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エピローグなのに長いから2回に分けます。
とりあえずイチャイチャしてます。
「しかし、お前は妹と本当に似てないんだな」
ハルドがそう言ったのは、レムリアを彼の主治医に見せるために伯爵家へ連れてきた晩のことだった。
自分と一緒に住めと言い張って聞かない彼に、妹の面倒を見なければならないからすぐには無理だと反論したら、数日で入院手続きまですませてしまった。
大人気ない・・・とひそかにため息をついたが、レムリアのことについては感謝しているので文句も言えない。
レムリアの病気は気管支が原因で、空気の良い田舎でしっかりと食事をし、薬を飲んでいれば完治すると診断された。
そのことはとても嬉しいのだけれど。
「何?レムリアのほうがよかった?」
ハルドの望む金髪のうえ、レムリアは見た目も性格もとても可愛らしい。
援助をしてくれるハルドに対して、頬を染めて感謝していた彼女に心を奪われても多少は仕方ないと思う。
もちろん、それでむかつかないといえば嘘になるので、じとりとハルドをにらみつけたが。
「誰もそんなことは言っていないだろう?」
そんなリィレネの気持ちはお見通しの彼は、くすっと笑って肩を抱き寄せた。
「確かに彼女は理想的な美人だけどな。俺はお前の気の強い瞳が気に入っているのだから、関係ない。それに大人しく守られているだけの女は今一歩そそられないんでな」
「いや、言うこと聞く花嫁探してたよね?」
「そりゃ、お飾りのつもりだったからな。とりあえず屋敷に置いとくだけなら従順で大人しい方がいいだろ。でもお前は違うんでな」
ちゅっと頬に口付けられて、リィレネは慌ててハルドを押しやろうとした。
「ちょ・・・離れてよ!」
「何故?」
「何故って、話しにくいからっ!あと言ってることめちゃくちゃ最低だから!レムリアが行かなくてよかった!」
「まあそうだな、他人とかどうでもよかったし。ちなみに口をふさいでいないのだからいくらでも話せばいい」
「ふぎゃっ」
ぎゅっと後ろから抱きつかれるような形で膝の上に座らされて、リィレネは潰れた猫のような声を上げた。
「お、落ち着かない・・・んだってば」
細身ながらリィレネ程度ならすっぽり包み込むような体格。自分とは違う体温。
慣れないそれらにリィレネは頬を染めて、もぞもぞと身をよじった。
だが、きっぱりとハルドは言い切る。
「そんなもの慣れだ」
「慣れって・・・」
スパルタ教育させられてる時もよく聞いた、慣れ。
ハルドは大概のことを慣れでなんとかなると言うのだがそんなことないとリィレネは思う。
だいたい、この美しい顔に慣れることなんてない気がするし、ぽんぽん出てくる弁舌にも慣れることなんてない気がする。
「ようやくお前が一日中手に入ったんだ。今度は俺がしばらく忙しくなるのだから、今のうちくらい好きにさせろ。俺のことだけ考えていろ」
そう言ってリィレネの黒髪に指を絡めて遊んでいる。
リィレネがレムリアのことを気にするのすら嫌だと言う態度に、あなたが先に話を出したんだろうと言いたくなった。
「ハルドって・・・案外子供だよね」
はあ、とついにリィレネはため息をつきつつ、そう指摘した。
自分の立場をばらしてからは家の中で逆らうものがいないせいか、余計顕著にそう思う。
仕事については非常に真面目で冷徹にさえみえるのに、暇があるときはやたらとリィレネにかまいたがるのだ。
そしてリィレネにも自分を優先させないと気がすまないらしい。
(まあいいけどさ・・・)
彼はリィレネに甘えているのだ。
どこまでなら許すのか試すようなときすらあって、それは悪戯をしながら主人の機嫌をうかがう猫のようだ。
