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しのぶとのデートが終了し店に戻ると、明日一日このビルの緊急修繕が行われるので休みになるとしずくに聞かさた。
(またかっ! まあ、この建物も相当古いっぽいからなあ…)
明日予約のお客様にはその旨を通知し後日何らかの対応をする事に。
そして次の日の早朝。
「今日は久々の休みだが、いつも通りの時間に起きてしまって特にやる事も無いし暇だな…街でもぶらつくか…」
カズヤは基本週七日出勤で休みが無い超絶ブラック勤務ではあるが、休みがあったとしても特にする事が無い上に仕事もデートなので特に不満を感じる事は無かった。
「さてと、いつものようにシャワー入って飯食って出すもの出してっと」
…
準備も完了し、あてもなく街へ向かうカズヤ。
気が付けば、いつもデートで利用する店に入っていた。
(はっ! つい条件反射的にいつもの店に入ってしまった!)
休憩がてらにドリンクを注文し何気に店内を見渡すとデートをしていると思しき男女のペアがチラホラと目に入ってきた。
デートと言ってもデートクラブ店員と女性客なので、ペア席に座っていても二人の距離が結構開いてる。
他のペアを見てみると、テーブルを挟んで正面で向き合ってるペアは男子が全く相手を見ていないので会話らしい会話も聞こえてこない。
(ふう、やれやれ…この世界の男子は相変わらずだな…)
更に他のペアに目を向けると、そこそこ会話らしき声が聞こえるペアを発見したのだが…
(そこ返しが違うだろっ! そこで黙るなよっ! 男の声小さっ! ふうふう…ツッコミだけで疲れたぜ…俺も大概だが…って…何か…デジャブ感がハンパないな…)
カズヤはかつて他店のデートを観察した事があるのだが、そんな事も忘れその不甲斐なさに全く同じツッコミを入れていた。
(奴等のデートを見ていると女子が可哀想で見るに耐えないぜ…)
ドリンクを飲み終わったら気分転換に映画でも観に行こうと目をつぶりながら考えているとカズヤを呼ぶ声が聞こえてきた。
カズヤは目を開け声のする方を見ると、そこには二人の女性が立っていた。
「カズヤさん、お久しぶりです。今日はお休みですか?」
彼女は以前、カズヤと何度かデートをした事がある女性。そしてもう一人はその女性の友達らしき人物。
「あ、ああ、ひ、久しぶりだね…今日は久々のオフだったので…べ、勉強がてら、た、他人のデートを観察していたんですよ」
話し掛けてきた相手の名前を思い出す事が出来ないカズヤは多少キョドりながらも良い感じになるように説明をした。
(まあ、奴等から得るモノは一切無いのだが…って、そういやこの子、何度かデートをした事がある気はするが…名前が思い出せん…)
カズヤは数年間、数多くの女性とデートをしているので顔は何となく覚えてはいるが、出会った全員の名前まで覚えているほど記憶力が良い訳ではない。
「カズヤさん程の方でも勉強しているとは以外でした。だからデートがあんなにお上手なんですね!」
「ふふっ。デート道は精進あるのみですよ」
デート道の意味は分からないものの、女性は勉強熱心なカズヤに感動している。
「今度また指名させて下さい。それでは失礼します」
女性二人はカズヤから離れると何やら会話を始め、その内容がカズヤの耳に入ってきた。
「ねえ、あのパッとしないおじさんが例のデートクラブの人?」
(!!!)
「なっ、なななな何て失礼な事を言うのよっ! カズヤさんは素敵な人なんだよっ!」
(やっぱり俺の事だったーっ!)
「でもどうせデートするならもっと若い男性の方がいいんじゃない? あのおじさん何かキザっぽいし言ってる事もよく分からないし」
(ガーン!!!)
「おじさんおじさん言わないでよー! おじさんでも素敵なおじさんなの! デートしないとおじさんの良さが分からないおじさんなの!」
(いや、あなたが一番おじさんおじさん言ってるけどね…)
この後、映画に行こうと思っていたカズヤだったが、突然現れた二人の女性に打ちのめされトボトボと自宅に戻ったのだった。