31
カフェ的な店に到着したカズヤとありさ。
カズヤの思惑通りボックスシートで二人は隣に座っている状態だが結構な距離が開いていた。
ありさは男性と手を繋いだ事すら無かったので、カズヤが隣に座った際に動揺して少し横に移動し距離を取ったのだった。
(むっ、距離を取った…だと…このホールドハンズが届かない距離感…何か策を弄しているに違いない…)
「お、おいっ! 覚悟は出来てんだろーな! 今更ビビっても遅いぞこの野郎!」
(やはり何か仕掛けてくるつもりか…しかし、この距離で一体何を…彼女の策が判明しない以上、今は現状を維持するしかあるまいて…)
「お、お手柔らかに」
カズヤは返答をすると、ありさが動くまで待っていた。
10秒経過。
ありさに動きは無い。
30秒経過。
まだありさに動く気配は無い。
更に1分が経過…
ありさは全く動こうとしていない。
(いや、仕掛けて来ないんかーいっ!)
ありさはカズヤと離れて座ってしまった為、手を繋げる所までの距離の詰め方に頭を抱えていた。
(しかし隙が多いな…今ならば簡単に距離を詰めてホールドハンズを発動出来そうだぜ…いや待て…本当にこれは隙なのか?彼女には策士疑惑がある…ま、まさか…! 誘っている…だと…くっくっく。そういう事か。
ならば彼女の行動の辻褄があうぜ…彼女は敢えて離れた所に布陣し自陣に俺を誘い込んで一網打尽にする、孔明がよく使う策を実行している…やはり彼女はデート兵法を駆使する策士なのは間違いない)
しかしこれは、お客がお金を支払って行っているデート。
いくらありさが動かないとは言え、仕事上現状を維持する訳にもいかず、カズヤは動く事に。
(くっ…俺が動かざるを得ない状況である事を正確に見抜いた上での策だったって事か…だが仕方あるまい…お客様を満足させる為には敢えて死地に飛び込む以外、俺に選択肢は無いだろう…)
カズヤはありさとの距離を縮める事を決めると早速行動を起こし一気に距離を縮めたのだが、必要以上に距離を縮めた為密着状態となった。
「な、ななななな何でお前いきなり密着してるんだよっ!! こ、こっちにも、こ、心の準備ってのがあるだろっ!」
突然のカズヤの行動にありさは混乱し、思わず本音を漏らしてしまった。
当然カズヤはそれを聞き逃す事は無かった。
(まだ準備が整ってないって事か…? ならば中々仕掛けて来なかったのは地の利を生かす為に何かを待っていたと考えると辻褄が合う。だとすると、これは彼女が策を遂行する前に打って出る好機!)
好機と思うや否やカズヤは左手でありさの左手を握った。
すると、ありさの顔が急に赤くなったと思った瞬間、ありさの右ストレートがカズヤの顔面に炸裂した。
「ほぎゃーっ」
「な、ななななな何勝手に手を握ってんだよっ!!!」
(くっ、これが真の狙いだったか…デートでまさかの物理攻撃を行使してくるとは…これは物理攻撃に対して対策をせねば俺の身が持たん…)
「つ、次に暴力での接触行為を行ったら追加料金が発生するからねっ!!」
「だ、だって! 急に手を握られたら恥ずかしいだろっ! な、何で男のお前が手を握ってくるんだよ! おかしいだろ!」
この世界の男子は言うまでも無く自分から女子の手を握ろうとする者は存在しない。
当然それを知っているありさは男子から手を握られる事等考えもしていなかったので驚いて反射的に手が出てしまったのだった。
「ふふっ。他の店はともかく、うちの店は基本お触りオッケー店だから店員からの接触行為もサービスに含まれているのだよっ!」
「聞いてない聞いてない! デートって会話をするだけだろうがっ!」
(いや、あなたも手を握るって言ってたでしょ…)
ありさはこの世界のデートクラブでの常識的な知識しか持ち合わせていなかったので、カズヤの行動に戸惑っていた。