捌
お待たせ致しました~。
次回の更新は、秋月の活動報告にてご確認願います。
達彦が来てから、既に5日が経過していた。
残念ながら、未だに討伐の知らせはなく、達彦は療養という名目で学校を休み、しかし実際は元気なため、この神社で修行を行っていた。
3日目に一度、隈を色濃く作った満彦が様子を見に来た。あまりの姿に、神社の誰もが満彦の体調を心配したほどである。しかしそこは、現役の陰陽師であり、達彦の兄。ちゃんと、追加の着替えと、しばらく世話になるからと、小切手を持ってきていた。流石、名家である。
さて、5日も過ぎれば、暮らしにも当然、慣れてくる。が、達彦は修行の掃除の部分で、大いに劣等生となっていた。彼にとって一番のライバルは、同い年の斎となっている。何せ、大切に育てられたお坊ちゃんたる達彦には、先に修行している斎や瑞希に出来る事が、全く出来なかったのである。学校でやるくらいの掃除ならば出来たが、修行の掃除は残念ながら勝手が違ったのである・・・。
掃除しかり、料理しかり・・・。
術や瞑想等は、斎と同等か、それ以上に出来るが、まさかの日常で躓いたのだ。
「悔しい・・・斎は出来るのに」
プクッと頬を膨らませた達彦。意外と負けず嫌いらしい。内心、瑞希は可愛いと思ったが、顔には出さなかった。
しかし、彼は只では転ばなかった。今まで、特に躓いた事があまり無かったらしい彼は、御師匠様や先生、時には大先生に分からない部分を聞くようになった。素直な彼は、ここでの修行にすっかり、馴染んでいったのである。
「・・・どれ、今日のお客様はワシがしよう、良太郎、手伝え」
「はい、師匠」
今日は土曜日。久しぶりに大先生や良太郎が居るため、正園は補佐に入り、子供達は別館にて宿題をしている。特に、達彦は長期の欠席の為に、学校から課題が出ていた。まさかのドリル数冊であり、斎や瑞希と一緒にコタツに入り、コツコツ解いていたのだが、量は当然二人が少ない。
「終わった~」
先に、漢字のドリルが宿題だった、瑞希が終わった。
「瑞希、10時のオヤツ、確か御師匠様が用意してくれていたよ」
斎が手を止めて、瑞希に言えば、嬉しそうに瑞希はキッチンに向かった。時計は既に、少しばかり、10時を過ぎていた。
「・・・あ、今日は、大福だよ!」
瑞希は、今日のお客様は、手荷物を持っていたのを思い出す。恐らく、その中身だろう。絶対に日持ちしない、明らかな高級菓子である。ふっくらした大福は、大変美味しそうである。
「二人とも、呑気だね? 僕は、まだまだ、ドリルが終わらないよ・・・」
どんよりした達彦は、片側に山盛りになったドリルを見ている。偏差値の高い学校に通っている事もあり、教科も多い。斎が解き方等でお手伝いはしたが、自分でやるしかないため、途方に暮れていた。一体、学校の先生は、何日休む事を想定しているのか。明らかに、達彦がおかしくなった辺りからの、ドリルであった。抜け目の無い先生方である。
「頑張るしかないよ、ほら、オヤツにしよ? 気分を変えよう?」
「あたし、ジュース取ってくる! 何がいい?」
瑞希は、冷蔵庫から、オレンジジュースを出す。斎は緑茶、達彦も緑茶を希望したので、それを用意する。
「瑞希・・・、よく大福にオレンジジュース飲むね?」
呆れたような斎が問うが、瑞希はどこ吹く風である。気にしてない。
「そう? 美味しいよ? オレンジジュース!」
キョトンとしている瑞希に、達彦が吹き出す。
「プフッ、あぁー、うん、休む! 瑞希ちゃん、お茶くれる?」
「はーい、熱いから気を付けてね!」
