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ありさの言葉を策として捉えたカズヤは更に接触行為を行う事により、ありさの意表を突く事にしたのだった。
(現在の戦況は俺の右隣りに彼女が布陣、そして俺の右手は彼女の左手を握っている。更なる高みを目指すのであればエンブレイスショルダーを発動するしかあるまい。
しかし現在、俺の右手は既に使用中の為、チェンジハンズからのエンブレイスショルダーと言う策を行う必要がある)
チェンジハンズとは左右の手を入れ替える事、エンブレイスショルダーはさり気なく肩を抱く事。
カズヤは右手でありさの肩を抱く為、左右の手を入れ替えようとした瞬間、ありさが行動を起こした。
「この野郎! 好き勝手しやがって! こうなったらこっちからも手を握ってやんよっ!」
そう言うとありさは右手でカズヤの手を握ってきた。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! ダブルホールドハンズだとーっ!)
カズヤの右手はありさの左手と右手に挟まれる形となった。
(くっ、出来る…)
「な、ならばこうだっ!」
カズヤはフリーな左手でありさの手を握った。
「な、ななななな何してんだよっ!」
ありさは更に手を握られ動揺を隠せずにいる。
「何って…デートをしていますが何か?」
恥ずかしさの限界を超えたありさは無言で両手を強引に離し、カズヤが口を開くよりも早く、カズヤの顔面に強烈な右ストレートをお見舞いした。
「ほぎゃーっ」
「お、お前が悪いんだからなっ!」
「何でだよっ!」
「男のくせに手を握ってくるからだろっ!」
「うちの店は店員からも接触プレイがあるって言っただろっ!」
「それがおかしいって言ってんだよっ!」
この世界の女性は男性から手を繋いでくるなど想像すらしていないが、カズヤの様に男性から手を繋いできた場合はドキドキする程度の女性が大半だ。
しかし、ありさの様に接触行為が嫌と言う訳では無いが、恥ずかしさのあまり過剰に反応する女性も少なからず存在する。
一方カズヤはと言うと、女性は皆男性に手を握られるとドキドキしながら喜ぶと思い込んでいる。
(ぐぬぬ、まさかこれ程までに接触行為を拒絶する女子が存在しようとは…いや、この世界で拒絶はありえんはず…ならばこれも策か…しかし、知略ではなく物理攻撃は策なのだろうか…)
流石に妄想癖があるカズヤでも何度か殴られた事により、若干ではあるがありさの行動に疑問を抱き始めていた。
カズヤが殴られた事により、二人の間には若干の距離が出来てしまったが、まだ十分に手を握れる距離を保っていた。
ありさの物理攻撃を無効化する為、カズヤは懲りずに更なる接触行為を目論んでいた。
(ただ手を握るだけのホールドハンズでは彼女の反撃を許してしまう、ならば更にその上を行くエンブレイスショルダーならば彼女とて反撃は出来なくなるだろう!)
再度説明するがエンブレイスショルダーとは相手の肩をさり気なく抱く事である。
カズヤはありさに気づかれない様少しずつありさに近寄っていたが、あっさりと気づかれてしまった。
「な、何で近づいてくるんだよっ!」
「デートだからさ! さあ、観念してドキドキを堪能してもらおうじゃーないか!」
普段のカズヤならお客に対して言わない言葉だが、ありさに殴られたのを多少根に持っている事と、ありさの更生も兼ねてる事で強気な態度で対応する事に。
「もう恥ずかしいから手を繋ぐなよぉ…」
ありさは力ない声でカズヤにお願いをした。
「くっくっく。分かった…手を繋ぐのだけは止めるとしよう」
「ほ、本当か?」
「ああ、本当さ…」
カズヤの返答を聞き、ありさは安堵の表情を浮かべた。
しかし、次の瞬間!
(油断したな、ここだっ! エンブレイスショルダー発動!)
カズヤはさり気なくありさの肩を抱いたのだった。