森の人 ~見たくなかった繋がり~
時刻は正午過ぎ――この日はあいにくの曇天の空模様で、陰鬱な気分になる。
我々は団地に着いて大倉刑事の車を降りた後、まっすぐに中本家が住むマンションの出入り口まで足を運ぶ。すると、出入り口付近で井戸端会議をしているおば様達と遭遇した。その中には、昨日中本家の虐待疑惑を告げた老婆の姿もあった。
「あ、刑事さん、ちょっとちょっと!」
案の定、彼女は我々の姿を見るなり、静かな――しかし興奮した声を発して手招きをする……無視するわけにもいかないので、いったん中本家へ向けていた足元を老婆達に向ける。
私が何か用か訊ねると、老婆とおばさん達は嬉々とした様子で口を滑らせる。
「実はね。今日の朝、真奈ちゃんがリュックを背負って部屋を出るところを見ちゃったのよ。今日は平日だから、学校があるんでしょうけど、妙に早い時間だったから、なんかおかしいわねって、今話してたところなのよ」
「そうそう、それに中本さんのお部屋、なんか鉄臭いのよね。今までそんなことなかったから、なんかあったんじゃないかって……」
鉄臭い……そのワードを聞いた瞬間、私の心臓は冷水を浴びせられたように凍り付いた。井戸端会議のメンバー達に形ばかりのお礼を言って、急いで中本家の部屋へ急ぐ。
部屋の前にたどり着くと、確かに鉄の臭いがする……が、これはただの鉄の臭いではない。
「か、神牙、待てっ!」
そう叫びながら、階段を駆け足で上ってきた大倉刑事に対して、私は中本家の部屋に突入することを告げた。
「な、なにっ!? し、しかし――」
大倉刑事の言葉を無視して、私はインターフォンを鳴らす……応答はない。
「か、神牙さん、いったい何が――あ、この匂いっ!」
続けて階段を上がってきた鳴海刑事は、踊り場にたどり着くと中本家の部屋から漂ってくる臭いに気づいたのか、汗を浮かべたまま沈黙する。その様子に気づいた大倉刑事も、扉に顔を近づけて鼻をひくつかせると、口を真一文字に閉じた。
インターフォンを鳴らしてから数分……未だに室内からは応答がない。普通なら、もう一度インターフォンを鳴らして待つのだろうが、部屋から漂ってくる異臭は嫌でもその考えを振り払い、我々をすぐにでも室内に突入させようとする。
「神牙……もういいんじゃないか?」
大倉刑事も、覚悟を決めたように語りかけてくる……私は頷き、大倉刑事を先頭に立たせて突入の準備を始める。
「やるぞ……?」
武道を習得した猛者特有の気迫を醸し出しながら、大倉刑事はこちらに顔を向ける……私と鳴海刑事がコクッと頷くと、大倉刑事はドアノブを回した。
「む?」
すると、ドアノブは難なく回り、大倉刑事は静かに扉を開ける……どうやら鍵はかかっていないようだ。
気を取り直して、我々は中本家の部屋へ足を進める――。
「うっ!?」
すると、先頭の大倉刑事がうめき声をあげた。続いて、私の鼻腔に凄まじい血の匂いが漂ってくる……なるほど、彼がうめき声をあげたのは、これが原因か。私が大倉刑事の背中をさすりながら平気かと訊ねると、彼は首を縦に振った。
「問題ない……!」
自分の弱さを抑え込んで力強い眼差しをこちらに向けた後、大倉刑事はリビングへと続く廊下を進んでいくので、我々も後を付いて行く……ほどなくして、部屋の突き当りとなるリビングにたどり着いた。
「なっ!?」
……リビングの光景を目撃した鳴海刑事は、驚愕の声を上げた。大倉刑事は、ゴクッと喉を鳴らし、今にも倒れようとしている。
我々がリビングで目撃したモノ……それは、変わり果てた中本夫妻の遺体だった。彼らの遺体は、奥野と同じように無残に損壊しており、彼らを判別できたのは、血の海の中で辛うじて見える、彼らの衣服のおかげだった。
私は、これまで何度も体験してきた嫌な動悸を抑えつけ、鳴海刑事には部屋の捜索、大倉刑事には捜査一課の応援を呼ぶように指示した後、室内を物色していった。
ざっと見ただけでも、中本家の暮らしが粗野なものだったことは理解できる。床に散らかしたままのビールの空き缶……灰皿に山盛りになったタバコ……男女や子供の物と思われる衣服の散乱もひどい。
良い表現をするならば、非常に生活感あふれる部屋と表現できるだろうが、今はこの家の主とその妻の遺体と血液によって、すっかりと非日常空間へと様変わりしている。
