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再び三人が横並び状態になった事でカズヤはダブルホールドハンズを決行する事に。
好機が訪れるも、カズヤは見逃してしまったのだった。
二人はドリンクを飲んだり、お花摘みに行ったりと中々二度目のチャンスは訪れなかった。
そんな折、しずくが戻って来た時にチャンスが到来した。
かえでの両手は膝の上。
しずくは左手にドリンクを持ってはいるが、右手は膝の上にある。
(今だーっ!)
カズヤは目を見開き、二人同時にホールドハンズを発動した。
握った感触から太ももではなく、二人共手を握ったと確信。
(くっくっく。この難易度Aの技を食らって二人共、さぞドキドキして…)
カズヤは目を閉じながら満足げな表情で成功した余韻を堪能していたら、それは突然やってきた。
パシャー
突然手を握られビックリしたしずくは左手に持っていたドリンクを放り投げてしまった。
それは見事にカズヤの頭に落下し、カズヤはドリンク塗れになったのだった。
「キャーッ! カズヤさん大丈夫ですか!」
かえではバッグからハンカチを出す為、握られている手を振りほどこうとした。
(いかん! このままではホールドハンズが強制解除されてしまう! 斯くなる上は…)
カズヤはホールドハンズを維持する為、ある秘策を実行する事に。
(今は緊急事態、あの技を使うのも止む無しか…ならば使うか、イリュージョンをっ!)
イリュージョンとは、相手に現在の状況を錯覚と思わせる事。
カズヤの巧みな話術によって相手は恰も錯覚を見てると思わせる事が可能。
「だ、大丈夫です! 全く濡れてませんからっ!」
「い、いえ、早く拭いた方が…」
「ぜ、全然全くこれっぽっちも濡れてませんからっ!!」
カズヤは数年デートクラブで働いて数々の女子と会話をしてきたが、全く話術は進歩してはいなかった。
当然のようにかえでとしずくには頭からドリンクをかぶったカズヤが映っている。
(イリュージョンが通用しないだとーっ!)
ホールドハンズ作戦が失敗したと判断したカズヤは二人の手を離し、仕切り直す事にした。
数分後、落ち着きを取り戻した二人を見て再度行動を起こす事に。
(ふふ。先ほどはアクシデントによりアレだったが、今度はステージを一段階上げてエンブレイスショルダーでドキドキを堪能して貰おうじゃーないか!)
エンブレイスショルダーとは、隣にいる相手の肩をさり気なく抱く事。
この技は有効射程が非常に短いので通常のデートでは使う機会が殆ど無いが、今回二人は有効射程内に存在する。
ホールドハンズとは違い相手の手の位置を把握する必要は無いが、二人同時に発動すると言う点において難易度は通常のエンブレイスショルダーよりアップする。
会話がさほど得意ではないカズヤは決まって接触行為によって場を繋ごうとするが、この世界においてそんなカズヤより会話が得意な男子は存在しない。
それだけ、この世界の男子は酷い有様なのである。
(くっくっく。俺と頻繁に会っている二人にはホールドハンズの効果が薄いかもしれない。しかーし! エンブレイスショルダーならば確実にドキドキさせる事が可能。後は仕掛けるタイミングなのだが…)
エンブレイスショルダーは相手の肩を抱く技。
その特性故に対象の背中が椅子の背もたれに密着している状態では発動する事が出来ない。
発動させる為には手を通す隙間が必要となる。
カズヤは二人の背に空間が出来る機会を窺っていると、かえでの口から予想外の言葉が飛び出した。
「カズヤさん、今日は楽しい時間を有難う御座いました。そろそろ夕食の買い物をしますので失礼させて頂きますね」
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! これだけ前振りをしたのにエンブレイスショルダーはお預けだとーっ!)
かえでは立ち上がりカズヤに会釈をすると、しずくと共にその場を後にしたのだった。




