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カズヤはゆっくりとディアナとの距離を縮めた瞬間、ディアナはカズヤの手を握ってきたのだった。
ディアナは冷静を取り戻し、再度カズヤが取り乱さないかの確認の意味を込めての行動。
(くっ…ぬかった! 彼女はこれを待っていたのか! 孫子曰く善く戦う者は勝ち易きに勝つ者なり…
つまり、勝ちやすい状況で勝つべくして勝つ。彼女のデート兵法…恐るべし…)
カズヤはディアナとの距離を縮める事には成功したものの、ドキドキさせる所か先手を打たれ逆にちょっとドキドキしてしまっていた。
そして数秒後、カズヤは重要な事に気づく。
(ぬぅ…手を握られた状態ではエンブレイスショルダーを発動する事が出来ん…俺の行動から次の手を察知した上での策って事か…しかも、ちょっとこのままでいたいと思う俺の心理を利用しての兵法…成程、他店のボーイがボロ雑巾の様に泣かされる訳だぜ…)
カズヤは先程行った様に恋人繋ぎにする事も考えたが、再び手を握る合戦に突入する事を恐れ、別の策を実行する事にした。
(彼女はなまら美人だから、このままでも嬉しいのだが…しかし! この程度では満足出来んと思う俺ガイル! ならばあの策を実行するとするか…)
念の為に補足説明をしておくと、カズヤが心の中で言う俺ガイルとは『俺が居る』と言う意味で使用している。
カズヤの右手はディアナの左手で良い感じに軽く握られている。
そこでカズヤはディアナの左手に自分の左手を乗せ、彼女の手を挟む形にすると同時に耳元で囁くと言う上級技を実行しようとした。
(くっくっく…彼女はドエスな剛の者。普通の女性なら失禁レベルのコンボだが彼女ならば問題はあるまい)
カズヤはさり気なくディアナの左手に自分の左手を乗せた。
すると顔には出さなかったもののディアナは一瞬体をビクつかせ驚いていたような素振りを見せた。
カズヤは好機とばかりにディアナの耳元へ顔を近づけようとしたその時、ディアナは更に自分の右手でカズヤの手を握って挟む形にしたのだった。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! 俺の手が挟まれただとーっ! し、しかし、ぐふっ、これはなかなか…)
手を握られる行為は基本後から握った方が有利、カズヤはちょっとドキドキしながらディアナの手の感触を堪能せざるを得なかった。
暫しの間堪能したカズヤは重大な事に気づいた。
(はっ! 気づいたら俺がドキドキを堪能させられていた―っ! くっ…この俺が彼女の術中に嵌るとは…しかし、両手が封印されたこの状況で打てる策は…)
カズヤは次の一手を思案していたその時、ディアナはカズヤ肩に頭をもたれてきたのだった。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! ホールドハンズからのヘッドリクラインだとーっ!! 強いにも程があるだろっ!)
以前にも説明したかもしれないが、ヘッドリクラインとは相手の肩に頭をもたれる事。
ディアナは自分から手を繋ぐ事には慣れているが、男性から手を繋がれた事は一度も無い。
カズヤに何度も手を握られ緊張し過ぎて我を忘れ、無意識の内に楽な姿勢になってしまっていた。
その結果、カズヤの肩に頭をもたれるという形になったのだった。
(過去これほどまでにデート兵法を極めた相手はいただろうか…否! 彼女は間違いなく過去最強の相手…ならば俺も全力を出すしかあるまい…くっくっく。
あの技を使う時が来るとはな…この世界の女子なら失禁を通り越して脱糞レベルの超大技だが彼女ほどの使い手ならば問題はあるまい…ならば使うか、あの必殺コンボを!)
カズヤは何やら仕掛けようとしていたが、ある重大な事に気づく。
(そういや両手が封印されたままだったーっ! くっ…俺の策を警戒しての両手封じって事か…常に数手先を見据えるその先見の明…あの超大技を使うに相応しい相手だぜ…)
カズヤが両手をフリーにする算段をしている時にディアナは動きを見せた。