それとは別に、私は嫌な気配に襲われていた。この部屋で唯一足りないもの……それは――。
「神牙さん。真奈ちゃんはどこに行ったのでしょうか? 姿が見えないようですが……」
私が考えていたことを、鳴海刑事が代弁してくれた。そう、この部屋で唯一足りないもの……それは変わり果てた姿となった中本夫妻の娘である真奈の存在だ。
迂闊だった……彼女は、最初の事件の第一発見者だ。しかも、犯人が誰かも供述していた。ということは、彼女は犯人の姿を見ているし、犯人も彼女の存在に気づいていたかもしれないのだ。
ここまで分かっているなら、よほどのヘボ刑事でもなければ、多少強引な手段を使ってでも両親の元から彼女を引き剥がし、警察の方で保護していただろう。最低でも、中本家に護衛兼連絡役となる警察官を数人配置するはずだ……自分で考えておいて、情けなくなる……なぜあの時、私は彼女の保護や警護を思いつかなかったのだろうか?
私はその場で深い後悔の念に晒されるが、この事件は私に一時の猶予を与える気もないらしい。
「神牙っ! ちょっと来てくれっ!」
隣の和室から、大倉刑事が私を呼ぶ声が聞こえる……そう、事件はまだ終わっていないのだ。最後の結末を見届けるその時まで、私達は全身全霊で捜査に取り掛からなければならない。たとえその先に、どれほど絶望的な結末が待っていたとしても……。
そのように自分に言い聞かせ、私は大倉刑事のいる和室に足を運ぶ。
「ちょっと、これを見てくれ」
そう言ってどこか具合の悪そうな大倉刑事が渡してきたのは、『日記』と書かれた学習ノートだった。適当にページを開いて中身を読んでいく……が、すべてを読み切ることは出来なかった。
「神牙……どうやら、この中本家というのは……」
そこから先、大倉刑事は押し黙ってしまう……おそらく、被害者達のことが気になっているのだろう。生真面目な彼らしい行動だ。
結論から述べると、学習ノートには子供が書いたと思われる文章で、中本夫妻が娘である真奈にこの団地内で売春を強要していた旨の記述が多く見られた。
始まりは今から約一年前……つまり真奈がまだ小学校四年生の頃まで遡る。ある日、父からこの団地内のある一室に行くように指示されて、出てきた男性に襲われたこと。そして金を受け取り、その金を父に渡す……売春の内容を説明すると、だいたいこのような流れになる。
「神牙、どうする……? その……自分はもう、なにをどうしていいやら……」
岩山のような巨体を揺らしながら、大倉刑事の視線は宙をさまよっていた。
……彼のような人間なら、このようなことが現実に存在していることに血管がちぎれんばかりに憤っていただろう。だが、その憤りをぶつける相手はすでに惨殺され、被害者も行方不明ときている……彼がこのような状態になるのも、無理はない。そんな大倉刑事に、私は真奈が証言していた『森の人』を探すことを宣言した。
「森の人……」
大倉刑事は、こちらの方にゆっくりと視線を向ける。
私は彼に、この団地内で二件起きている殺人の手口が同一であること。その犯人は、事件を目撃した可能性のある真奈が証言していた『森の人』である可能性が非常に高いことを伝えた。
「なるほど……もしかしたら、『森の人』は真奈ちゃんがその……両親にさせられていたことに怒って、このような犯行を……ん? ということはやはり、奥野の性癖は治っておらず、あの日真奈ちゃんが奥野の部屋にいたのは、そのような行為に及ぶためだったということか?」
私は彼の意見を肯定した。付け加えて、その行為に及ぶ前か最中に、なんらかの理由で真奈の事情を知った『森の人』が、奥野を殺害して姿をくらませた。そして、殺害現場に残された真奈は、我々に奥野を殺害した犯人は『森の人』と証言したことも、大倉刑事に伝える。
「ふむ……確か、真奈ちゃんは最近になって近所の山に遊びに行くことが多くなり、その理由は『森の人』と遊んでいたからとご両親が証言していたな。『森の人』は、おそらくその時に真奈ちゃんから様々な事情を聞いた……そんなところだろうか?」
私はその意見にも肯定の返事をした。だが、今日の大倉刑事はいったいどうしたというのだろうか?
