地球に降りた異星人
「この星の探査も終わりだ。もう帰ろう」
相棒に声を掛けるが探査に夢中でこちらには見向きもしない。宇宙服を着ているが、通信機はオンラインになっているから聞こえているはずだ。作業に集中して聞こえないのか。
それにしてもひどい星だ、空気は放射能物質で汚染され草木も生えてない。かろうじて文明の跡はあるが、どれも崩れていて酷く汚らしい。
ふと生命反応レーダーを見るが何も反応しない。小さな生命体でも反応するモードに変えているのにもかかわらず無反応とは、小さな虫すら存在しないのだろう。
「なぁ、もう帰ろうぜ。もうここで調査しなきゃならないもんなんてないに決まってる」
「死んでるよもう。この星」
相棒は変わらず瓦礫の下を確認したり、かろうじて残っている文明の跡らしいものを探している。
俺らの仕事はそんな事に力を注ぐことじゃないだろ。文明らしいものがある星を調べて、自分の星に危害を加える可能性があるかを調査することだ。
こんな死んだ星は危害にもならんし役にもならない、早く帰って自分の星に帰って休みたいんだ俺は。
『ようこそ×××へ』と、この星の言語であろう文字が書かれた看板らしきものを踏む。この星がこんな経緯になった理由は大体予想がつく、星の住人同士が戦争して最終的に何方もほろぶと分かりながら死の兵器を両者使ったんだろう。馬鹿な話だ。
「……分かってるよそんな事、けどもっと調べたいんだ」
ようやく相棒が口を開いたと思ったら、もっと続けたいなんて宣言だった。俺は深くため息をついて暇つぶしがてら潰れた建物の瓦礫を漁った。土壌を調べるにもうこの星がこんな事になって400年以上たっている。今更調べるものなんて無いはずだというのに、こいつの趣味になんて付き合っていられない
「なんか土産になりそうなものぐらいねぇのかよ」
ぶつくさと文句を言いながら探すと金で出来た球体が出てきた。大きさはそれほど大きくないが夭折した跡がある。形状的に何か入れて錆びることのない金の中に入れたのだろう。
「おい!面白そうなものがあったぞ!」
相棒を大声で呼ぶ。この中身開けて満足できるものだったらあいつももう止めるだろう。それに俺自身この中身は気になっていた。
「金の入れ物のようだな、簡単には開けれぬよう細工がしてある」
「ああ、そんなの俺でも分かる、開けてくれ」
無茶な注文でもないだろう、相棒は手先が器用だしこんな遅れた文明が作った物を開けるなど難しくも無いはずだ。
「ああ分かった、だが注意しないとな。中身がどんなものかわからないが傷つけたらまずい。道具を用意してくれ」
相棒の目がやる気と好奇心に満ちている。楽しそうにだな本当に。俺は急いで宇宙船の工具セットを持つと相棒に渡した。相棒は受け取ると色々な道具を使い丁寧に金を切っていく、中身が壊れないように細心の注意を払いながら。
「よし、開けるぞ」
「おいまてよ、危険物かどうかのチェックはしたか。物によっては俺らも危ないぜ」
こういった仕事では不発弾のようなものが出てくることもあり危険物かどうかのチェックは重要だ。400年たっているため外に出ているその辺の危険物はもう使えるようなものではないが、このようにちゃんと保管されていたら危険性が残っている可能性は十分ある。
「ああ、大丈夫だ。チェックしたところ中身は木の成分を使って出来た薄い物だ。危険性はない」
「なんだ、開けないでそんな事までわかるもんなのか。木の成分を使って薄くした物?つまらないもんだな」
開けるまでもなく中身がわかりガッカリする。そんな物面白くもなければ土産にもなりはしない。
「まぁそういうな。だが機械のチェックによると保存状態はかなりいい。風化しない為の措置を十分にしている様子だ」
「ここまで大事にしているという事は何か意味があるものに決まっている」
相棒は目を見開いて言うが、俺はその時点で興味を失っていた。俺は大体中身の予想がついてしまったからだ。他の星でも近いケースはあったが、大体入れた本人の思い入れがあるものであるよくわからないガラクタが入っていた。
その星の文化にもよるが人形とか、何かの勲章のような物などだ。一度笑ったのがその星の金が出てきた時だ。星滅がぶというのに何を大事にしてるのかと笑ったのを覚えている。
「開けるぞ……」
相棒がやたらと仰々しく開けると中からは薄い板切れのような物が入っていた。
「……なんだこれ?お金か?」
「いや……これは……分からん」
相棒も困惑してる様子だ、真っ白いただの薄い板切れにしか見えない。手に取ってみると薄い袋状になっており中身があるようだ。
