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忘れてくれない

「やぁ、ブルーティー嬢」


 昼休憩中です。いつもわたくしは家で作ったお弁当をこの花壇前のベンチで食べて、それから手入れをするのですが。まさか、謝罪をされた翌日である本日、昼休憩になった途端にフィンドル様がいらっしゃるとは思ってもみませんでした。


「ふ、フィンドル伯子様⁉︎」


 動揺して声を上げてしまい、ハッとなる。彼は何故かわたくしの動揺には構わずに、わたくしの隣に座りました。


「あの……?」


 さすがにこの距離は婚約していない男女の距離では無いですが。図書館や教室の隣の席とは別ものです。


「そのサンドウィッチ美味しそうだね」


 わたくしのお弁当を見るフィンドル様。籐で編まれた籠に紙を敷き、その上に茹で卵のサンドウィッチ(パセリ和え)とレタスとハムとチーズのサンドウィッチがわたくしのお弁当です。これは自分で作っていまして、お父様とお母様が興味津々だったので、前世の記憶から作りました、と伝えたらお父様とお母様と7歳下の弟の分も一緒に作っているのですが。


(この方には知られたくなかったなぁ……)

 なんて、正直思ってしまいました。この方の前世で何度どころか何十回も作ってあげたものですから。仮令記憶が無くても、なんとなく知られたくなかった。でも、知られてしまいましたね……。


「ええと、何故、ここに? 昼食は摂られましたの?」


 サンドウィッチから目を離さないフィンドル様に声がけをすれば、フィンドル様は首を左右に振りました。食べてない、と。何故ですか。食堂に行って食べてくれば良いのではないでしょうか……。


「ブルーティー嬢、食堂で見かけたことがなかったから、ちょっと気になって」


「気になさる理由が解りませんが」


「うん。私も解らない。ただ、どうしても君の笑顔が懐かしいと思うから、その理由を知りたくて」


「ええと」


「ブルーティー嬢と私は会った事が無いよね。昨日は公のお茶会にてすれ違ったのかもしれない、と言われて納得をしたけれど。本当にそうだったのなら、君のその前髪が印象に残っているはず。確か、君のその前髪は噂によると幼い頃からなんだろう? 茶会に出る年齢は早くて5歳前後。その時には既にその前髪だったはず。当時から噂になっていたからね。という事は、やっぱり会ったことが無い。それなのに、どうしても懐かしいと思う自分が居る。だからその気持ちの理由が判るまで、君と関わりたいと思ってね」


(あああ……適当に言った事が無かった事に……。おまけにわたくしの存在など忘れて欲しいのに、関わって来ようとしています……。さようなら、平穏な学院生活……)


 フィンドル様は伯爵家の嫡男。つまり跡取りですから、そこそこにモテるわけです。顔も前世より3割増しくらいカッコいいので余計です。そんな人ですから朝も昼休憩も放課後も女の子に囲まれている事は遠くから見ていて知っていました。そんなこの方がわたくしに関わっている、なんて知られたら。わたくしの平穏な学院生活なぞ軽く吹き飛ばされる事でしょう。……嫌だぁ。