なぜだか、妙に冴えているような気がする……まぁ、気にしてもしょうがないのだろうが……。
「だが、真奈ちゃんが言っていた『森の人』……あれはつまり、山で出会った人間を『森の人』と呼んでいるのか、あるいは実際に、その山に暮らしている様子を目撃した真奈ちゃんがそう言ったのか……この辺りは、まだ分からんな」
……なんだろう……大倉刑事は今、自分の脳細胞をフル活用させて事件を推理しているように見える。真奈の境遇を知って、脳が刺激されたのだろうか?
「あ、二人共、ちょっとコレを見て下さいっ!」
そう言って、未だに大倉刑事の事で頭を悩ませる私の前に、和室を捜索していた鳴海刑事の手が差し出された。彼の手の中には、一枚の紙がある。
私は、彼からその紙を受け取り、改めて眺めてみると、そこには短い文章が書かれていた。
『森の人と一緒に暮らします 真奈』
手紙には、そのように書かれていた。『森の人』……その人物は真奈の中で、かけがえのない存在になっているようだ。
私がそのことを二人に伝えたと同時に、外に出る扉の方から物音が聞こえ、本郷警部を先頭にした捜査一課の面々がなだれ込んできた。
私達は、彼らにここで調べたことをすべて伝えたが、本郷警部は相変わらず、苦虫を噛み潰したような顔をするだけだった……。
※
「はぁ……はぁ……か、神牙さん、いいんですか? 警部の許可を取らなくて……」
私は、後ろを歩いている息のあがった鳴海刑事に、問題ない旨を伝えた。
我々が中本家の自宅で中本夫妻の遺体を発見してから数時間後……我々は、団地の近辺にある山林を捜索している。
この事件の中心にいる人物……真奈が証言していた『森の人』は、真奈がこの山林で遊んでいる最中に出会った何者かの可能性が非常に高い。そのうえ、真奈はその『森の人』と一緒に暮らすとまで書き置きを残している。今の彼女が、『森の人』に絶大な信頼を寄せていることは間違いない。
だが、我々が山林を捜索しようと申し出た時、本郷警部は『あとはこちらで……』などとナワバリ意識を発揮させたために、余計な時間をくってしまった。
結局、我々は捜査一課とは別行動ということで、彼らとは少し距離を置いてこの山林を捜索することにしたのである。通常の山岳装備の他に銃器類なども携行しているため、機動性には欠けるが、今はそれを気にしている場合ではない。
「それにしても……自分はまだ信じられないであります」
空が夕焼けに染まりかけている時、私の後ろで周囲を警戒しながら歩いていた大倉刑事がポツリと呟く。言葉遣いからして、隣の鳴海刑事に話しかけているのだろう。案の定、鳴海刑事も返事をする。
「何がですか?」
「……自分は初め、真奈ちゃんと仲が良かったであろう奥野を殺害した犯人を、なんとしても捕まえてやろうと息を巻いていましたが……これまでの捜査で、その……色々と自分の考えを変えざるを得ないと思っております」
「……そうですね」
大倉刑事の発言に小さくため息をついた後、鳴海刑事も静かに肯定の返事をする。おそらく、大倉刑事が言っているのは、事件の被害者が売春の加害者と黒幕だったという事実だろう。
だが……確かに、今回のように両親が娘に売春を強要していたのは得意なケースだが、今やこの世界の親子関係は一部の幸福な者達以外、ほとんど破綻していると言っていい。
親を殺す子供……子供を殺す親……理由は様々だが、そのようなことが平然と起きているのが今の世界だ。 もっとも、それらがニュースに流れてお茶の間に届けられるようになったのは、それ以外にめぼしい事件が日本からなくなったことも意味している。けっして、悪いことばかりではない。だからといって、中本夫妻がなぜ、娘である真奈に売春を強要していたのか……それは、これからの捜査や真奈の証言によって明らかになっていくだろう……そのためにも、一刻も早く真奈を発見しなければっ!