それだけ心を許してくれているのは何か嬉しい。
それに本当に必要なときにはリィレネを甘やかしてくれるだけの懐はあるのだから。
本当はレムリアのことだって、リィレネが引け目を感じないように自分がリィレネといたいからと言い張ってさっさと決めてしまったのだと思う。・・・たぶん。
今一歩言い切れないのは、つい先日ハルドがうちの妹が可愛いという話ばかりをするリィレネに思い切り不機嫌そうな顔をしていたからだ。
「お前に言われるのは心外だな」
子供だなんて揶揄してむっとするかと思えば、返ってきたのは笑み混じりの言葉だけだった。
その内容に逆にリィレネがむっとする。
「何で?ハルドなんて自分中心じゃないとすぐむすっとするくせに」
「そりゃ、一緒にいるときに他の奴のことを考えられたら腹が立つだろうが」
「それを子供っていうの!」
まったく・・・と口の中だけで呟くと、ハルドが後ろから唇を求めてきた。
間近に迫った顔に、リィレネはすぐ真っ赤になる。
「な、な、な・・・」
「まだ慣れないのか?そんなお前のほうがよっぽど子供だと思うけどな。・・・まあ、奥手な方がおも・・・、男としたら理想だけどな」
「・・・いま、面白いって言おうとしなかった?」
「気のせいだろ」
「絶対言おうとした!ハルドって私をからかうときすごい楽しそうな顔するもんっ!」
「心外だな。愛情表現だろ。お前以外といても面白くもなんともないんだから」
「・・・・っ」
失礼なくせにその言葉はなんか嬉しい。
やっぱりハルドが特別扱いしてくれているみたいで。
それににぃっと笑ったハルドのどこか子供っぽい笑顔が、素直に胸に届いてしまうから。
けれど悔しくて、リィレネはぷいと彼から視線をはずした。
勿論リィレネの思いなんて見透かされていて、くっくと笑い声が耳に届く。
「・・・・・・・そ、そういえば他の人たちは?」
何とか話題を変えたいと思考をめぐらせていて、ふと気がかりを思い出した。
「他の人たち?」
「あの・・・男爵とかのご令嬢・・・。何も言ってきてないの?」
彼が動いたことでそれぞれ実家の経営があやぶまれていると風の噂に聞いた。
味方をした者にも容赦のない制裁が待っていると囁かれ、援助もままならない状況らしい。
ファイハント伯爵の権力を見せ付けられたような気がしてぞっとしたものであったが、その後彼女たちはどうしているのだろう。
今回のことで、ハルドが黒髪で金髪の後継を装っていることを知った彼女たちが、報復行為に出ないのかリィレネは心配だったのだ。
「ああ、あいつらなら心配しなくていい」
「でも・・・」
不安げに見上げると、ハルドは今までとは違う冷たい微笑を浮かべた。
「俺が黒髪のことは、綺麗さっぱり忘れていただいたからな」
「・・・・・・・・は?」
忘れていただいた。
そんな都合のよい言葉が聞こえてきて、リィレネは思い切り眉を寄せた。
するとハルドがまた楽しそうに瞳を瞬かせる。
「アルシェラはそういうことが得意なんだ」
「・・・アルシェラ・・・が?え?何・・・どういうこと?」
いつもハルドの側に付き従う執事の彼を思い起こしても、やっぱり何を言っているのかわからない。
ぽかん、としているリィレネを覗き込みながら、ハルドは鼻歌でも歌うような口調で続けた。
「お前、最初に会ったときは俺を怖いと思っていただろう?そうだな、特に俺がお前の正体を知ったとき」
「ああ・・・うん。でもあれは怒っていたからでしょう?」
あのときのハルドの身もすくませる冷たい瞳を思い出してリィレネはぶるりと身震いする。すると、ぎゅっとハルドが抱きしめてくれた。
「まあな。一番清廉そうな顔してるくせに、一番やることが汚いと思ったからな」
「う・・・ご、ごめんなさ・・・」
