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カズヤはレイナから情報収集を行い、過去に一度デートをした事を聞く事が出来たのだった。
(あっ! 思い出したっ!! 確かあの時も長時間コースで今日と同じ反応をしたような……ああ、あのデジャブー感はそれだったか…
まあ、それはそれとして…くっくっくっ。それでは存分に異性との接触行為を堪能してもらおうではないか! とは言え長丁場…まずは彼女の策を見極める為にまずはギブバックで様子をみるとするか)
ギブバックとは、相槌を打つ事である。
例え相手がカズヤの知らない話題をしてきたとしても自然に相槌を打つ事により、相手に気持ちよく話題を続行させることが可能。
(ふふっ、俺がギブバックを発動してる限り彼女は気持ち良くしゃべり続けるだろう…これで1時間位は…)
「カズヤさんは私が出てるドラマを観た事はありますか?」
レイナは質問をしてきた。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! 一発目からいきなりクエッションだとーっ! くっ…質問に対してギブバックは無効…ぬかった…彼女がアビリティーインバリッドの使い手だって事を失念していたぜ…)
この世界に来てからカズヤは殆どテレビを観ない。
観たとしても、朝起きてテレビを付けて映っている情報番組位なのでドラマなどは一切観た事が無い。
(ならばどうする…素直に観てないと…いやダメだ、それでは彼女がちょっとだけ悲しむ事になるかも知れん…仕方あるまい、ここはインダクションを発動し、別の話題に誘導するしかあるまい)
インダクションとは、別の話題に誘導する事である。
質問に対する返答に困った場合、相手に不快感を与えず、さり気なく話題を切り替える事が可能。
「あっ、ド、ドラマに出てるんだね。そ、そう、ド、ドラマと言えば…」
「あっ! そう言えば、今朝うちの猫が座ったまま寝ていて、それが可愛くて!」
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! インタラプト&インダクションだとーっ! くっ、俺の話が終わる前にインタラプトで割り込みつつインダクションで別の話題に切り替える、同時発動か…
この場の主導権を完全に握られてしまった…強い、強すぎる…しかし、とにかく今は会話を続けねば)
「ね、猫飼ってるんだ。ど、どんな…」
「それで、ドラマの私はどうでしたか?」
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! インタラプト&インダクションアゲインだとーっ!! まさか、そんな馬鹿な事があるのか…? 再びスキル同時発動に加えリターンまでも発動した…だと…)
リターンとは、話を戻す事である。
不意に別の話題になっても、スムーズに前の話に戻す事が可能。
(更に俺がドラマを観てる事前提で話すその手腕…どうやら俺は彼女の事を誤解していたようだ…彼女が兵法家なのは間違いないが、最初に策を弄すると思わせて実はスキルを多用しガンガン力押しで来るタイプだ。
いやまて…彼女の場合はそれすらもフェイクの可能性が…ここまで策とスキルを多用されると対策が…)
「あ、あのぅ…」
(はうぁっ!!! いかん! 彼女の戦術分析に夢中になりすぎていたっ! と、とにかく今は会話を継続する事に集中せねば!)
「あ、ド、ドラマですよね…………えーっと…………み、観てませんでしたーっ…」
結局カズヤはテンパっていた事もあり普通に観てない事を自供した。
「じゃあ今度機会があったら観て下さいね」
レイナは微笑みながら言った。
(俺とした事がああああああああっ!!! くっ…ここから何か挽回する策は無いのか…接触行為でこの場を…いや、ダメだ、こんな空気でホールドハンズを仕掛けるのは不自然…ならばやはり会話で…)
カズヤは上手く答える事が出来なかったので空気が悪くなったと思い込んでいるがレイナは数年ぶりのデートで常にウキウキした状態である。
カズヤが次の一手を考えている矢先、レイナがそっとカズヤの手を触ってきた。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! こ、この空気でホールドハンズだとーっ!!! はっ! 思い出した…そういや以前デートした時の帰りにも、いきなりホールドハンズを仕掛けれたんだった…
しかもオプション無しを選択しておきながら…この世界の男子なら間違いなく発狂案件、しかし俺はそこですかさず…そうだ! ホールドハンズタイトリィ! ならば前回と同様にこれで…)
カズヤが恋人繋ぎの算段をしていたら、レイナが先に恋人繋ぎをしてきた。
(なん…だと…ホールドハンズタイトリィだとーっ!!! 馬鹿な…この世界の女子にこの技を使える者など…)
「カズヤさん覚えていますか?以前デートした時の帰り道で私から手を繋いだら、カズヤさんはこの繋ぎ方にしてくれたんですよ…あの時は1日中ドキドキして眠れませんでした…」
「勿論覚えているよ。ホールド…もとい、恋人繋ぎにしたらレイナさんは一言もしゃべらなくなったよね」
「はい…本当は今もドキドキして、今夜も眠れそうにありません…」
(ホールドハンズは仕掛けた側が有利。何故ならば…仕掛けられた側はドキドキしてしまうからだ。そして俺は今…ドキドキが止まらない! 静まれ! 俺の!
しかし、彼女も相当勇気を出してホールドハンズを仕掛けてきていたとは…ならば彼女の気持ちに答えねばなるまい彼女は知らない…ホールドハンズタイトリィの更に上のステージを。望み通り披露しようではないか…エンブレイスショルダーをっ!)
カズヤはレイナの肩をさり気なく抱こうとしたが、ある重要な事に気づいた。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! ここに来てアビリティーインバリッドだとーっ!!!)
カズヤは右手でレイナの肩を抱く事を視野に入れてレイナの左側に座った。
しかし、現在カズヤの右手とレイナの左手は恋人繋ぎ状態になっている。
今のポジションでは左手で肩を抱く事は不可能。右手を使用するしか方法が無いのである。
(ぬかった…そう言う事か…これは相手の主力を叩き、相手を弱体化させる兵法…擒賊擒王だ。今回の場合は俺の主力、つまり俺の右手…それを封印する事により、俺に能力を使わせない様にして俺の弱体化に成功している…見事な策だ。
そして俺は彼女の思惑通り次の一手が打てないでいる…兵法三十六計をデートに取り込み柔軟に対応するその手腕、恐るべし…)
この世界の女性はお金を払ってまでデートクラブを利用し純粋に男性との会話を求めている。
故にカズヤが思っているような意味不明な策を弄する女性などは一切存在しない。
(ならば使うしかあるまい…このレフトハンドをっ!)
こうしてカズヤはレイナの肩を抱く為の謀を巡らせるのであった。




