑にテロリストの一人がそう怒鳴る。


こんな危険な連中に達人としてもまさか本名を名乗るわけにもいかない


「レジリエンス」ずっと考えていた鎧の名前を名乗った。


「自分たちが何をしているのか判っているのか?」


「当たり前だろう。地球再生のためには俺たちが馬鹿共を管理統制してやらにゃあならねえ。まずは資源それも石油を一切合財俺達の物にするんだよ。今の世の中石油なしには立ち行かんよなあ?そうすりゃ今まで支配される側だった俺らが今度は支配する側に回ることができるんだよ」


ただ一人いきなり現れたこの侵入者に戸惑いも見せず30前後のリーダーらしき変な顎髭を生やした男がそう答える。


「早速こぼれているようだが?」


「まだまだたんまりあるからな。時代錯誤野郎が現代技術を思い知れや!」


周りの部下たちに発破をかけ自身も部下の自動小銃と共に拳銃を撃つ。


しかし火花を散らしながらも銃弾をものともせずに前進してくる達人に押されテログループは船の甲板に追いつめられ部下が一人また一人と海中に叩き落される。


形勢は完全に逆転した。それを悟ったリーダー格の男は


「覚えておくぜ。リジレちっ、舌噛みそうな名前しやがって」


残った部下とエンジン付き(当然化石燃料である)小型のボートで爆音とともに逃走していった。



「連中は地球のことなど考えてはいない。この海がその証拠だ」


そう言って海に飛び込む。


(レジリエンス、お前が地球と人類のために作られたのならこれも吸収できるはずだ)


その思念に呼応するように藍色の鎧が重油をゆっくりとだが吸い込んでいく。


同時に強烈な悪寒と重油が内部機構を侵食することで各部がギリギリと軋み手足の感覚が徐々に無くなっていくのが分る。

「まだだ。俺は・・俺はここで」遠のく意識の中で目の端で何かが光った。


轟音と同時にタコやイカに似た無数の巨大な触手がタンカーに絡みつき海中に沈める。


その触手の内の一本がレジリエンスの右足にも絡みつき水底へ引きずり込む。


薄れゆく意識の中達人は十数メートルもの巨大な怪物と自分と同じくらいの大きさのタコかイカのようなもう1体の怪物を見た。


大きい方は次元の裂け目と同じあの赤黒い穴に変化していき周りの海水を飲み込み大渦となっていく。


もう一方の怪物に組み付かれながらレジリエンスもその渦の中心に吸い込まれていった。


時間にして五分ほどで穴はふさがり、海は何事もなったかのような穏やかな波音を立てていた。




ブンブン回るプロペラの音がTV越しに八重島家のリビングに流れていた。


「うそでしょ。達人もタンカーも怪物もみんな消えちゃった」


TV中継でタンカー襲撃の報道を見ていた紗良は隣にいる、母を見やる。


どうやってf市から数千キロ先の海上に移動したのかなどの疑問はある。


それよりも彼女の頭にあるのは達人が無事なのかという事だけだった。


「きっと大丈夫よ。あれだけ奇跡を起こしたんだだもの。そう簡単にやられたりはしない。そうでしょ」


梓は娘に向かってというよりも自分にそう言い聞かせるようにそう呟く。



一体何が起こったんのでしょうという中継ヘリからの間抜けなレポートに紗良は達人の無事を祈る事しか出来無かった。

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