私は自分にそのように言い聞かせて気持ちを奮い立たせ、道なき道を踏破していく。
それから数時間後――空には夜のカーテンが張られ、私達の足元には携帯型のヘッドライトの明かりが揺れていた頃……私の鼻腔にふと、今まで嗅いだことのないような獣の臭いが漂ってきた。
……ガサッ……
「か、神牙さんっ!」
何気ない木の葉や木々の音に混じって、かすかに我々の鼓膜に届いた異音……私がその音がする方に目を向けると、私の心臓は一気に鼓動を速めた。
「あ、警察の人……」
そこには、ヘッドライトの明かりに照らされた、我々が今まで探し求めていた中本真奈の姿があった。だが、彼女の身体は地面ではなく空中にある。彼女が、何かの魔術で空中浮遊をしているというわけではない……彼女の身体を、『何か』が抱きかかえているのだ。
「グウゥゥゥ……」
その『何か』は、我々を威嚇するような声を発した。低く、くぐもった、地の底から鳴り響くかのような声……動物の鳴き声とも一線を画すその声に、私の身体は不覚にも硬直してしまった。
「ま、真奈ちゃん、その人は危険だっ! 離れなさいっ!」
私の後ろから、鳴海刑事の叫び声が聞こえる……声だけ発するということは、私と同様にこの異様な状況に身体が硬直してしまっているのか。
そして、鳴海刑事に呼びかけられた真奈は、彼の言葉にキョトンとした様子だった。
「え……なんで?」
「なっ!?」
彼女のその言葉に、今度は大倉刑事が驚愕の声を上げる。私も同様だ。
だが、私が彼女の言葉を考察しようとした瞬間、真奈を抱きかかえている『何か』はその場から勢いよく飛び退き、山林の奥へ走っていった。
私はその光景を見て咄嗟に、大倉刑事に無線で捜査一課に応援を呼ぶように指示した。
「わ、分かった!」
そして、我々は真奈を連れ去った『何か』を追跡する――幸い、目標の走る速度はそれほど速くはない……なんとか、追いつける。
後方で大倉刑事が応援を要請する叫び声が聞こえるなか、やがて真奈を抱きかかえた『何か』は、山林の中にぽっかりと空いて出来たような滝の前で停止した。我々が追いつくと、その『何か』はゆっくりとこちらを振り返る。
「動くなっ! もう逃げられんぞっ!」
大倉刑事が、珍しく勇ましい声を上げて投降を促す。同時に、私も腰のベルトに括りつけていたホルスターから拳銃を取り出して構えた。
「やめてっ! 『森の人』をいじめないでっ!」
「やっぱり……真奈ちゃん! その人が、『森の人』なんだねっ!?」
「そうよっ!」
鳴海刑事の問いかけに、真奈はハッキリと答えた。その声は、私が初めて聞いた彼女の声とは違って、強い意志を感じるハッキリとした口調だった。
事態は最悪の状況を迎えてしまった……事件の目撃者である真奈は、犯人と思われる『森の人』の手中にある。仮にこの手の中にある拳銃で『森の人』を撃っても、後ろは滝だ。真奈の命の保証はない。
「真奈ちゃん! その人は危険なんだっ! だからこっちに来てくれないかいっ!?」
優しく、それでいて懸命に真奈を説得しようとする鳴海刑事に対して、真奈は首を横に激しく振った。
「いやっ! もう家になんか帰りたくないっ!」
