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プロローグ

全6話。

毎日0時更新。完結予約投稿済み。

「レアリア・ブルーティー嬢。お時間を頂けるだろうか」


 わたくしは、呼びかけに振り返る。もっさりとした前髪の隙間から見た方は、ステンス・フィンドル伯子でした。


(あら……昨日の今日、ですか。まぁでも、そうですよね。()()()()って先延ばしにしてもいい事ないですものね。嫌なこと程、さっさと終わらせたい気持ちは解ります。わたくしもあまり勉強が好きでは無いので、学院の試験勉強は最低限しかしませんからね……)


「これは、ステンス・フィンドル伯子様。わたくしに何か用でしょうか?」


「う、うん」


「左様でございますか。今、この場で済む事でしたら直ぐにお伺い致しますが」


「あ、ああ、うん。この場で済む事だから」


「では、お伺い致しますね」


 わたくしは収納魔法に持っていたジョウロを仕舞う。既に水は無いのでまた水汲みに行こう、と思っていた所だった。


「相変わらず、君の収納魔法は驚きだね」


「お褒めに預かり光栄です」


 ペコリと頭を下げておきましょう。本当にこの方の場合、感心して下さっている、と理解していますから。

 何しろ()()からの付き合いですからね。


「あ、あの、その」


「はい」


 相変わらず、この方は気弱というか。周りに流され易くて決断力が些か弱くて意見を言う事が苦手なので自ら話そうとすると視線が彷徨う所は生まれ変わっても変わらないようです。

 前世では、溜め息をついて「早く話して欲しい」 と促したものですが、この方には前世の記憶が無いようですし、わたくし達の関係(げんじょう)を話すならば、同じ学院の隣のクラスというだけ。後は数回、学院の図書館で隣の席になった時に挨拶を交わしたくらいでしょうか。

 そんな関係のわたくしが溜め息を吐くのも催促するのもお門違いでしょう。


 ましてや、此方では身分差というものが生じるようで。

 わたくしは男爵家の娘。

 彼方は伯爵家の子息。つまり伯子ですね。

 つまりまぁ、身分差が有るわけです。ステンス・フィンドル様の方が身分が高いわけですので、わたくしが「早く話して」 と催促するわけにはいきません。ですので、気長に待つしか無いでしょうね。


「あの、ブルーティー嬢」


「はい」


「その、き、き、き……。わ、私、は、君が好きなんだ!」


(あらあら。緊張していらっしゃるようですね。吃るのは緊張しているこの方の癖です。さて。ようやく言えたのは構わないのですが……。少々微妙ですね)


「ええと……ありがとうございます?」


(このようにしか返せませんわ。貴方様は、もう一言付け加えねばならないはずでは?)


「あ、うん、いや。ええと」


 ああ……思った返事と違って困っていますわね。でも、仕方ないでは有りませんか。好き、という言葉だけでは足りませんませのよ。貴方様はわたくしにもう一言付け加えねば、彼等との賭けは果たせませんよ?

 わたくしはジッと見つめて次の言葉を待ちます。ようやく気付かれたようで、ハッとされましたね。


「それで、その、付き合って欲しい」


(まぁ、合格点でしょうか。コレ、ベタベタに何処に付き合うんですか? なんて返すのは良くないですよね。きっとこの方は泣きそうな顔になってしまいますもの)


「承りました」


 わたくしは了承します。すると、ステンス・フィンドル様は目を丸くして驚いた表情。わたくしが頷くとは思っていなかったのでしょうね。でも、了承しないわけがないのです。


「あ、俺の勝ちな!」


「クッソ、負けた! 昼の特別ランチメニューって今日はなんだっけ」


 わたくしが了承した途端に、この花壇の向こうにある木の影から二人の子息が現れました。


「あ、君たち……」


 ステンス・フィンドル様が焦っています。焦らなくても良いですよ。知っていましたから。


「ステンス、俺、賭けに勝ったからな!」


「俺は負けた! なんだよ、呪われた目隠れ女のくせに! やっぱりステンスのような顔の良い男に告白されたら受け入れるのか! まぁそうだよな! お前みたいなモテない呪われ女がステンスみたいな顔の良い爵位も上の男に告白されたら受け入れるよな! 騙された事も知らねぇで」


 賭けに勝ったと喜んでいるのは、メソレム子爵子息で。負けたからお昼の特別ランチメニューをメソレム子爵子息に奢る羽目になって悔しさのあまり、この告白の件の裏をあっさりと暴露されたのは、アデルネ伯爵子息です。そして、アデルネ伯爵子息に暴露されて顔色を真っ青にしているステンス・フィンドル様。

 わたくしはステンス・フィンドル様にニコリと安心させるように微笑みかけてから告げました。


「知ってましたよ?」


「えっ?」

「はっ?」

「知ってた?」


 メソレム様、アデルネ様、フィンドル様が驚いた顔に。


「わたくしは昼休憩は必ずこの花壇の世話をしています。ですから、昨日、試験結果が思うようなものとは違った事でムシャクシャした気分だったメソレム様とアデルネ様が、あちらの空き教室で、フィンドル様を交えて、何方かを揶揄うおつもりで話していたのは聞こえて参りました。それもかなり大きなお声でしたから。その揶揄う相手がわたくしで、フィンドル様がわたくしにウソコクなる、嘘の告白をする事も存じておりました。

わたくしが、そのウソコクを受け入れるか受け入れないか、という賭け事のようでしたが、それを受け入れる事にしたのは、メソレム様よりアデルネ様の方が、わたくしを嘲笑しているご様子でしたので、メソレム様を勝たせたまでです。ご理解頂けましたでしょうか?

ただ、昨日の今日という、こんなに早く、だとは思っていませんでしたので、少々驚きましたが。ですので、騙された事は知っていましたよ」


 わたくしの種明かしに、三人は唖然とした後で


「なんだよ知ってたのかよ」とか

「チッ。呪われた目隠れ女のくせに、俺を負けさせるなよ」とか

 お二方はブツブツと文句を呟いておりました。


 フィンドル様は目をウロウロさせて口を開閉させていましたが、わたくしは謝りたい、というこの方の気持ちに気付きながらも気付かなかった事にしました。

 ……謝ってもらっても、という気持ちになってしまったのは、わたくしも若いのかもしれません。










お読み頂きまして、ありがとうございました。

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