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わたくしのこと

 レアリア・ブルーティーはわたくしの今の名前です。前世は日本人でした。ステンス・フィンドル伯子様は、日本人だった頃の幼馴染みで。幼稚園から一緒でした。家も近所ですから親同士も割と親しかったのです。小学校も中学校も高校も一緒でした。日本人の頃のわたくしは、恋愛に興味が持てず、母からはフィンドル伯子様の前世である幼馴染みとの関係を良く勘繰られましたが、何にも有りませんでした。彼もわたくしを幼馴染みとして見ていたのは知ってます。何しろ、彼の初恋の相手も、初めての彼女も知ってますから。


 その目がわたくしを見るのとは違い、暖かみが有って常に追い続けていたのを見て、そういうことか、と納得したものでした。青春ねぇ……と呑気に見ていられるくらいでしたが、幼馴染みとはいえ女が近くにいるのは嫉妬を呼び起こすと思い、離れたものでした。時々彼を見かけて初めての彼女と仲良さそうにしているのは、良かった良かった、と思っただけです。わたくしも自分の友人との付き合いや部活に夢中で、高校の頃は彼との接点はほぼ消えていましたね。精々、貰い物の野菜を母に言われて彼の家へ持って行き、彼のお母さんと話すくらいでしたか。


 関係が変わったのはわたくしと彼が大学を卒業した後でした。その、なんていうか、彼はその時にお付き合いしていた女性から「下手クソ」 と言われてしまったようで。その時の彼女は最初の彼女ではなく、大学で付き合っていた3人目の彼女だったそうです。で、まぁ、その、彼は3人目の彼女を相手に脱したそうですが。ハジメテの彼と何人かのお相手と経験していた彼女と。……上手くいかなかったようです。


 久しぶりに会った彼が「下手クソ」 と言われて振られてしまい、落ち込んでいた時だったようで、慰めていたものの、互いにお酒が入ってましてね。わたくしは一人暮らしをしていたのですが、仕事帰りに偶々彼と再会したら、そんな状態の彼です。放ってもおけずに一人暮らし先のアパートに彼を連れ帰ってお酒が入った事でわたくしも彼も理性が飛んだのでしょうね。うっかり流されて関係を結んでしまいました。


 相変わらず恋愛に興味の無いわたくしは、当然、ハジメテでして。翌朝彼は責任を取る、と真っ青な顔で言いましたが、経験する事が無かったと思うから、別にいい。気にしないで、と断って。そこから何となく付かず離れずの距離感で付き合いが続き。気付いたら互いに30歳を迎えていました。その間に、彼に恋人が出来ればわたくしは離れていましたし、彼が振られると慰める関係で。友人からは、都合の良い女扱いされていいのか、と言われた事も有りましたが。わたくしには恋愛感情が芽生えないものですから、気にならない、と良く言っていたものです。


 で。30歳になったことを機に、彼がわたくしに責任を感じて、結婚を持ち出して来たわけです。10回くらいお断りしたのですが、何故か珍しくしつこくて、結婚しました。それから1年か……2年か。彼と2人で買い物に出ていた時に、道路に飛び出す子どもを見まして。彼が子どもを庇うので、うっかりわたくしも彼を庇ってしまいました。そこで意識が途切れて、気付いたら、女神様にお会いしていまして。


『そなたは、夫と共に子どもを守って死んだ。子どもを守ったことに報いようと思う。夫の方は、既に別世界に転生させた。そなたも同じ世界に転生させようか?』


 と言われましたので、お断りしたのです。

 いや、別に転生してまで生きたいとは思っていなくて、ですね。このまま死後の世界で良いんですけど。って言ったら、女神様が渋い顔をしました。


『2人共、寿命より前に死んだから、寿命が余ってる。そういう人間を死んだままにしておくのは、神でも許されないのだ。生死を司る神に怒られてしまう』


 とのこと。女神様が怒られるのは可哀想なので、その生死を司る神様に、このまま死後の世界で良いですって言ったら、わたくしが怒られたんです。理不尽じゃないですか? 人には決まった寿命が有って。その寿命より先に死ぬ人は偶に居るけど、そういう人には、生まれ変わらせて生まれ変わった分を合わせて生き直させないといけないとかなんとか。

