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仕事を終えたカズヤは何となく公園に立ち寄った。
普段なら真っ直ぐ家に帰るところだが気分転換も兼ねて公園のベンチで一人コーヒーを飲む。
数秒間目を閉じて一息ついて目を開けると何か違和感を感じた。
(あれ? 何かちょっと景色が違うような気が…うーん…)
暫くキョロキョロと辺りを見渡すと、ある事に気づいた。
(あっ! あそこっ! 去年オープンした店が無くなってる!! えっ? 何で?)
カズヤは暫く考えてから重要な事に気づく。
(はっ! こ、これって…俺が数年前、この世界に来た時と同じ状況なのでは…確かあの時もこの公園でベンチに座って…)
カズヤは数年前この世界に来た時と同じ行動を無意識にとっていた。
(えっ!? 嘘だろ…俺ひょっとして元の世界に戻った? いや、別の世界とか…? いやいや! どっちみちやっと生活も安定したのに、あり得ないだろっ!)
カズヤは青ざめた表情をしながらこの一瞬で起こった状況を考えていると、近くに居た男がカズヤに気づく。
「あら? あんな所に男子が一人で…」
男は心配そうな表情をしながらカズヤに近寄り話し掛けてきた。
「ねぇあなた、こんな所に男子が一人でいると女子にナンパされちゃうわよ」
「えっ!?」
カズヤは驚きつつも話し掛けてきた男を見ると、そこにはカズヤの見知った男性が立っていた。
「えっ!? マ、マスター!? えっ、な、何で??」
混乱してるカズヤの目の前に立っている男性は数年前に亡くなった、カズヤの恩人であるマスターと瓜二つな男性だった。
「えっ? 何処かで会った事があったかしら?」
(ま、間違いない…このおねぇのような風貌のおっさんで独特の話し方…こんな人間は二人と居ない…マスターだ。しかし何故…待て、この状況…この世界に来た時と同じじゃないか? じゃあこれってひょっとして…)
この世界に来た時と同じ状況だった事を考えて、元の世界に戻ったか或いは別の世界に来てしまったと思っていたカズヤだったが、マスターの登場により過去に来たと考える方が有力となっていた。
一方、男は混乱しているカズヤに対し心配しながら色々と質問をしてきたが、考え事をしているカズヤの耳には入ってはいなかった。
(そ、そうだ、思い出した…それでマスターは場所を変えようと言ったんだ)
「男子なのにこんな時間に一人でこんな場所にいるなんて…何かよっぽどの事があったのね…とにかく場所を変えましょう」
男は話を聞くからと近くのカフェに行く事を提案してきた。
(やっぱり同じだ…やはり過去に来たのか…それで俺はこのおっさんが怖くてその話を断って別れたんだが…ん? 過去に来たとしたら本来この場に居るはずの過去の俺は何処に行った? 同じシチュエーションだが別の世界なのか? 考えても分からんか…)
「ねぇ、本当に大丈夫?」
(はっ! とりあえず今はマスターとの会話に専念せねば)
「あっ、は、はい。だ、大丈夫です…」
(さて、どうしたものか…過去と同じ行動を取るべきか新たな未来を切り開くべきか…まあ折角マスターと会えたんだから話でもするか)
過去のカズヤはマスターの風貌を恐れてその場で別れたが、今のカズヤはマスターを知っているので楽観的に考え、マスターについて行く事にした。
二人はカフェに入り着席すると、久々にマスターを見たカズヤの目から涙があふれてきた。
「ちょ、ちょっと! どうしたのよ!」
「えっ、あ、す、すみません…何か色々思い出したら勝手に涙が…」
マスターは心配しながらカズヤにハンカチを渡し涙をふくように言った。
暫くして落ち着きを取り戻したカズヤを見て、マスターは何があったのかを尋ねてきた。
カズヤは少し考えてから実際に起きた出来事を話す決意をし、口を開いたのだった。