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しずくとかえでと三人でプライベートなデートをしたものの結局何も出来ないカズヤだった。
それから数日後。
今日も今日とてカズヤは朝から客とデートを行っている。
カズヤはこの界隈、いや、この世界のデートクラブに於いて一番人気と言っても過言ではない。
それはカズヤの接客態度にある。
カズヤが元居た世界では男性の貞操観念が高い訳ではなく至って普通な男女の関係を構築している世界。
カズヤはそのアドバンテージを生かして女性と接しているので、この世界の男性には決して真似が出来ない事を実現している。
とは言えカズヤはそれらを意識している訳ではなく普通に振舞っているだけである。
通常のデートクラブでは手を握る等の接触行為を行う場合にはオプション料金が発生する。
勿論それは、女性がお金を支払って男性に触れる為に存在するシステムだ。
これは店によって値段は異なるが、そもそも店によってはオプション無しで接触行為自体がNGの店も少なくはない。
カズヤの店にもオプションは存在しないが接触行為は基本料金に含まれている唯一の店。
デートの行き帰りでカズヤは相手の手を握るように心がけている、そんなカズヤの対応が人気に繋がっているのである。
そしてカズヤは今、カフェ的な店でデート中。
デート相手の名前はゆずの、学生。
見た目的には派手さは無く、至って普通の女性だが、若干オタク的な感じにも見える。
「ゆずのさんは趣味と言うか、今は何にハマってますか?」
(ふふっ、彼女は間違いなくこっち側の住人と見た! 今やってるあのアニメ見てるかな~)
「い、今は…ファ、ファッションに興味があります…」
(とんでもなくレアなのキターッ! ファーブルしょんぼり物語。略してファーしょん…くっくっく。敢えて誰も観てないであろうアニメをチョイスして俺を試す気か…だが残念だったな、俺はそんな糞アニメも押さえているぜ!)
「なるほど、ファーしょん! い、良いですよね! わ、若い子に人気なアレだし!」
(いや、若い子に絶対人気ないだろ! 自分で言ってて切なくなってくるわ!)
「はい…でも学校の課題が大変で…」
「えっ!?」
(学校の課題…糞アニメを題材とした何かをアレする…って訳ではないだろうし…どんな学校なのだろうか…)
カズヤは恐る恐るどの様な学校なのかゆずのに尋ねるとファッションデザイナー専門学校の一年生との事だった。
(ぬかったーっ! ファッションかよっ! アニメ脳が先行し過ぎて血迷った解釈をしてしまったぜ…軌道修正をせねば…)
カズヤは毎度意味不明な妄想をしている訳ではなく大抵の場合は妄想なしで普通に接している。
自分が不得意な話題の場合、無理に話題に入ったり話題を変えたりせず、聞き上手な感じで相手に気持ち良く会話を楽しんでもらっている。
ゆずのとのデートは何事も無く終了。
帰り道、当然の様にカズヤは相手と手を繋いで帰るが、これも大抵の場合はすんなりと手を握れている。
恥ずかしさで自分から手を繋ぐ事が出来ない女性にとってカズヤの行動に惚れる女性も少なくはない。
そのせいもあって、カズヤの客はリピーターが多い。
そして間もなくカズヤは店に到着した。
「しーちゃんただいまー」
「おかえりなさいカズヤさん。結婚して下さい」
「えっ? け、結婚!?」
しずくはカズヤとの会話を実母のかえでに指摘されて以来、無意識ではなく頭の中で思った事を口に出すよう心掛けるようになった。
その結果、話そうとする内容の他にカズヤに対する想いまでも時折、口に出てしまうようになってしまった。
「結婚なんて言ってません」
「いや、でも…」
「そんな事より次のお相手ですが……次のお相手はギャルです!」




