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しずくとかえで、二人とデートする事となったカズヤ。
しずくにホールドハンズを仕掛けるも、手を握るどころか太ももをギュっとしてしまった。
しずくはちょっと怒ったような表情をしながら涙目でカズヤを見ていたのだった。
(怒っていらっしゃるっ! いや待て、本当に怒っているのか? あの涙目はアゲイン。つまり再び太ももをギュっとして欲しいと言うサインなのでは? ならば…)
二人の異変に気付いたかえでは心配になりカズヤに声をかけた。
「はうぁっ!」
カズヤは自分に都合の良い妄想をしている最中、不意に声を掛けられ驚いて声を出してしまった。
かえでの声で冷静になったカズヤは空気が重い現在の状況を打破すべく思考を回転させている時、かえではさらに口を開いた。
「カズヤさん。次は私の隣ですよ」
そう言いながらかえでは自分の隣の席を手でポンポンと軽く叩いた。
(ぬぅ…確かに現状を打破出来ない以上、ポジションチェンジも止む無しか……ならば乗るしかあるまい! このビッグウェーブにっ!)
カズヤは徐に立ち上がり、そのままスタスタと歩き、かえでの隣に着席した。
隣のかえでと話つつ時折正面を向き、しずくのサポートも行う完璧な策。
などと目をつぶりながらカズヤが考えていると、かえではしずくに話し掛けた。
「しずくちゃん。どうしたのかしら?」
かえでは微笑みながら冗談めかして言ってはいるが、二人は決して仲が悪いわけではない。
むしろ仲は非常に良く、今回のデートもしずく一人だと会話にならないと判断し、サポート役としてかえでは同行したはずだったが…
かえでもまたカズヤに想いを寄せているので、会話を楽しんでしまっていた。
かえでの言葉が気になったカズヤは片目を開けて正面を見ると、そこにはしずくの姿は見当たらなかった。
カズヤは恐る恐る横を見るとしずくが座っていた。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! 最初の布陣に戻っただとーっ!)
三人が横並び状態での会話は困難。
それは先程しずくへの対応を疎かにしたカズヤが抓られた事で身をもって体験している。
それを踏まえて、かえでの会話に対応しつつカズヤは行動を起こす事にした。
(くっくっく。いいだろう…実践投入は初めてだが使わざるを得まい…ダブルホールドハンズをっ!)
ダブルホールドハンズとは、両手で相手の手を握る事。
本来は対象一人に対して行う技だが、今回は二人に対して行う事となる。
二人の手の位置を把握しなければならないので難易度が一気に跳ね上がる大技である。
この技を成功させる事ができたなら、二人にとって満足な結果になるであろう…と、カズヤは思い込んでいた。
カズヤはまず二人の手の位置を確認。
かえではカズヤの右側、手を握る場合は左手となる。
しずくはカズヤの左側なので右手を握る事になる。
そして、しずくは今、右手にドリンクを持っている。
この技は二人同時に行わなければ意味が無い。
カズヤはかえでと話しつつも二人の手が各々の膝の上に来るのを待っていたのだが…
(一向にシンクロする気配が無いーっ!!)
しかし、好機は訪れた。
先程から頻繁にドリンクを飲んでいたしずくの両手は膝の上に。
既にドリンクを飲み干しているかえでの両手はずっと膝の上。
(くっくっく。この瞬間を待っていたぜ! 思えば長かった…二人の手の位置がシンクロする確率は恐ろしく低い。仕事デートの相手と同様に策を施されてるかと…)
カズヤが心の中で無意味に長々と、ここまでの道のりの想いに耽っている途中、かえでは左手を上げて店員を呼んでドリンクの注文を行った。
(ぬかったーっ! 千載一遇のチャンスを逃しただとーっ!)
注文を終えたかえでの左手は膝の上に行かず、右腕を掴んでいたのだった。