「なんでこんな形してるんだ?」
疑問になり相棒に渡してみると首をかしげながら受け取った。
「これは封がしてあるな、粘着姓のある物体で。しかし大したものではない、我々の力でも簡単に開けられるぞ」
相棒が開けると中からはまた白い折り重ねられた薄い板が出てきた。見るとこの星の言葉であろう文字が書かれている。
「なるほど、原始的ではあるが情報伝達するための手段の様だ」
相棒は興味深く文字を眺めている。こいつの様な一種の考古学者のような男なら楽しいかもしれないが、俺からしたらガラクタもいいところだ。
「なんだよこれ。なんて書いてあるんだ」
「……翻訳機能を使え。そのスーツにもその機能は付いている」
相棒は冷たく言い放つ。昨日をオンにすると意味の分からなかった文字の羅列が、我々の知る言語に変換されて見えるようになっていった。
『これを読んでいる貴方へ。
初めまして私の名前は瀬戸 健司です。近くに遺体があるとしたらそれは私です。』
これがあった場所に少し目をやるが何もない、無理もない。有機物などすでに砂に代わってしまっているだろう。
『これを読んでいる貴方が人間では無いのだと私は考えています。もし人間なら私は歓喜で身を震わせるでしょう。』
『けどそんなことはあり得ないと思ってもいます。人間は滅びます、一人残らず。自らの手で滅びてしまっていると思っています。』
「頭のいい人間だな、ご明察だ。全て滅びてるよ。」
上から目線で、すでにいない健司に向かって呟く。
『それでも、それでも私は残したかった自分の思いをこの『手紙』に乗せて。』
『今この地球という星では「混乱」「恐怖」「憎しみ」が満ちています。我々はどんどん発達して、人も増え住みやすい社会を作ったはずなのに人を「恐れ」「疑い」「妬み」今以上を常に求めたからだと思っています。』
『滅ぶと頭で理解した時私はどうにかしてこの世界に、いや世界ではなく誰かに何か残したいといった欲求に支配されました。』
『その時私が思ったのは昔宇宙飛行士になりたかったことです。理由は単純でカッコイイと思ただけですが、私にとって最初の夢でした。笑えますよね、子供のころと、人類が滅びると確信した時だけ宇宙に関心が行くなんて』
『地球はどうでしたか?信じられないかもしれませんが美しい星だったんですよ。青い海には多くの生命体が住んで。緑あふれる大地には多種多様な生き物が暮らしていました。』
『そして我々も生きていました。日々一生懸命に家族や自分のために働き、多くの娯楽に囲まれて楽しく生きていましたよ』
『けど徐々に、おかしくなっていきました。いや元々おかしな所はあったんだと思いますが、たぶん皆そこに関心は無く生きていたせいでこんな事になったと思います。』
『自分の国の事とかも考えずにただ慢性的に生き。争うようになってやっと気づくようになりましたがもう遅かったです』
『そのころには既にもう引けないところまで来ていました。いや、引けばよかったのに皆引こうとせず破滅に向かって進み。とうとう核の雨が降ることが分かりました。』
『その時私は残したかった。「自分は終わるんじゃない!」と思いたかった。滅ぶと分かった今でさえ誰かがこの手紙を見てくれるはずという「希望」が欲しかった』
『今はおかげで落ち着いた気持ちでこれを書いています。まぁこの手紙を保存する容器を作っていた時は、間に合うか分からず焦っていましたが(笑)』
『あなたはちなみにどこから来たのでしょうか?我々地球人も知的生命体の存在を渇望しながらも見つけることは出来なかったので気になります。多分こんな星がとても遅れていると感じるぐらい高度な文明を持っているのでしょう』
『そんな貴方からしたらとても原始的で、愚かな結末を迎える種族に見えるかもしれません。』
『けど結末は否定しても我々の事はどうか否定しないでほしいです。無様に見えるかもしれないですがこれでも頑張ったんです』
『平和に向けて頑張った、という訳ではないですが日々頑張っていたんです。仕事や子育て。些細な人間関係や自分のアイデンティティーを悩む者も多くいました』
『明るい未来を夢見て生きてきたんです。もう無いかもしれないですが数々のビル群や大きなダム、あれらは多くの人が協力して作りました』
『音楽や映画、ただの娯楽のようなものですがそれも多くの人の心を突き動かしてきました。それらは全て無くなり、誰の記憶にも残らなくなったかもしれませんが。それらを作り上げた人たちは苦労しながら頑張って作ったと知ってほしいです』