「で、でも、その人は奥野さんや君の両親を殺して――」
「私が頼んだのっ! 私が『森の人』に、パパやママを殺してって頼んだのっ!」
「なっ!?」
真奈から発せられた思わぬ発言に、鳴海刑事は言葉が詰まってしまう……だが、真奈はそのことを気にも留めず、今まで押し殺してきた感情を開放するようにまくしたてた。
「嫌だったの! 奥野さんもパパもママも学校の先生も友達も全部っ! 『森の人』だけだった……あたしがここで遊んでた時、あたしのことを心配してくれたのは……なんで来たの? やっと『森の人』と二人っきりになれると思ったのにっ!」
涙交じりに訴える真奈の言葉に、鳴海刑事を含めて我々は何も反論できなかった。まだ幼い少女が抱えていた闇は、それほど深く……濃いものだった。
その時、真奈を抱きかかえていた『森の人』に、雲の切れ間から顔を覗かせた月の明かりが降り注いだ。
「な、なんだ、あれは……?」
……我々が見たモノ……『森の人』の正体は、ハッキリ言って何とも形容しがたいものだった。しいて言うならば、『獣人』とでもいうべきだろうか?
彼もしくは彼女の身体は全身が動物のような毛で覆われており、服は着ていないようだ。それでいて、その肉体は毛皮の上からでも分かるほど筋骨隆々としたもので、熊よりもハッキリと筋肉の筋が見える。
その表情は長い体毛に覆われて窺い知ることは出来ないが、とても我々に対して友好的でないのは確かなようだ。その証拠に、先程から低いうなり声をあげ、こちらから一時も目を離さない……その挙動はまるで、野生の猛獣のように思えた。
そして、『森の人』は抱きかかえていた真奈をそっと地面におろした。投降するのか……と思ったが、『森の人』はそのまま我々に対して真正面に対峙するような仕草をとった。
その動作を見て、私の拳銃を握る手にも力が入る……この大型生物を相手に、四十五口径のコルトガバメントが有効かどうかは不明だが――。
「ガアァァァッ!!」
刹那、獣人がこちらに向かって突進してくる――反射的に、私は拳銃の引き金を数回引いた。
「グウゥ……!」
効果があったのか、獣人はその場で立ち止まってよろめいた。続けて何発か発砲しようかと考えていると、獣人は胸に手を当ててゆっくりと真奈の元へ向かい、彼女を再び抱きかかえる。
「大丈夫? 痛くない?」
我々が事態を注視するなか、獣人は心配する真奈を抱えてその場から立ち去ろうとする……どうやら、我々との対決を諦めて逃亡することを決意したらしい。
「あっ!」
突然、鳴海刑事の声が聞こえる――それと同時に、目の前の獣人はその体勢を大きく崩した。奴の足元の岩が崩れたのだ。
私は拳銃を捨てて獣人の元へ疾走し、すでにその体を滝の底へ沈めようとする獣人の手を掴もうとした。
だが……獣人の大きな獣の手は、私の手の中からスルリと、まるで初めから助かろうとする意志がなかったかのように抜けていった。その時……私は獣人の胸の中で、真奈が安らかな笑顔を浮かべて抱きついているのが、ハッキリと見えた。その笑顔を携えたまま、真奈は『森の人』と共に滝の水しぶきの中に消えていった……。




