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お待たせしました。

切羽詰まった声が、頭上からして、自分を呼んだからか、御師匠様がそちらに視線を向ける。

小さくなって、と聞こえた次の瞬間、しゅるしゅると大きな狛犬は、柴犬サイズになり、そこには、若いお兄さんが、誰かを抱っこしていた。


「突然、申し訳ありません! 正園様、緊急事態なんです! 助けて下さい!」


抱っこしながら、器用に頭を下げるお兄さんに、御師匠様は優しく微笑む。


「お久しぶりですね、土御門の方、数年ぶりかしら? 緊急事態とは、どうしました?」


久しぶりと言われたお兄さんは、気まずそうである。


「お久しぶりです・・・、お顔を出さず、申し訳ありませんでした・・・でも、本当に助けて下さい!」


彼らの糸を見た斎は、直ぐに異常に気付いた。抱っこされている子の糸が、絡まっている。あり得ない程の絡まり方で、全体的に絡んでいるため、元の糸が分からない程だ。残念ながら、瑞希は式神が怖くて、斎の後ろに隠れていたが。

御師匠様も、異常に気付き、視線が険しい物に変わった。


「分かりました、本殿へご案内致します・・・瑞希、斎、着替えてらっしゃい」


「「はい!」」


声音は穏やかだったが、二人は背筋が伸びた。御師匠様のまとう空気が、とても張りつめていたから。

そこからは、大忙しだった。二人は、ものの5分程で着替えをし、身支度を整えた後、本殿へ向かった。そこでは、どこかピリピリした空気が流れ、斎も瑞希も、自然と御師匠様の顔色を伺ってしまう。


「来ましたね、二人は此方へ」


促されて、いつものように、御師匠様の後ろへ行く。既に二人の座布団が準備されていた。


「二人は初めてでしたね、彼は土御門の一門の方です、この神社とは、古くからのお付き合いがあります、こちらの方へ挨拶なさい」


「斎です」


「み、瑞希です」


張りつめるような空気が、二人が話すと霧散した。不思議に思いつつも、二人は土御門の人へ、改めて視線を向けた。勿論、二人は気付いていなかったが、二人の可愛い姿に、緊張が溶けただけである。


「初めまして、小さな巫女さん達、土御門 満彦みつひこです、寝ているのは、お恥ずかしながら、僕の弟で達彦たつひこといいます・・・・・正直、我々にはどうしようも出来ません、お願い致します、弟を助けて下さい!」


弟さんは、座布団で簡易的に作った寝床に、横になっていた。顔立ちは、確かに兄弟らしく似ており、年の頃は斎くらいだろうか? 中々のイケメン兄弟である。

とはいえ、糸はかなりの絡まりようで、兄と繋がる糸も、絡んでいる。これは、一日二日で解けるような、簡単な絡まり方ではない。


「お引き受け致しますが、かなり絡んでおります、最低でも、3日以上はかかります」


「っ! そんなに・・・もっと早く気付いていれば・・・・」


悔しさを隠そうともせず、彼は手をこれでもかというくらい、握りしめていた。


「お願いします、責任は俺にもあるんです、弟をお願いします!」


「勿論、全力を尽くします、貴方には、彼の着替えと、ご両親への説明をお願いしますね、それと、我々では彼には術をかけられないでしょう、それをお願いしても?」


「はい! 俺も付き添うつもりです、暴れても押さえられますから! 夜までは寝ているはずですから、その間に説明と着替えを持ってきます! 弟のこと、宜しくお願いします!」


そこからは早かった。瑞希が玄関まで送り、彼はまた式神を呼び出すと、あっという間にいなくなっていた。まるで、幻でも見たような気分になった瑞希である。


「瑞希、手伝ってちょうだい」


戻ってからは、ひたすらに、ひたすらに、糸を解いていく。基本的に指からほどいていくのだが・・・糸の絡まりが酷すぎて、指がほとんど見えない状態である。


「こんなに絡まってるの初めて見た・・・」


「うん、何か大変そう」


瑞希も斎も、幼いうちから、遊びで糸を解いてきた。その中でも取り分け、今回の糸は絡まり方が酷すぎて、ちょっと泣きそうになる。


「大丈夫、ゆっくり解いていきましょう、斎、ここに鋏を」


少しずつ少しずつ、鋏を駆使しながら、糸を解いていく。ほどけた糸は、ようやく指を見せ、正しい糸と余計な糸を分かりやすくはしてくれたが、それでも、凄まじいからみ方である。逆にどうやったら、こんなに絡まるのか。


「・・・一度、休憩しましょう」


御師匠様が手を止める。時刻は15時を少し過ぎていた。


「根を詰めても、進みませんからね、斎、お茶の準備をお願い」


御師匠様が指示を出しつつ、肩を回していると、小気味良いコキコキという音がした。瑞希は既にぐったりしており、自分の座布団で休んでいる。お行儀が悪いと、本来なら言われるが、今日は疲れていたためか、そういった事は無かった。


「おやつにしましょうか、今日はわらび餅かしらね」


御師匠様が出て少しして、斎がお茶の準備をして、戻ってきた。そこに、ガラスの器にわらび餅を入れ、きな粉をまぶした物と、別の小さな容器に、黒蜜を入れた物を人数分用意した御師匠様が戻ってくる。斎も瑞希も、今度はお行儀よく座布団に座っていた。斎は、すっかり、わらび餅に視線が釘付けである。

わらび餅は、斎の大好物である。勿論、これだけでは、成長期の子供達には足りないため、バナナも準備された。

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