 随分と面倒ですね、と言ったら、神様でもどうにもならない摂理だと言われてしまいました。摂理というのは……とか説明が始まりそうだったので、お勉強は出来ないわたくし、これ以上はお腹いっぱいだったので、仕方なく「転生します!」 と宣言して、わたくしを死後の世界に連れて来たのが先程の女神様だから、という事で女神様が見守る世界に転生させられました。


 つまり、先に転生した夫と同じ世界です。しかも、夫婦で転生なんて中々無いから、と女神様が夫と同い年にして、会えるようにして、会えたらわたくしの記憶が蘇るようにしておく、とか言われました。特典だそうです。要りません! と言ったら、愛する夫に会いたくないのか問われました。わたくしは恋愛感情が解らないのです、と答えたら、では、相思相愛の相手が出来たら、一生添い遂げられるように祝福を授ける、と言われました。


 意味不明、と思いつつ、いつの間にか赤ちゃんになっていたわたくし。女神様が見守る世界では、一人につき、一つだけ、何かしらの魔法が使える世界だそうで。わたくしは収納魔法というのを授りました。何でも収納出来るので、何処に行っても何でも持っていける、とか。便利かなぁなんて思っていたら、お父様とお母様は生まれたばかりのわたくしなのに、目を覆い隠す程の前髪を持っている事にビックリしました。


 まぁそうでしょうね。

 わたくしもビックリです。

 これが女神様の祝福とやらで、相思相愛の相手が出来たら、前髪が短くなる、という託宣をお父様とお母様に授けてました。

 えええええ……。相思相愛の相手が出来るまで、前髪は切っても切れない、髪留めで何とかしようとしても、何とも出来ない代物になってしまいました。

 相思相愛の相手が居なかったら一生このままの前髪と知った時には溜め息をついてしまいました。


 個人的にはお母様譲りのオレンジがかった赤い髪は好きですが、前髪が邪魔なんですよね……。両親は女神様の託宣を聞いて以来、前髪をどうこうするつもりはゼロでしたが、敬虔な信仰心にありがちな、誰にもこの事は言わない系の方針を貫いた事により、わたくしの前髪については、いつしか呪われたモノとして世間様に浸透していました。そんな状況で学院に入学したわけですから、アデルネ様の呪われた目隠れ女、という言葉は、まぁ多くの皆さまが思うわたくしへの批判だと思われます。別にいいですけどね。


 そんなわけで、学院でステンス・フィンドル伯子様を見た瞬間、前世の記憶が蘇ったわたくし、取り敢えず、見ても懐かしいとは思ったものの、やっぱり恋愛感情が解らないな、と嘆息すると共に。女神様は愛する夫、と言っていたけれど。わたくしは前世で彼を愛していたのかしら? と悩んでいました。


 そんな中でのウソコクです。嘘だと解っていても告白される。それって前世から考えても初めての経験だ、という事に気付きまして。実はちょっと楽しみにしていました。告白する事もされた事も無かったもので。どんな気持ちになるのかな、と。結果は……嬉しいとも悲しいともつまらないとも楽しいとも思いませんでした。一応、前世の夫だったんですけどねぇ。なんていうか、結婚しよう、とは言われたものの、何となくずっと付かず離れずの関係にケジメをつけた関係だったかな、と。夫から好きとか愛してるとか言われた記憶も、わたくしがそんな気持ちになる事も無かったですし。


 そういえば、なんであれだけしつこかったのでしょう。


 ーーケジメを付ける関係なら、わたくしと離れても良かったのに。

 ーーわたくしは一度離れてみたんですよね。転勤という物理的な距離として。結婚前の事ですけど。連絡も取らなかったのに、転勤が終わって帰って来たら、わたくしが帰って来た事を人から聞いた、と会いに来ましたっけ。それで……再び付かず離れずの距離感で過ごすようになって30歳を迎えましたね……。


 本当に、なんで前世のわたくしと結婚しようと思ったんでしょうね。


 ウソコクされても何とも思わなかったわたくしは、悪態をつくアデルネ様と上機嫌なメソレム様と共に、チラリと此方を振り返ったフィンドル様に頭を下げてから、再び水遣りのためにジョウロに水を汲みに噴水へと足を向けました。











お読み頂きまして、ありがとうございました。

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