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07

レイナはカズヤを見つめ、ゆっくりとまぶたを閉じたのだった。


(これは完全なるキスの構え。ここは行くしかあるまい! その前に静まれ! 俺のボトムアームよっ!

はっ! い、いかん、このままではR18ルートに突入してしまうではないか…そ、それだけは何としても避けなければ…

ま、待て。キスだけなら問題は無いはず…しかもこれはお客様が自ら望んだ事…やはりここは、いかねばなるまい)


カズヤは深呼吸をしてからレイナ方を向き、両手でレイナの両肩を掴みキスの体勢に入った。

すると、レイナは肩を掴まれた振動でまぶたを開けたのだった。


「ご、ごめんなさい。一瞬寝てました」


(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! このタイミングで…寝てた…だと…

あっぶねえええ! あのままキスしてたら性犯罪者になってしまう所だったぜ…

くっ、俺とした事が、こんな単純な策に乗ってしまうとは…いや、違うな…これは恐らくナチュラルだ。

高度な策を弄する彼女が、こんな単純なトラップを仕掛けるはずがない…そんな事より今は、この状況を打破せねば…)


「あっ、よ、良かった…と、突然寝たから、だ、大丈夫かなって…」


「ごめんなさい。だ、大丈夫です…」


レイナは数年ぶりのカズヤとのデートが待ち遠しすぎて、昨晩は一睡も出来なかった。

数時間カズヤと普通の会話をしている内に緊張の糸が解れて一気に睡魔が訪れ寝てしまったのである。


その後はレイナの仕事の話を聞いたり日常的な会話をしている内に数時間が経過しデートの終わりの時間が近づいてきた。


(よし、そろそろ頃合いだろう…彼女には是非とも上のステージを堪能して頂きたい)


キス未遂事件以降カズヤとレイナの間には若干の距離が空いたままの状態になっている。

エンブレイスショルダーを実行するには、おあつらえ向きの距離。

カズヤはエンブレイスショルダーの構えに入り、レイナの肩に手を掛けようとした瞬間の事だった。


「すみません…ちょっと、おトイレに…」


(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! このタイミングでだとっ!)


「あっ、う、うん」


カズヤはまさかの事態に気の利いた返事が出来なかった。

またしてもエンブレイスショルダーの発動を阻止されたのだった。


暫くするとレイナが戻ってきた。

レイナは寂しそうな表情を浮かべながら話を切り出した。


「そ、そろそろ、時間…ですね……」


タイムリミットになってしまった。

カズヤは微笑みながら返事をし二人で店を後にした。


(くっ…今回は終始主導権を握られたまま終わったか…覆水盆に返らず……いや、まだだ! 遠足は家に着くまでが遠足と昔の人は言っていた…

ならばデートは店に着くまでがデートのはず! まだ彼女に上のステージを堪能してもらう機会があるはず!)


外は既に暗くなっていた。


(よし、まずはエンブレイスショルダーで恋人っぽい演出を…)


エンブレイスショルダーとはさり気なく相手の肩を抱く事である。

街明かりがあるとはいえ夜道だと恋人っぽい雰囲気を演出する事が可能。


「あの…て、手を繋いでもいいですか…」


「勿論!」


レイナもまた、店に着くまでの間だけでも恋人っぽい雰囲気を味わいたかった。

カズヤも同じ気持ちだったので即答し、自ら手を繋いだのだが…


(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! いきなりエンブレイスショルダーが封印されただとーっ! 

ぬかった…ホールドハンズを仕掛けるよう誘導してくるとは…ならば、ここは地の利を生かし、あの策を実行するか)


その策とは…靴の紐がほどけたフリをし、(かが)んで結び直す。

これにより自然に繋いでいる手を離す事が可能になる。


「あっ、ちょっとごめ…」


カズヤは言いかけた途中に重大な事に気づく。


(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! 俺の靴…紐が無い…だと……してやられた! 彼女にはこれも想定済みって事か…

ならば今ホールドハンズを解除するのは不自然…今の状態をキープしつつ次の策を考えねば…)


レイナはカズヤが何かを言いかけてた事を気にして声をかけたが、カズヤは何でもなかったと返答。

カズヤは策を思案しながらも手を繋ぎ暫く歩いているとレイナは突然足を止めた。

どうやら目にゴミらしきものが入ったので繋いでいた手を離し手鏡で目元のをチェックを行っている。


「ごめんなさい。もう大丈夫です」


レイナは再びカズヤの手を握り歩き始めた。


(しまったっ! 今のは千載一遇のチャンスだったのではっ!! 俺とした事が策に夢中になり好機を逃すとは…不覚…)


レイナに上のステージを堪能して貰うカズヤの策略は風前(ふうぜん)(ともしび)状態。ゴールは目の前まで迫っている。

カズヤが諦めかけていた時、レイナは再び突然足を止めた。

次の瞬間、レイナは手を離し両手で口元を抑え、くしゃみをしたのだった。


滅多に訪れないと言われている千載一遇のチャンスの二度目が突然訪れた。

二度目の好機をカズヤは見逃さなかった。


(ここだっ! 必殺エンブレイスショルダー発動!)


「夜になって少し冷えたのかな」


そう言ってカズヤはレイナの肩をそっと掴んでそのまま抱き寄せた。


皆は忘れているかも知れないが、この世界の女性は男性との会話を求めている。

更に男性と手を繋ぐ等の接触行為に憧れてさえいる。

カズヤはそんな女性に手を繋ぐより更に上のステージである、肩を抱いて密着する行為を堪能してもらうのが目的だった。

そして今、カズヤの目的が達成されたのだった。


レイナは恥ずかしそうな表情をしながら(うつむ)いて返事をした。


カズヤの店が目前に迫る中、レイナはある行動を起こした。

レイナはカズヤの肩に頭をもたれたのだった。


(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! ゴール目前でのヘッドリクラインだとーっ!!)


ヘッドリクラインとは、相手の肩に頭をもたれる事。

肩を抱くことで主導権を握ったつもりでいたカズヤだが、レイナが肩に頭をもたれた事によって立場が一気に逆転した。

これにより、カズヤの方が照れくさくなったのである。


(まさか、これ程の大技を隠し持っていたとは…見事な兵法だ、完敗だ…)


女性に男性との会話やドキドキを堪能して貰うはずが逆にカズヤの方が堪能する結果に終わったのだった。

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