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拾陸

お待たせしました~♪

どこか不安そうな顔の達彦だが、ハッキリと言い切った。不安そうな姿だったから、何事かと身構えた斎と、不安そうに見ていた瑞希。

勿論、柚希は分かっていなくて、キョトンとしていたけれど、ただならぬ雰囲気は感じたらしい。ジーっと三人を見ていた。


「・・・いいの?」


瑞希が恐る恐る聞くと、凄い勢いで何度も頷かれた。並々ならぬ意気込みに、引き気味の瑞希。斎は、式というものはよく分からないため、逆に凄く興味津々だ。


「大丈夫! 許可を貰ったのは、安全な小動物だし、可愛いよ!」


やっと御披露目が出来るからか、緊張気味の達彦だけど、顔は満面の笑みである。瑞希がこれで式を、好きはともかく、怖いと思わないようになればいい。達彦にとっては、やっぱり陰陽道を学ぶ側として、自分達の手足となる式を、好きになって欲しい。

と、今まで静かにしていた柚希と、達彦は視線があった。妙にキラキラした、純粋な瞳に、不意討ちを食らった達彦は、息を飲む。


「かわい?」


舌足らずな柚希の質問に、取り敢えず達彦は頷いた。かなり腰が引けていたけれど。


「にょー! かわい!」


凄く喜んで、万歳した後、柚希はその場でキラキラした眼差しのまま、今か今かと、達彦を見ている。

思わぬ伏兵と、思わぬプレッシャーに、ちょっと怯む達彦。そしてそんな柚希を、止めるべきか、悩む斎。瑞希はそんな皆を、戸惑いながら見ている。

カオスな謎の空気に、少し混乱していた達彦だが、今日の為に頑張って練習してきたお札を取り出す。


「が、頑張るからっ!」


平常心、平常心・・・内心で必死な達彦も、失敗は出来ないから、何度も何度も繰り返し深呼吸する。


「よしっ」


気合いを入れて、何度も練習したイメージで、式を作り上げる。達彦くらいの年齢ならば、本来、こんな時間をかけなくても、あっさり出来てしまうのだが、とにかく細部まで拘ったが故に、ちょっと難しくなってしまったのだ。それでも、達彦の実力ならば、余裕の筈なのだが、思わぬプレッシャーにより、体がガチガチである。

これでは、どんな術だろうとも、失敗するだろう。

だが、キラキラした純粋な瞳を裏切れない!

達彦はギリギリのところで、式を作り上げていく。


『キュウキュウニョリツリョウ!』


声高々に呪文を唱え上げた。達彦のお札が淡い光を放ち、次の瞬間。それは、小さな可愛いらしい子猫の姿になった。フワフワの白い毛並みに、クリッとした青い瞳。ニャアと鳴いた小さな口には、可愛らしい小さな牙まで忠実に再現されている。何とも愛らしい子猫である。


「にょっ!」


「か、可愛い~~~!」


柚希と瑞希の声が重なる。上手く出来たからか、達彦はホッとしたように体から力を抜いた。かなり、緊張していたのだ。

その傍らでは既に、柚希と瑞希が一緒になって、子猫と遊んでいた。柚希は恐る恐る触り、その毛並みにビックリしていた。瑞希はそれを見守りながら、何やら紐をごそごそとしていた。


「ねーね? それなーに??」


柚希も瑞希が何かしているのに、気付いたらしい。子猫を抱っこしながら、瑞希の手元を興味津々といったように、覗き込んでいる。ごそごそしていた瑞希は、直ぐに手元を見えるようにした。


「じゃーん!! 即席猫じゃらしだよ~!」


一本の紐の先端を両方とも結び、半分に折ると、持ち手となる中央をまた一結びして、輪にしたものだ。即席にしては、中々の出来である。それなりの長さであるため、子供でも充分遊べるだろう。


「にょー! ねーね、凄~い!!」


もう、柚希のテンションが爆上がりである。キラキラした瞳で、抱っこした子猫をソッと下ろすと、瑞希から紐を貰い、気分が乗るまま、紐をブンブンと振り回す。

が、紐はそんな風に持てば、かなり危険な物になる。子供といえど、それなりに力はあるのだから・・・。

故に、大人しく見ていた斎から、教育的、待ったがかかる。


「柚希、振り回したら危ないよ、紐はこうやって、子猫と遊ぶんだよ?」


いきなり怒鳴ったりはしない。柚希の手にある紐を、その上から握って、やり方を一緒に教えていく。紐は今度こそ、子猫の猫じゃらしとなり、子猫が色んな体制で紐の先を捕まえようと、遊び始める。まだまだ、ポテポテと歩く子猫、ゆっくり紐を動かしても、足が足らず、捕まえる前に転けてしまう。


「か、可愛い~~~☆」


やはり、女の子。瑞希もキラキラと瞳を輝かせながら、柚希と斎が動かす、即席猫じゃらしで夢中になって遊ぶ子猫を、食い入るように見つめている。


「さぁ、一人でやってごらん、柚希」


「あい!」


斎に優しく促されて、柚希が一人で紐を動かし始める。少しぎこちないものの、遊びに夢中の子猫は問題ないらしく、時にコテンと転びながらも、紐の先端を必死に追いかけている。指をちょいちょい動かす仕草や、思いっきりジャンプする姿は、本人は一生懸命らしいが、可愛らしいの一言に尽きた。


「柚希も子猫も可愛い過ぎる~~~☆☆☆」


本当は、瑞希もあの中で遊びたいが、これはこれで楽しいので、問題なし!


「瑞希、落ち着けって」


苦笑しながら斎が言うが、間違いなく、瑞希の耳には届いていないだろう。すっかり、柚希の観察に夢中である。可愛いから、まぁ、良いのかもしれない。


「・・・斎はいいなぁ」


ふいに、ポツリと達彦が呟いた。独り言だったようだが、思ったより響き、近くにいた斎にはバッチリ聞こえた。


「えっ?」


間抜けな顔の斎に、聞こえたのが分かったのか、達彦がアワアワと慌て始める。


「ご、ごめん・・・僕、末っ子だから、下の子が居るのは羨ましいなぁって」


達彦は末っ子である。下が欲しいという気持ちが、無かった訳ではない。普段は気にならないそれらが、二人を見ていたら、ムクムクと出てきてしまったのである。


「うーん、妹とか弟っていうより、兄弟弟子って意識が強いかも・・・僕は一人っ子だし、瑞希には本当の兄弟が沢山いるし、柚希は確か施設からだったから、よく分かんないけど」


斎のぶっちゃけ話に、達彦は目をまん丸にして、驚いていた。何と言うか、イメージが違ったのである。


「・・・でもさ、達彦、今回はありがとう・・・瑞希の為だろ? 術者である以上、怖いままはダメだからさ、僕じゃ出来ないから、凄く助かるよ」


ちょっと強引ではあったが、急にお礼を言われて、達彦は照れてしまった。始めた動機はまさに、瑞希が式を怖がっていたからだ。今回の出来事で、瑞希は慣れただろう。


「うん、なぁ、斎? また、来たらさ、一緒に遊んでくれる?」


「勿論! 家業も話せる友達は、大歓迎だよ」


小さな二人が楽しむ傍らで、年長二人は新たに友情を深めていた。

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