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カズヤは容赦なく、そしてさり気なくありさの肩を抱いたのだった。
「!!!」
手を繋がれただけでも必要以上に恥ずかしくなるありさは肩を抱かれ驚きを通り越し声が出ない様子。
更に追い打ちをかけるようにカズヤはありさの耳元で囁いた。
「これが本当のデートですよ」
その瞬間、ありさの中で何かが崩れ去る音が聞こえた。
それと同時にありさの態度が一変した。
「あぅ、カ、カズヤ…さん…」
カズヤを見つめるありさはの瞳はハートの形になっていた。
「さっ、様!? どどどどどうした急に!」
突然のありさの変貌にカズヤは戸惑った。
(ど、どう言う事だ、これは…はっ!)
カズヤ以前、ディアナとデートした際に全く同じような現象があった事を思い出した。
(こ、これは…駆虎呑狼の計かっ!)
しかし残念な事に思い出したのはカズヤが勝手に妄想をした意味不明な策の名称だけだった。
一方のありさは、恥ずかしさが既に吹っ飛び、カズヤとの接触行為を堪能していた。
カズヤはありさの思惑を考えている時にふと時計を見ると、デートタイムが終了の時間に近づいていた事に気づいた。
(既に時間いっぱいだったーっ!)
「そ、そろそろ時間だから戻らないと…」
「えっ!? もうそんな時間なの? 早いね…」
ありさはデートの終わりを告げられ悲し気な表情になった。
(いやいや、全然早くなから! 痛い思いしかしてないし! て言うか、変わり過ぎだろ! いや…これはむしろ好機!)
カズヤはありさを更生させる為の決め台詞を考えていると、ありさは軽く深呼吸をしてからカズヤの前に立った。
「ま、また、デ、デート…してくれる…?」
ありさは少し不安そうな表情をしながらカズヤを見つめた。
「ああ、勿論さ!」
(ここだ! ここで決め台詞を! いや待て、普通に言っては効果が薄い…ならば…)
カズヤはありさの耳元に顔を近づけ囁いた。
「次にデートする時はヤンチャを卒業して真面目になったあなたを見てみたい…」
「ひゃ、ひゃい!」
突然の事に驚いたありさは裏返った声で返事をした。
それから二人は手を繋いでカズヤの店へ向かったが、道中ありさは抵抗する事も無く、うっとりとした表情でカズヤを見つめていたのだった。
店に到着。
「しーちゃんただいまー」
「カ、カズヤさん、お、お疲れ様です…」
しずくはありさに対して恐れを抱いていたが、店に来た時と比べ、ありさの雰囲気が変わった事に気づいた。
「カ、カズヤ…さん…ま、また来るから…」
そう言い残すと、ありさは足早に店を出たのだった。
(はっ! しまった! 殴られた分の追加請求をするのを忘れてたぜ! まっ、いいか…元々物理攻撃に対しての方便だっただけだしな)
「カズヤさん、先程の人、随分と大人しくなったように見えましたが何かあったのですか?」
「くっくっくっ…それは俺のデート兵法によって彼女を改心させたからさっ!」
カズヤは意気揚々に言い放った。
「はっ?何ですか?デート兵法って」
意気揚々に言い放ったカズヤだったが、しずくから冷たい視線と辛辣な言葉が返ってきた事により恥ずかしさで我に返って言い訳を始めようとしたのだが…
「い、いや、そ、それは何と言うか…」
良い感じの言い訳が思いつかず口籠るカズヤに対し、先程とは打って変わってしずくは尊敬の眼差しでカズヤを見つめていた。
「でも、あんなに怖い人を改心させるなんて、流石カズヤさんです!」
「えっ、あ、う、うん。ま、まあね! 俺くらいになると、その程度の事は造作もないのさっ!」
「はっ?ちょっと褒めるとすぐそれですか?」
再度冷たい視線と辛辣な言葉をしずくは放った。
「えええええーっ!」
(変わり身の激しさ!)
カズヤは多少調子に乗った感があった事を反省しつつ、しずくと話す際は気を付けるよう心掛ける事にしたのだった。