準備が出来れば、三人はオヤツを食べながら、他愛もない話をしていく。斎と達彦は、すっかり仲良しで、まるで兄弟みたいな感じである。勿論、緑茶の二人には、湯飲みである。瑞希はガラスのコップで飲んでいた。
「う~ん♪ イチゴ大福だ!」
真ん中に、切り込みが入った大粒の甘いイチゴが、丸々と中に入っている、大きめのイチゴ大福。少食の瑞希は、一つ。食べ盛りで、腹ペコな男子二人は、それぞれ二つを、ペロリと平らげた。
なお、達彦はこのイチゴ大福を知っていた。母が、お気に入りのお店で、一つ1000円くらいする、大変な高級菓子であることも。多分、価値を分かっていないだろう二人に、達彦は知らん顔をすると決めた。言っても、どうしようもない事だろうから。
三人で五個も食べたが、大人組も午後のお茶請けに食べるから、問題はない。
「よし、お昼まで課題がんばる!」
やっと、最近の内容に成ってきた、ドリルの中身。分からないところは、斎の手を借りて、達彦は真面目に取り組んだ。
その内、お昼の準備に正園が戻ってきて、瑞希が駆り出される。今日は、男性も居るため、正園もメニューを決めかねていた。
「うーん、お昼だし、あっさりと、うどんにしようかしら?」
とはいえ、只の素うどんでは芸がない。
「天ぷらうどん食べたい!」
瑞希の意見は、あっさりと採用された。なお、列記とした神社であり、神職の三人は基本的に、殺生はしないため、天ぷらはキノコや野菜中心である。
「うーん、足りない可能性もあるし、ご飯も準備しようかしら?」
何せ、瑞希以外は良く食べる。瑞希の少食は、家系的な物だから、勿論、病気ではないし、多分、もう少し大きくなれば、増えるだろうと正園は踏んでいる。術者は、良く食べるのである。そろそろ斎はどんぶりかしら? 何て、時々、考えるくらいである。今でさえ、大きなご飯茶碗なのである。
「サツマイモがあったわね」
毎年、お知り合いが箱で送ってくれるサツマイモは、冬の神社にとっては、大変ありがたい保存野菜である。
「サツマイモで、キンピラにでもしましょうか」
サツマイモは、皆の好物なので、色々とした料理で食卓に出てくる。正園も手慣れたもので、サッさと作り、瑞希もちゃんとお手伝いする。
「うどんはこれで良し、キンピラは小鉢にして・・・ご飯は足りない場合にしましょうか?」
そうこうしているうちに、時間はお昼。大先生や、良太郎も部屋に来て、皆で食卓を囲む。
「頂きます」
大先生の言葉を合図に、それぞれも挨拶し、食べ始める。
「うむ、天ぷらうどんか、久しぶりじゃのぅ、うん、腕を上げたな」
嬉しそうに、うどんを食べる大先生。正園も嬉しそうだ。
「ありがとうございます、師匠、今日は瑞希も手伝ってくれたので、本当に助かりましたわ」
「そうかそうか、瑞希が」
更に優しい顔になる大先生。隣に座った良太郎も、嬉しそうに、天ぷらを口に入れている。天ぷらは、良太郎の大好物であるため、黙々と箸を進める。
男子二人も、黙々と箸を進めていたが、どうやら腹持ちが良かったらしく、特にお代わりは出なかった。
「ご馳走様でした」
それぞれが食べ終わると、自分の分は台所に持っていく。瑞希と斎、最近は達彦が洗い物係である。まだ背が低い瑞希は、踏み台を使って、斎が洗った食器をせっせと水で流していく。それを達彦が受け取り、水切り篭に入れていく。綺麗な流れ作業である。なお、ある程度乾いたら、最後に正園が拭いて棚に戻す。
洗い物が終われば、子供たちはまた、宿題であるが、瑞希は正園のお手伝いに行く。斎は達彦の宿題の手伝いをしているし、瑞希は流石に手伝えないからだ。
大先生と先生は、また雪が降りだした為、雪かきに出ている。
どうやら、今夜も寒い夜になりそうである。