「別にいい。そのおかげでお前が手に入ったんだから。そうじゃなくて、お前、何ですらすらと自分の境遇を話したのか、不思議に思わなかったか?気が強いのに、俺をどうしようもないほど怖く感じてなかったか?」
「・・・・うん」
確かにあの時は恐怖で身が切られそうに恐ろしかった。
普段のリィレネならば絶対に言わなかっただろう。
「あれも一種の暗示だ」
「暗示?」
「そう。恐怖心をあおるように、暗示をかけて人の口を軽くする。他にもいろいろあるんだが、俺は3種類くらいしか使えないな。アルシェラの奴は16種くらいできるらしい。奴にいろいろ教わったんだ」
「???」
「まあ、暗示なんでかかりやすい奴とかかりにくい奴がいるんだけどな」
ちなみに俺は暗示にほとんどかからないタイプだ、と笑いながらハルドは言うけれども。
「あの・・・つまり、暗示をかけて彼女たちの記憶を消したと?」
「消したというよりは、思い出せないようにした、っていうのが正しいんだが。まあ、他言することはないだろうから放っておけばいい。それに、もしばれてもそれなりの手は打てる」
だから安心すればいい、とハルドは言う。
しかし、なんだか別の意味で怖い。自分も気がつかないうちに暗示にかけられていそうで。
不安が顔に出ていたのだろう。ハルドは軽くリィレネの額を指先で叩いた。
「い・・・っ!」
「馬鹿。余分な心配をするな。むやみやたらに暗示なんて使うわけないだろうが。だいたい暗示をかけて言うことを聞かせてもつまらないだけだからな。どうでもいい奴にしか使わないさ」
「・・・・・ほんと?」
「疑り深いな。大体、人の意識を変えさせるのなんて、本当に至難の業だぞ。そんなむやみやたらにできたら、国王にだってなれるだろ」
「いや、ハルドって実はできるんだけど、面倒くさいから興味ないって感じだし。大体、この伯爵家が急速に業績を伸ばしてるのも・・・・なんかあやしい」
「あのな・・・俺の経営手腕の賜物なんだが。・・・まあ、多少強引な手を使わないこともないが」
「ほら、やっぱり!」
「ビジネスの世界なんて食うか食われるかだろ。負ける方が悪いんだよ」
「そうかなぁ・・・?」
「まあ、人を貶めるやり方はしてないから安心しろ。やられたらやり返すけどな」
「うー・・・・」
やっぱりハルドは底が知れない。
子供みたいな面をもつくせに、こうやって冷静で怖い面も持っている。
けれど、会社のことはリィレネにはわからないので、余分な口を出さないことに決めた。
「悪いことしてないならいいけど。とにかく、私に何かするのは絶対やめてよ?」
私生活ではいつも本音で付き合って欲しい。そう願うと、
「あたりまえだろ」とハルドは笑った。
「何があってももうお前にはやらない。安心しろ」
ぽんぽん、と頭を撫でられて、まだ少し怖い気持ちもあるけれど、ハルドを信じることに決めた。
「それにしても、アルシェラはなんでそんなことができるの?・・・っていうか、何でハルドの執事なんてやってるの?それにずっと気になってたんだけど、金髪なのになんでアルシェラを執事にしたの?金髪の人、嫌いって言ってたのに」
すると次々に好奇心が沸いてきて、リィレネは目を輝かせて尋ねた。
だが、視線の先のハルドはむっとした顔になっている。
(あ、あれ・・・?)
「何か悪いこと言った・・・?」
突然の不機嫌に尋ね返すと、ぐにっと頬をひっぱられてしまった。
「ふぁ・・・にゃにすんの?!」
「むかつくから」
「へ?」
何がむかつくのだかわけがわからないまま、リィレネは黒い瞳を見返した。
というか、むかつくからって頬をひっぱるなんて、一体いくつなんだとげんなりする。
「ハルド様は、リィレネ様にはご自分のことを一番に考えていただかないと嫌なのですよ」
続きは夜に投稿予定です