『私はその頑張ってきた人が作り上げたものが壊れるのが残念でたまりません。だから知って欲しいです我々を』
『覚えてて欲しいです我々人類という者がいた事を。私はこの手紙で続くと信じでいます。信じさせてください。枯れた草木が虫の住処になるように。太古の昔に滅びた生き物が石油となり我々を支えてくれたように』
『滅んだ身でも何かで関わりたいのです。この人類の歩みがすべて無駄ではなかったと思いたいのです。』
『すみません、長い話で頼み事ばかりして。どうか貴方の星や貴方自身の未来が明るく幸せなものである事を、勝手に祈らせていただきます。』
『はるか昔の友人より』
相棒の方に目を向けると深いため息をついて、丁寧にゆっくりと「手紙」を折りたたむと元の封筒に入れた。
何とも言えない気持ちで胸がいっぱいになる、まるで目の前で知り合いが死んだかのような錯覚を感じていた。
この私の星にはない手紙というものを読む内にまるで生きていたこいつの思いを直接聞いているかのようだったのに。手紙を折りたたんだ瞬快に消えてしまったかのような消失感を感じていた。
「俺……嫌な奴だな。多分、こいつらから見たら」
今までのこの地球に対する接し方を思い返し、自分に腹立たしさすら感じていた。俺はこの仕事をしている内に何か麻痺してたんだろうな。星が滅びるという事に、そして安全圏で見下しながらまるで採点するかのようにこいつらの文明を見ていた。
「いやなに、お前はこの『手紙』を見つけた功労者じゃないか。感謝してるよきっと」
相棒が珍しく優しく声を掛けながら俺の背中をさする、腹の中の自分へのどす黒い感情がゆっくりと溶けていくように感じた。
「……こいつらも……必死に生きて……多分……何とかしようとは……していたんだ……」
「……ああ」
うまく言葉に出来ないがどうしても言いたかった。懺悔のようなものではないが、誰かに自分の気持ちを聞いてほしいと強く思った。まるで手紙の主のように。
「……うまくいかなかった……かもしれないけど………それでも頑張ってたんだ」
「……ああ」
聞いてくれる相棒の相槌が心地いい、俺の気持ちを察してか優しくただ頷いてくれる相棒に、感謝があふれていく。
少し深呼吸をして心を落ち着かせる。
「ふぅぅ……俺らも外敵調査じゃなくてもっと自分自身のことを見つめなおさないとな」
「ああその通りだ、我々も全く争いのない星という訳では無いのだからな」
相変わらずのくそ真面目な回答を聞いてふと笑いそうになる、そうだな、その通りだ。
「とりあえずその手紙はどうしようか」
頭の中にまだ手紙の主の事は入っているが何とか切り替える。今はこの地球で色々としてみたくて仕方ない。
「そうだな、こんな形とはいえ我が星にぜひ招待したい」
そういって手紙を重要物管理ボックスに相棒はしまった。
「手紙を招待ぃ~?」
俺は相棒の気持ちが分かる上でふざけて聞く。こういうキャラクターだからな俺は。とりあえず二人で宇宙船に帰ろうとすると突然ブザーがけたたましく鳴り始めた。
「おい!なんだこれ!?」
「お前が持っている生命反応レーダーっだ!」
突然のことでお互い慌てる、相棒は危険な生命体の可能性も踏まえて光線銃を構えた。
「おい!どこにいる!周りには生命体何ていそうにないぞ」
「いやこっちに近づいて……」
普段レーダなんてあまり使ってないのが仇になった。見方が分からないがとりあえず近づいてはいる。もう肉眼で確認できる距離にいるはずだが……
「わかった上だ!」
叫んで上を見ると真上に翼を持った生命体が飛びながら此方を通り過ぎる瞬間だった。逞しいくちばしを持ち、鋭い眼光で飛ぶ先を睨んでいた。そいつは、こちらに目もくれずそのままどこかへ飛び去ってしまった。
閃光のように一瞬だったにもかかわらずその姿は目の裏に焼け付き、生命力を肌で感じていた。
「まじかよ……いたよ生命……」
相棒と二人飛び去った生き物の行き先をただぼんやりと見ていた。相棒も驚いたのだろう銃を下し黙ってただ黙って見つめている。どれくらい時間がたっただろうふと相棒が口を開いた。
「あの大きさなら餌になる生命体が多数いるはずだ」
相棒の言葉は俺らが今からやるべきことを語っているようにも思えた。
「…とりあえず…んっー」
ずっと固まったままだったので体を伸ばしてほぐす。いつの間にか地球を回っていた恒星が目の高さぐらいの位置にまで下がり周りを赤く染めていた。
「『頑張ろう』」
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