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カズヤとディアナが手繋ぎ合戦を行っていると何やら声が聞こえてきた。
「あ、あの……お、お飲み物は…」
カフェ的な店の店員は二人のやり取りを見ながら多少引き攣った表情をして恐る恐る声をかけてきた。
(そういやまだドリンクを注文してすらいなかったーっ!)
カズヤがドリンクを注文しようとした時にディアナが手を握ってきたので店員は放置状態になっていた。
カズヤとディアナはお互いを見つめ合うと一旦落ち着きドリンクを注文。
店員が居なくなると再びバトルが勃発すると思いきや、ディアナは冷静に口を開いた。
「あなた…本当に泣き叫びませんのね…」
ディアナは他店のボーイから聞いていた、にわかには信じられないカズヤの情報が真実だと確信した。
「女性に手を握られるなんてご褒美、いえ、光栄ですよ。特にディアナさんの様な美しい女性なら尚更です」
(ふふっ。決まったぜ…これで彼女は赤面しているに違いない…)
照れ顔を確認する為カズヤは余裕な表情をしながらディアナを見るとディアナは普通にドリンクを飲んでいた。
(馬鹿な…この言葉プレイで赤面しない女子が居ようとは…まさかの言葉耐性スキル保持者だったか…ならばやはりアレをやるしかあるまい…)
唐突ではあるが、ここで少しおさらい。
この世界はカズヤが元居た世界の平行線上に位置する所謂平行世界。
カズヤがこの世界に転移した以外にファンタジー要素は一切無い。
故にカズヤがたまに口にするスキルや能力といった類の超常現象的な力も存在はしない。
カズヤが中二病的に妄想を膨らませているだけなので、そこは生暖かく見守るしかない。
話は戻って、ディアナも外国人とは言えこの世界の女子なので男子からの誉め言葉に動揺しない訳がない。
冷静さを装って落ち着く為にドリンクを飲んでいたのだった。
そんな事を知る由もないカズヤは定番の接触プレイに戦略を切り替える事に。
しかしディアナは相手の手を握る等の接触行為によって若い男子を泣かせる事が好きなドエス女性。
そこでディアナには好きなだけ手を握らせ自分は全く動じないと言うこの世界の男性には考えられないプレイを見せつけてハートを鷲掴みする作戦。
(くっくっく…確かに先程のこちらから手を握ろうとする行為は悪手だったぜ…握手だけにっ!)
カズヤはいい歳をしたおっさんである。
それ故に悪手と握手をかけた様な糞寒いオヤジギャグを脳内で言う事はあるが、それを言葉に出さないだけまだマシと言える。
カズヤはディアナが手を握ってくるのを今か今かと待ち続けるもディアナは一向に手を握ってくる気配は無かった。
それは先程のカズヤの言葉プレイに動揺している自分を落ち着かせている為。
(仕掛けて来ない…だと……彼女からは仕掛けて来ない上に言葉プレイも通用しない…ならばやるしかあるまい…ホールドハンズの更に上を行く技…エンブレイスショルダーをっ!)
過去に幾度となく説明をしているが、エンブレイスショルダーとはさり気なく相手の肩を抱く事。
相手は自ら手を握る行為をしてくる程の剛の者。
そんな相手に手を握るだけではドキドキを与えられないと思ったカズヤは更なる接触行為を行う事にした。
カズヤにとっては仕事ではあるがこれはデート。
女性はお金を払ってでも男性との会話を望んでいる。
真面目でサービス精神が旺盛なカズヤはお客に対し手を抜いたりはしない。
カズヤとディアナは多少離れた位置に座っている。
手を握る分には問題の無い距離だが相手の肩を抱くとなるともう少し接近する必要がある。
カズヤはディアナの反対側の肩に手が届く位置までゆっくりと距離を詰めた。
すると、ディアナは油断していたカズヤの手を握ってきたのだった。




