03
ハルとのデートが終了し店へと戻る帰り道。
カズヤはハルと手を繋いで異性との接触行為を堪能してもらう為の思案をしていたのだった。
カズヤはドリンクの自販機の前で立ち止まった。
「ハルさん。何か飲みたいのはありますか?」
(くっくっく。ドリンクを飲むと言う事は…つまり! 片方の手で缶ジュースを持つと言う事! これで彼女のホールドハンズ拒否の構えを解除する事が可能!
後は構えが解除された瞬間にホールドハンズタイトリィを発動のみ! ふふっ、手ごわい相手ではあったが所詮俺の敵では無かったぜ。これでこのデートバトルは…)
「い、いえ…さ、先程、か、カフェで…い、頂いたので…」
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! ぬかった! カフェではドリンクを飲みながら会話していたんだった! くっ…俺が取るこの行動も織り込み済みって事か…つ、強すぎる…万策が尽きた…)
彼女の構えを崩す方法は山ほどあると言っていたカズヤだが実際には1つしかなかった。
(この俺が、負ける…だと…そんな馬鹿な事が…な、何か策は…)
カズヤはデート開始時と終了後の道中でホールドハンズを欠かした事は無い。
故に手を繋ぐ事無く店に到着してしまうとカズヤにとってはデートバトルの敗北を意味する事になる。
カズヤが手を繋ぐ為の策を思案している時の事だった。
突風が巻き起こり、ハルは髪を整えるのを余儀なくされた。
ハルは片手で軽く髪を整えていたので、当然ホールドハンズ拒否の構えが解除された。
その隙をカズヤは見逃さなかった。
(くっくっく。どうやら天も俺の勝利を望んでいるようだぜ)
「ここだっ! 必殺、ホールドハンズタイトリィ!」
カズヤは女性の手を取り恋人繋ぎをした。
(決まったぜ! ホールドハンズタイトリィは解除不能、あとは耳元で…)
「ヒャッ!」
女性は突然手を握られて驚いている。
カズヤは耳元で決め台詞を言おうとして女性の顔をみたら…別人だった。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! 知らない人…だと…!? な、何が起こったんだ…)
カズヤとハルは並んで歩いていた時、突風で髪が乱れたハルは停止し髪を整えていた。
カズヤは手を繋ぐ策に没頭していたので、ハルが停止してる事に気づかず歩いていた。
そこに前方から歩いてきた女性がちょうどカズヤの横を通過しようとした時にカズヤはその女性の手を握ったのである。
カズヤはパニくりながらも女性に謝罪をしたら女性は顔を赤くし満更でもない様子でその場を後にした。
(くっ、彼女は俺がホールドハンズを仕掛ける事に気づき、進軍を停止し前方からやって来る女性にホールドハンズを誤爆するよう誘導したって事か…不覚…
どんな状況であろうと地の利を生かし策に組み込む…乱世に生まれていたら間違いなく名軍師になっていただろう…そんな事より、もうじき店に到着してしまう…ここまでの完全敗北は今までに無かったぜ…)
ハルは髪を整え終わり何かを決意した様な表情でカズヤの元へ歩き出した。
そしてハルは軽く深呼吸をしてからカズヤの手をそっと握った。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! 馬鹿なっ! 彼女からホールドハンズを仕掛けて来ただとっ!!)
「せっ、せっかく、なので…」
ハルはカズヤとの会話でオプション込みと知り、勇気を出して自分から異性の手を握ってみたのだった。
(くっ、そう言う事か…つまり、今までの策は全てフェイク、最後にこれを仕掛ける事が真の目的だったって事かっ!
俺は終始、彼女の手のひらの上で踊らされていたのか…完敗だ…。だ、だが、このまま終わる訳にはいかんっ!
彼女は俺が次にとる行動もお見通しだろうが敢えて乗ろうではないか! ならば発動しよう、ホールドハンズタイトリィをっ!)
カズヤは手の繋ぎ方を恋人繋ぎに変更した。
すると、ハルは先程よりも更に顔を赤くして恥じらっている。
間もなく店に到着し、ハルとお別れをした。
(一応は手を繋ぐと言う目的は達成出来たので良しとしとくか…しかし、まだあのような策士が野に潜んでいたとは…)
カズヤは気を取り直して店へ入った。
「しーちゃん、ただいまー」
「遅かったですねカズヤさん。休む暇があったら馬車馬のように働いて下さい」
(お疲れ様ですカズヤ様。あまり時間はありませんがゆっくりと休んでいて下さい)
相変わらずしずくは思っている事と口に出した言葉が違っていた。
(ふふっ、しーちゃん。相変わらず手厳しいぜ…ぬぅ、これはっ!!)
しずくはソファーに座っていた。
(これは、あの夢にまで描いた必殺のスリーヒットコンボを試す好機ではなかろうか…威力が余りにも強すぎる為、いきなり実戦投入するには躊躇していたが…
ホールドハンズ耐性を備えているしーちゃんが相手ならば問題はあるまい。くっくっく。悪いがしーちゃん、必殺コンボの実験台になってもらうぜ!)
カズヤはしずくでコンボの練習を行う為に行動を起こした。
(よし! まずはシットネクスト!)
カズヤはしずくの左側面に布陣した。
(よし、まずはワンヒット! そしてすかさずホールドハンズ!)
カズヤは左手でしずくの左手をそっと握った。
(よし! ツーヒット成功! そして最後に禁断の秘儀エンブレイスショルダーだっ!)
エンブレイスショルダーとは、隣にいる相手の肩をさり気なく抱く技だ。
この技は、その特性上、有効射程が非常に短いので通常のデートでは使う機会が殆ど無い。
しかし今は、シットネクストの効果により射程圏内である。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!!)
しずくは背もたれに身を預けるように座っていた。
(くっ、これではエンブレイスショルダーが発動できん…スリーヒットならずか…やはり今の俺では功夫が足らんって事か…)
これはあくまでも練習と割り切り深追いはせずに、カズヤはしずくとの現状の距離感を堪能する方向にシフトした。
一方その頃。
しずくは大好きなカズヤが隣に座って手を握ってきたので冷静さを保つのに必死になっていた。
それは、しずくにとって至高の時間だからだ。
しかし、次の客が来る時間が近づいていたので真面目なしずくは仕事を遂行すべく言葉を切り出した。
「こんな事をしてる暇があったら反吐を吐きながら働いて下さい」
しかし例によって発せられた言葉は、しずくが脳内で思っていた事とは違う内容だった。
そろそろ次の客が来る時間になったのでカズヤは準備する為立ち上がった。
しずくは名残惜しそうにカズヤを見つめていた。
こうしてカズヤは次の客に備えるべく準備を行うのだった。




