08
レイナに男性との会話やドキドキを堪能して貰う事は一応達成出来たが、逆にカズヤの方もそれ以上に堪能する事になった。
その結果にカズヤは自分の実力不足を痛感しながら店に戻ったのだった。
「しーちゃん、ただいま」
「遅かったですねカズヤさん。今日はここでの仕事は終わりですが、引き続き何処かで馬車馬のように働いて下さい」
(お疲れ様ですカズヤ様。遅くまでご苦労様でした。明日は休みになりましたのでゆっくりとお休み下さい)
相変わらず、しずくは思っている事と口に出した言葉が違っているが、その事に雫自身は気づいてはいない。
しずくの辛辣さに慣れたカズヤは苦笑いをしながら応答していたら、何者かが奥から現れた。
「しずくちゃん、そんな言い方だと大好きなカズヤさんに嫌われるわよ」
奥から現れたのはしずくの母で名前はかえで。
突然現れた母と、母の言葉にしずくは非常に気が動転している。
かえでがしずくの言った内容を通訳しカズヤに伝えると、カズヤは少し考えてから口を開いた。
「じゃあ明日暇になったし、しーちゃん明日時間あるならデートしない?」
カズヤの申し出に嬉しさのあまり卒倒しそうになったしずくだが、彼女の口から出た言葉は例によって思いとは裏腹に別の言葉に変換されていた。
「気持ち悪い事を言わないで下さい」
(私で良ければ是非お願いします!)
「カズヤさん。通訳するとしずくちゃんは、ここに居る三人でデートしたいって言ったのよ」
かえでは微笑みながら冗談めかして言った。
その言葉に驚いたしずくは口をパクパクとさせているが言葉にならない様子。
かえでとカズヤは同じ歳。
かえでもしずくと同様、密かにカズヤへ思いを寄せていた。
その事もあって好機とばかりに便乗しようと思ったのだった。
「しずくちゃん、ちゃんと自分の気持ちを言葉にしないとカズヤさんを誰かに取られちゃうわよ」
かえではしずくにそっと耳打ちをした。
翌日。
カズヤはしずくとかえでと三人でデートする事となった。
デートと言っても、これは仕事ではなくプライベート。
仕事ではカフェ的な店で話をするだけだがプライベートではどうしたら良いのか迷うカズヤ。
自分で言い出しておきながらも、まさかの二人同時プレイにカズヤは戸惑っていた。
そうこうしている内に、しずくとかえでが現れた。
かえでは現れるや否やカズヤの腕を取って大胆にもカズヤと腕を組んだ。
デートなのだから至って普通の事だが、この世界の男子ならばいきなり女子に腕を組まれるのは発狂案件になる。
カズヤは何やら悍ましい殺気的なものを放っている方を向くと、しずくが恐ろしい表情でカズヤを睨んでいた。
カズヤはしずくが疎外感的な感情を抱いていると思い、とっさにしずくと腕を組んだ。
(これぞ、ダブルホールドアームズ!)
ダブルホールドアームズとは単に二人と腕を組む事である。
これにより、カズヤは両手に花状態になる事が可能。
多少歩きにくい状況になったカズヤだが、プライベートなデートで行先も思いつかず、例によってカフェ的な店へ向かった。
大胆にも両手に女性を侍らせて歩く姿は周りから注目を集める事になる。
そう、この世界の男子には決して真似が出来ない事だから。
カフェ的な店に到着しテーブルに案内されると、そこは一人用の椅子が二つとテーブルを挟んで対面はボックスシートの四人掛けのテーブル。
先に座ってしまうと二人の内どちらかが隣に来る可能性があると判断したカズヤは二人が座るのを待つ事に。
すると、しずくは一人用の椅子に、かえでは正面のボックスシートに座った。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! 俺が選ぶ事になっただとーっ!)
カズヤはどちら側に座るか選択に迫られた。