数字が好き
ぼくは数字が好きだ。見ているだけで楽しい。
宝くじの数字、ずっと見ていると高額当選した気分になれる。
もし、異世界に転移してしまったら『ステータス』画面をずっと眺め続ける自信があるくらいにだ。
実は、こんなに数字が好きになったのには理由がある。
それは、中学2年の出来事だった……
◆◆◆
学年が変わり、クラスメイトが変わり、担任が変わり、一部の授業の先生も変わった。
「……にしても、なんで数学なんだろう? 算数じゃ駄目なのか?」
中学生になって以来、ずっと抱いていた疑問。
数学だけ特別扱いされているようで、なんとなくお高くとまっている感じがして嫌いだった。
ガラガラ……ピシャン!
ドアが開き、新しい数学の先生が入ってきた。
「えー、2年で数学を担当することになった桑波だ。よろしく!」
なんと、ジャージの上下に大門サングラスをかけている。
いや、さすがに色つきレンズのメガネだろう。
『なんだ? この数学感ゼロの先生は! むしろ体育の先生じゃね?』とクラスメイト全員思ったに違いない。
「じゃあ、教科書ひらけ! 授業はじめるぞ!」
ツッコミどころ満載なのをほっといて授業がはじまった。
「これをこうすることによってy=x+5となるが、これだけでは答えにありつけない。『だがしかし』これを代入することによって……」
なんだ? xにyって? 数字だけでもやっかいなのに変なモノだしてきやがって!
これだから数学というヤツは……
「……x=3『だがしかし』さらにこれを代入して……」
!? 大門、いや桑波先生『だがしかし』を連呼したぞ! もしや口癖なのか?
それから、いつ『だがしかし』が飛び出すのか夢中になって授業を聞いていた。
いつの間にか、xもyもアルファベットの皮をかぶった数字だと思うようになっていた。
◆◆◆
2週間後、数学の授業後の休み時間、友人Aが駆け寄ってきた。
「今回はどうだった?」
「なんと最高記録更新だ!」
「えっ! マジで?」
「今回の記録は……42回!」
「すっげー! おーい42回だってよ、みんな!」
友人Aはクラスメイト全員に聞こえるように大声で伝えた。
42回というのは、数学の授業中に発せられた『だがしかし』の回数だ。
今や、『だがしかし』の回数報告はこのクラスの楽しみの1つとなっていた。
次の数学は……明日か。
明日も数学のノートの隅を、正の文字で埋め尽くそう!
ぼくは数字が好きだ。
すべてのはじまりは『だがしかし』……