参
次回は、2月23日予定です。
遊ぶ事は、二人とも大好きだ。そこはまだまだ小学生、子供なのである。
学校まで遠いここは、子供が近くに居ないため、必然的にお客様のお子さんと遊ぶ事が多くなる。例え、たまにであっても、公然と遊べる事は二人には嬉しい事なのだ。
「僕は斎、この子は瑞希だよ」
「宜しくね!」
着替えてから、依頼人さんの孫である、達也くんと庭にいる。冬、更には、山の上だけあって、未だに雪がかなり残っている。
「僕は達也、こちらこそ宜しく」
礼儀正しい子達である。さて、挨拶も終わり、達也くんは興味津々で雪の残る境内を見ていた。
「こんなに雪があるの見るの、初めてなんだ、僕の住んでいるところ、こんなに降らないから」
目がキラキラしていて、雪を踏むのも楽しいのか、足が雪を何度も踏んでいた。
「ねぇ! 雪だるま作ろうよ!」
雪と言えば、定番の雪だるまとばかりに、元気に瑞希がいう。
「・・・僕、作った事ない」
雪がここまで降らない場所に住む、達也にとっては、断る理由もなく。
「じゃあ、やろうよ、どうせなら、三段雪だるまにしよう」
「やるー!」
久しぶりの遊ぶ時間ゆえか、瑞希もテンションが高い。三人は協力して、大中小サイズの歪な丸い塊が3個できた。歪なのは、ご愛嬌だろう。
「後は、これを上げて、雪で落ちないように固めよう」
斎も瑞希も、雪だるまは、たまに作るから、手慣れたものである。物珍しい達也も、二人に教えられ、つられるように雪で固めていく。そして、それが終わると、バケツと木の枝、小石で顔や装飾を施していく。
ものの1時間程で、立派な三段雪だるまが完成した。
「凄い! 立派な雪だるま!」
先程までの優等生のような姿ではなく、子供らしくはしゃぐ達也は、すっかり年相応の姿である。斎も瑞希も、似たり寄ったりなため、三人は最高傑作である雪だるまの前で、子供らしくはしゃぎ始める。
「斎~、瑞希~、達也くんと、そろそろ中に入りなさ~い」
御師匠様に呼ばれ、二人は達也くんと共に、玄関に向かったのだが、その足がピタリと止まる。御師匠様も、斎も瑞希も、同じく鳥居の方向を見ていた。
「・・・何か、来た?」
「うん、多分?」
瑞希も斎も、初めて感じる気配に戸惑ってしまい、動けないでいた。とはいえ、御師匠様は直ぐに気付き、足が止まった二人を心配して、同じく止まった達也くん共々、室内へ優しく促した。
「安心しなさい、悪い物ではありません、何方かの式でしょう」
御師匠様に言われれば、二人も安心できて、早速、達也くんと作った雪だるまを自慢する。先程の気配は、まだまだ遠いため、達也くんと記念撮影までしてもらった。
「良かったな、達也」
「うん、凄く楽しかった!」
「・・・そうか」
どこか、安心したような父親と、祖父に不思議そうにはしていたが、達也くんも斎も瑞希も、大満足だった。今度きたときに、写真を貰う約束をして、皆さんは帰られた。
「斎、瑞希、達也くんはどうだった?」
見送った後に、御師匠様に聞かれた二人は、よく分からなくて、瑞希は首を傾げて、斎は目を何度かパシパシと瞬きした。ふんわりした質問だと、御師匠様も思ったのだろう。直ぐに、言い直した。
「達也くんと遊んで、楽しかった?」
「はい! 楽しかった!」
「達也くん、雪で遊ぶの初めてみたいだから、楽しそうだった」
二人の話を聞いて、どこかホッとしたらしい。御師匠様は、優しい笑みを浮かべていた。
「達也くん、お母さまが勉強熱心な方みたいで、遊ぶ事が少ないみたいでね、お祖父様やお父様が心配していたの、楽しそうならよかったわ」
成る程、物知りであったのは、お母さまの影響によるものらしい。
「達也くんの糸がいっぱいなのは、習い事が沢山あるから?」
瑞希の純粋な眼差しは、真っ直ぐに御師匠様を見ている。ぱっちりとした瑞希の目は、純粋で、そこに写る御師匠様は、瑞希の言いたい事を理解して、優しい笑みを浮かべていた。
「えぇ、そうでしょうね」
優等生な達也くんは、クラスの頼れる存在なのだろう。一部を除き、関係は良好だった。
「さぁ、そろそろ次のお客様が来ますよ、二人とも」
不思議な気配は、すぐそこまで来ていた。
「ねぇ、斎、式ってなに?」
瑞希は残念ながら、式という物を知らなかった。とはいえ、斎の方は年上だけあって、式を知っていた。偶然、知ったのだが。
「術者と契約した、あやかしや神様の事だよ」
「あら、斎、よく知っていたわね? 式というのは、陰陽師の使う術です、斎の言うとおりね、でも、神様との契約は、式神というのよ」
御師匠様が、優しい声で補足をした。勿論、他にも色々とあるが、まだ幼い二人への答えは、これくらいでいいのかもしれない。
「・・・来た」
瑞希の目が、正面の鳥居へ向いていた。冬景色に染まった境内へ、何かが物凄い早さで来たのだ。
「おっきい・・・」
珍しく、斎が呟いた。目の前に現れたのは、真っ白で大きな狛犬である。大きさは、大人が見上げる程であり、かなりの迫力があった。瑞希はあまりの迫力に、斎の後ろに隠れてしまった。この年頃の子ならば、仕方ないだろう。
「あらあら」
危ない存在ではないと分かっている御師匠様は、そんな瑞希を見て、上品に笑っていた。いつもは大人びている瑞希の、子供らしいところが可愛かったのだ。
と、そこに頭上から声がかかった。
「すいません! 正園様、助けて下さい!」
それは、あまりに切羽詰まった声だった。