10
しずくとかえでとで普通にデートする事となったカズヤ。
三人でのデートはあまり普通ではないかもしれないが、デート内容はいつもの仕事デートと相違ないと言う意味で普通である。
三人は横並び状態でカズヤは中央に居るので両サイドの二人に対してホールドハンズを仕掛ける事が可能。
ちなみにホールドハンズとは、さり気なく相手と手を繋ぐ事でカズヤが勝手に命名。
しかし、会話をする際は、会話をする相手の方を向くので、もう一人の方が疎かになってしまう。
ホールドハンズを仕掛ける事に夢中になっていたカズヤには盲点だった。
(ぬかったーっ! この布陣にはそんな落とし穴があったのかーっ!)
かえでは年の功もあってか、積極的にカズヤに話し掛けている。
対してしずくはと言うと、恥ずかしさで全くカズヤに話し掛ける事が出来ないでいる。
更にカズヤはかえでの方を向いているので、しずくは孤立状態になっていた。
そこでしずくはある行動を起こした。
「ほぎゃーっ!!」
突然カズヤは叫び出した。
「ど、どうか、なさったのですか?カズヤさん」
心配するかえでに大丈夫と言い逆に謝るカズヤ。
カズヤはしずくを見ると、しずくは何食わぬ顔でドリンクを飲んでいる。
そう、カズヤはしずくに抓られたのだった。
(ここにも伏兵が潜んでいたか…)
三人横並び状態では同時に二人を相手に出来ないと判断したカズヤはホールドハンズ作戦を諦め二人の正面に座る事にした。
(トイレに行ったふりをして二人の正面に陣取る策。二人を見て話せるから完璧だぜ…)
カズヤはちょっとトイレに行くと言い、離席してから数分後に戻ってきてみると…
何故か、しずくは一人用の椅子に座っていたのだった。
(なっ、何いいいぃぃぃぃっ!!! 俺の策が看破されていただとーっ!)
カズヤが居なくなった事により、かえでにライバル心を持っているしずくは気まずさもあり席を移動していた。
(ならば致し方あるまい、作戦を第二フェーズに移行せざる負えんか)
カズヤは二人の正面に座る事を諦めしずくの隣に座った。
しずくの隣に座る事で正面のかえでと話を続けても、しずくの気持ちを若干でも緩和出来ると判断したからだ。
数分後。
相変わらず、かえではカズヤにあれこれと話し掛けている。
しずくを気にしてカズヤは時折話を振るも返答が無い。
しずくはデート前、かえでに言われた事を気にして言葉にするのを躊躇っていた。
(しーちゃんはいつもの辛辣キャラじゃなく無言キャラか…デートで無言もどうかと思うが…ならばやるしかあるまい! ホールドハンズをっ!)
カズヤはかえでと話しつつ、しずくの様子を窺う為、手を握ってみる事に。
しずくは手を膝の上に置いている。
つまり、テーブルの下にあり、かえでの位置からは見えないが、隣に居るカズヤには見えていた。
(ふふっ。しーちゃん、隙だらけだぜ。これではホールドハンズを仕掛けてくれと言わんばかりではないか)
カズヤは片手を膝に置き、そのまましずくの方へスライドさせ、余裕をぶっこいて手を握りにいった。
「ひゃっ!」
しずくは軽く悲鳴をあげた。
カズヤは驚いてしずくを見てみると、しずくの手は既に膝の上には無くドリンクを持っていた。
しずくは恥ずかしさや緊張でドリンクを飲むペースがやたらと早かったのだ。
カズヤはしずくの太ももをギュっとした為、しずくは驚いて声を出したのである。
(ぬかったーっ! 俺が一瞬目を離した隙にホールドハンズ対策をしていたかっ!)
カズヤは恐る恐るしずくの顔を見ると、しずくはちょっと怒ったような表情をしながら涙目でカズヤを見ていたのだった。