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ヤンキー少女ありさは自分が知っている男子と余りにも違う行動をとるカズヤに戸惑っていた。
(しかし…デートは会話をするだけと言っていたのは本心なのか策なのか…現状では判断がつかんな…ならば再度仕掛けてみるしかあるまいて)
カズヤが再びありさの手を握ろうとした時、店員がありさのドリンクを持ってきた。
どうやら今日は客も多い上に店員も少なく客への対応が遅れているらしいのだが、そんな店側の都合などお構いなしのありさは、ドリンクを持ってくるのが遅い事にイラつき店員を睨みながら舌打ちをすると、ありさを恐れた店員はドリンクをこぼしてしまった。
それを見たカズヤはすかさずテーブルに置いてあったおしぼりに手を掛けた。
しかし瞬間、ありさもまた、おしぼりに手を伸ばした為、ありさの手がカズヤの手を触れる事となった。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! このタイミングで手を握ってきただとーっ!)
ありさもまた、テーブルを拭くためにおしぼりを手に取ろうとしたが、先にカズヤが手を出していた為、ありさがカズヤの手を握る形となってしまった。
これが初デートで男性に全く免疫が無いありさは、強がってはいたものの、いざ自分から手を握ろうとすると躊躇していたが、不意に自らカズヤの手に触れてしまい真っ赤な顔をして慌てて手を引込めたのだった。
(こ、これは…お互いを意識している若い男女がハプニング的に手と手が触れ合ってしまう恥じらいを演出する策…よもや彼女がこれ程までに高度な策を巡らせていたとは…)
カズヤは不意に手を握られ為、不覚にもちょっとドキッとしてしまったが冷静にありさの分析を行った。
(彼女はこの店に入った時から店員を利用する策を考えていたって事か…彼女は店員を威嚇し、敢えてドリンクを零す様に仕向けた上で俺におしぼりを手に取るよう誘導、そして偶然を装い俺の手を握ってドキドキさせる…
彼女はこれを待っていたのか…手を握るという行為だけでも店員までも利用し、先を見据えた緻密な策…これは強敵と言わざるを得ん…だが、緻密故に少しでも歯車が狂えばどうかな?)
先程は殴られたものの、再び手を握る事で相手の意表を突き動揺を誘えるとカズヤは判断。
(ならばここだっ! ホールドハンズアゲイン!)
カズヤは再びそっとありさの手を握った。
すると、例によってありさは過剰な反応を示した。
「な、ななななな何でまた手を握ってくるんだよっ!」
「何でって…くっくっく。それは…デートだからさっ!」
カズヤはドヤ顔をしながら力強く言い放った。
「だーかーらー…、何でデートで手を握る必要があるんだよっ!」
顔を真っ赤にしながらありさは拳を構えた。
ありさの行動をいち早く察知したカズヤは殴られるのを阻止すべく先程の様に言葉で対応。
「おっと、暴力での接触行為は追加料金ですよっ!」
カズヤの言葉にありさは悔しい表情をしながら拳を下した。
「て、手を離してくれよぅ…」
ありさは涙目になりながら、か細い声でカズヤに訴えた。
「ふふ、最初に手を握ると言い放った元気は何処に行ったのですかな?」
カズヤはちょっと意地悪を言う感じで質問を返した。
「はっ、初めてのデートだからナメられないようにハッタリを噛ましたんだよっ!」
(くっくっく。成程な…初デートならば男子との接触行為に免疫が無い故の態度って事か…ならば彼女の行動にも納得が…いや待て…本当に真実なのか?彼女は策士…はっ!
そう言う事か…間違いない…これは、虚々実々(きょきょじつじつ)の計だ! 彼女は会話に嘘と真実を混ぜ込む事により俺の腹を探る策を実行している…やっかいだな…ならば俺がとる策は…)
カズヤはありさの策の上を行く勢いで接触行為をする計画を目論んでいた。




