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次回も誠意執筆中です。

30分程の休憩で、未だに眠ったままの少年、達彦さんを除いた皆は、英気をゆっくりと養った。やはり、長時間の集中は、幼い二人にはやや荷が重かったようだ。

なお、わらび餅は大変美味しかった。うっかり、斎がおかわりと言いかけるくらいには。


「さぁ、そろそろ始めましょうか」


御師匠様の合図で、二人も一緒に達彦さんの糸をほどいていく。


「御師匠様、この糸が邪魔で、ほどけない・・・」


程なくして、瑞希の弱りきった声があがる。黒い糸が、これでもかっ! というくらいに、しつこく絡まり、瑞希の指では、ほどく事も出来ない程であった。


「あらまぁ! 瑞希は、こっちをほどいてくれるかしら? 斎、鋏でここと、ここを切ってちょうだい」


指示を受けて、またほどいて行くが、また直ぐに、絡まりまくった糸が現れて、手が止まってしまう。以前、佐藤様が連れてきた少年達以上に、今回の糸は酷い絡まり方をしていた。


「これ程の絡まり方とは・・・通常では、考えられません、もしやーーーーー何かありましたか?」


これ程、執拗に絡む糸だ。何かがあったとしか、思えなかった。満彦は、苦虫を噛み潰したように、渋面顔になっており、あまり話したくないようだ。

当然、と言えば、当然なのだろう。術者の名門御曹司が、悪いモノに騙された等、彼等のプライドが許さないに違いない。


「まぁ、いいでしょう・・・、しかし、この糸の発生源、貴殿方で祓って頂かなくては・・・我々では、これ程の相手は退治、出来ませんし」


困り顔の御師匠様の言葉に、満彦さんはキリッとした顔で、宣言した。


「勿論ですっ!! 我が一門の総力をかけてっ!」


即答だった。かなり、腹に据えかねていたらしい。目がギラギラしており、最初の好青年の顔が、完全に剥がれていた。余りの迫力に、それを見てしまった瑞希が、ピエッと小さな悲鳴を上げて、泣きそうになっている。斎も見ては居たが、瑞希の方が心配で、ヒヤヒヤしていた。泣きそうになっているのも心配だが、何より、笑顔の御師匠様が、ーーーーー怖い。多分、気付いているのは、斎だけだろう。


「そうですか・・・そのわりに、どうやら見付けられて居ないようですね? 黒い糸が、かなり増えています、このままだと、かなり難しいと言わざる終えません」


「なっ! ほどけないのですか!?」


先程までの、ギラギラした目がなりを潜め、途端に兄の顔になる。今にも泣きそうな、オロオロとした姿は、対極すぎて、先程と同一人物とは思えなかった。


「いえ・・・、時間を頂ければ・・・もう少しで、先代も帰りますから、間違いなく、何とかなります」


「本当ですか!?」


「はい、連絡が来ていますから」


ホッとした姿は、先程とはまるで違う。希望を見出だした目だ。


「・・・さぁ、続きをしましょうか、少しでも解かなければなりません」


また、黙々と、三人で糸を解き始める。少しずつ、少しずつ、時間をかけて丁寧に解いていく。かなりの時間を黙々と解き、気付けば外は暗くなっていた。手元もまた、暗くなっている。


「今日はここまでにしましょう、斎、お二人を客室へ」


この本殿とは別館で、客室が用意されている。離れのような、こじんまりした小さな和風の建物で、老舗の旅館みたいと言われている。


「瑞希、お片付けを手伝って」


「はい、御師匠様」


幼い身ながら、瑞希も斎も、今日はとても頑張ってくれた。夕食は、腕に寄りをかけて、二人の好物を用意するつもりである。


「瑞希、着替えてらっしゃい、斎にも伝えてね」


「はい!」


お客様が居る日は、瑞希にとっても、斎にとっても、嬉しい日だ。ご飯が普段よりも、豪華になる。少食の瑞希も、この日ばかりはお腹一杯に食べるだろう。


「さて、始めますか」


気合い十分で二人の弟子を従えて、正園は台所で客人の分と自分達の分の夕食を用意していく。一時間半程で、手の込んだ綺麗な料理が並んでいく。勿論、仕事中のため、精進料理である。煮物や揚げ物、野菜やキノコの天ぷら、汁物は二人のリクエストで、キノコ汁である。豆腐に糸こん、豆麩入りの醤油で味を整えた、素朴なもので、三葉が彩りを見せている。デザートには、金柑の甘露煮が付いた。・・・・・なお、味見は大変美味しかったが、摘まみ食いだけは、二人はしなかった事を、名誉として記しておく。御師匠様は、そこのところ、大変厳しいのである。


◇◇◇◇◇


楽しい夕飯には、術で眠っていた、弟さんの達彦さんも起きてきた。糸が手の部分だけとはいえ、解けているためか、落ち着いていたが、終始、戸惑いの顔であった。現状についていけていないようである。


「達彦です、えっと、宜しくお願いします」


礼儀正しい子であるが、聞くと、最近の記憶が抜けている時があるようで、現状に理解が追い付かず、更には兄から恥ずかしい話を聞いてしまい、目に力が無かった。

瑞希があまりに不憫に思い、秘蔵のお菓子であるチョコレートをあげるくらいには、不憫過ぎた。知らぬ間に、痛い子扱いされて、問題児になっていたんだから、当然だろう。

なお、チョコレートを貰った時、更に遠い目をして、黄昏ていたのは、余談である。しばらく立ち直れなかったらしい・・・。年頃の男の子のハートは、大変、デリケートなのである。


「今日は、解くのは終わりです、これは術者にとっても、かなりの集中力を使いますし、この子達にも無理をさせる訳にはいきませんから」


瑞希は食後しばらくしてから、船をこぎ始めており、本日は解散となったのであった。

なお、お約束と言えるのか、眠気に負けた瑞希は、机に頭をぶつけて、しばらく動けなかった事は、可愛らしい事として、誰もが口を閉じてくれたのだった。

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