「ええと。婚約者でも無い男女の距離感では無いので、遠慮させて頂きたいのですが」


 一応抵抗します。


「じゃあ婚約する?」


「嫌です」


「即答?」


「あのですね。揶揄われるのが好きなわけでは無いのです。ウソコクだろうと冗談の一環としての婚約発言だろうと、不快です」


「いや、その。嘘の告白は済まなかったと思ってるけど、婚約は冗談じゃなくて。君と一緒に居る正当な理由として、婚約したいと思う」


「笑顔が懐かしいから気になる程度で婚約しないで下さい。伯爵家の嫡男であるフィンドル様なら、いくらでも縁談は組めますよ」


 この国では親世代だと政略結婚も有りましたが、最近は恋愛結婚の風潮に押されて、公爵家や侯爵家どころか王家も婚約者を決めていないので学院は婚活の場でも有ります。


「それはそうかもしれないが。……取り敢えず、君に嫌われたくないから、今日はそのサンドウィッチをくれれば引き退るよ」


 今日は、の部分が引っ掛かりますが、溜め息をついて卵サンドを上げました。パセリで彩を添えていますが、キュウリだと水分が含まれて美味しくない、と我儘を言っていた何処かの夫の所為で、生まれ変わってもパセリを和えていました。パセリ和えの卵サンドがお気に入りだった何処かの夫は、どうやら生まれ変わってもお気に入りのようで、一口食べたらヘニャリとした笑みを浮かべました。ーーその笑顔も変わらないんですね。


「明日も食べたい」


 わたくしは聞かなかったフリをしましたが。明日も作ってしまうのは自分でも分かっていました。


 そうして気付けば毎日フィンドル様はやって来て。サンドウィッチを必ず一つ食べるようになりました。絆されているのは解っていますが、それでもわたくしは、彼のヘニャリとした笑顔が見たくて仕方ないようです。

 まぁ少しずつ彼の婚約者の座を狙う令嬢方からの嫌がらせも始まりましたが。

 それでも彼があの笑みを浮かべている間は、どうしてもやめられない。


 何故でしょうね。

 平穏な学院生活を送りたいのに。

 嫌がらせなど受けたくないのに。

 彼と関わると面倒なのに。

 それでも。


 彼が笑顔になれるのなら、どうしても彼の大好きな卵サンドを作って上げてしまうのです。


 そんなある日の事でした。

 おそらく呪われた目隠れ令嬢と呼ばれるわたくしにコソコソと嫌がらせをしていても、別に自分達が呪われるわけではない事に気付いた誰かが、直接的な攻撃へと切り替えて来ました。口で攻めて来る程度なら良かったんですけどね。

 嫌がらせ行為も直接的な物が無かった上に、学院に入学前も入学してからも友達が居ない事がマイナスになってしまったらしく、階段から突き落とされかけました……咄嗟に手すりを掴んだ自分を褒めたい。


 心臓がバクバクとして深呼吸をします。直ぐに振り返りましたが、誰も居ません。……ですよね。自分が犯人です、なんて間抜けな事はしないですよね。嫌がらせはある程度覚悟していましたが、直接攻撃はさすがに油断していました。さて、どうしましょう。簡単なのは、フィンドル様を拒絶すること。

 自分の命と比べたら拒絶する方が簡単です。あのヘニャリとした笑顔を見られなくなっても、命の方が大事。


 それが解っているのに、拒絶する一言が出てこないわたくしは、前世よりも愚かな人間になってしまったのでしょうか。

 結局、階段から突き落とされ掛かったというのに、それでも、今日もまた、フィンドル様を受け入れています。


「フィンドル様」


「ん?」


「笑顔が懐かしい理由、解明出来ましたか?」


「ううん、まだ」


「そうですか」


 ずっとフィンドル様と共に居た令息方も、わたくしと共に居る事を揶揄している事も知っています。そろそろこうなってから10日以上が経ったので、限界でしょう。


「フィンドル様、解明出来ない謎はもう置いておいて。謎は謎のままでも良いのではないでしょうか。そろそろ、ご友人方と昼食を摂る方がいいと思いますわ」


「ブルーティー嬢は、私と昼食を摂るのは嫌か?」


「楽しいひとときですが、元々、あまり人と関わらないので何となく落ち着かないのです」


「今更?」


「今だから、です」


 わたくしは曖昧に笑って「だから今日を最後にしましょう」 と、ようやく拒絶する一言が言えました。フィンドル様は納得出来ないようなお顔ながら、渋々頷かれました。


 ようやく、わたくしの存在を学院生の一人、という今までのものに戻してくれそうです。











お読み頂きまして、ありがとうございました。

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