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お読み頂き、ありがとうございます♪


えにしーーーそれは、誰かと誰かの繋がり。運命すらも巻き込んで、強い絆を示すもの。人は誰しもが縁を持ち、幸福を得る一方で、見えない縁に悩み、道を狂わせる者もいる。時には、自分の運命の相手すら巻き込んで・・・。



ここは、継縁神社。

この辺りでも有名な長い石段がある、山頂に鎮座する歴史ある神社である。荘厳でも、きらびやかな装飾がある訳でもないが、落ち着いた趣のある神社である。さらに特別な縁を司る神様が祀られるところとして、時の権力者たちから長く、庇護されてきた。

これは、この神社の、とある日の物語。



◇◇◇◇◇



「ただいまー」


純和風の真新しい引き戸の玄関で、子供の声が上がる。腰まで髪を伸ばした、可愛らしい女の子で、名を瑞希みずきという。年は8歳になる。今日は平日の為、淡いピンク色の可愛いランドセルを背負い、冬の季節らしく、コートにマフラー、手袋をつけている。山の上にあるため、この時期は、ぐっと寒くなるのだ。動いた為に、可愛らしい頬が赤く染まり、普段は大人びた姿も、今は年相応に見せていた。


「おかえりなさい、寒かったでしょう? 宿題はある?」


穏やかに、瑞希を出迎えたのは、巫女服を着た若い女性で、名を正園しょうえんという。凛とした雰囲気を持つ、柔和な女性だ。彼女の師匠でもある。


「お師匠様、ただいま帰りました! 宿題は、今日は出てないです」


「そう、コタツで温まってなさい、寒いでしょう?」


「はーい!」


素直に元気よく挨拶した瑞希に、優しい笑みを浮かべて、正園は部屋へと促した。ランドセルやコート等を自室に置いた瑞希は、そそくさとプライベートの空間に当たる別館の和室で、コタツでぬくぬくと温まっている。

この別館は、完全にプライベート空間である。本館は、お客様を迎える場所のため、私物を置く場所がないのである。生活の空間を作るのは、必要な事であった。

それから一時間程で、また玄関が開く。


「ただいまー」


年の割りに落ち着いた空気をまとう少年の名は、いつき。この神社に住む、もう一人の子供で、小学5年生。黒いランドセルを背負い、やはり冬らしく、コートにマフラー、手袋をつけていた。


「お帰りなさい、斎、今日は宿題はある?」


「只今帰りました、宿題は出て無いです」


「そう、寒かったでしょう? 瑞希が居るから、一緒にオヤツでも食べて、待っててね」


時刻は3時を過ぎたところ。子供には待ち遠しい、オヤツの時間だ。


「今日は頂きものの、パイナップルよ」


特に反応もなく、斎は自室に荷物を置いてから、瑞希の居る和室へ向かう。


「瑞希、ただいま、お師匠様からオヤツあるから食べてだって」


「本当に? 今日はなに?」


「生のパイナップル」


斎の言葉に、瑞希の顔が微妙に固まった。瑞希は、好き嫌いはほぼ無いが、苦手な物も勿論ある。この時期限定で来る、お歳暮のフルーツの詰め合わせの中にある、生のパイナップルだ。酸っぱいため、食べられない訳ではないが、苦行といえた。幼い味覚は、大人よりも敏感である。


「今日じゃなきゃ、ダメ・・・?」


「仕方ないよ、今日は諦めて食べて・・・多分、甘いはずだし」


ここに贈られてくる果物は、かなり高級品が多く、まれに、皇室献上品と同等の物が贈られてくる。長く、権力者に庇護されてきた神社ゆえの、特殊な日常であった。

最近では、瑞希や斎という子供が居るため、お菓子の詰め合わせも来る事がある。とはいえ、ここは神社。安いお菓子ではなく、高級品のお菓子が来る。

・・・・・多分だが、二人はかなり、舌が肥えているかもしれない。


「御師匠様、食べないのかな?」


既に、食べるだけになっている、綺麗にカットされたパイナップル。瑞希は恐らく、御師匠様が食べれば、少しは自分が食べる分が減る、という姑息な考えなんだろうが、残念ながら、掃除をしている御師匠様が来る可能性は、極めて低かった。


「多分、明日の準備もあるし、来ないと思うよ?」


「やっぱり?」


残念そうに、目の前に置かれたパイナップルを、瑞希は諦めたように、フォークでつつきながらも、チビチビと食べていく。食べれない訳ではないのだ。ーーー好きではないだけで。


「オヤツ、最近、フルーツばっかりだね」


ここ数日、瑞希と斎のオヤツは、毎日、種類は違うがフルーツばかりだ。少食の瑞希はまだしも、成長期の斎には、やや物足りない量である。そろそろ、御師匠様に直談判すべきか、頭の片隅で考えてしまう、斎である。


「・・・プリンとか、食べたい」


ポツリと呟く瑞希の言葉は、本来ならば、タブーである。とはいえ、潔斎をするならまだしも、普段は普通に食べれるので、単に今回は日持ちのしないフルーツが出ていると思われた。


「瑞希、そのうち出るよ」


斎も、わらび餅が好きなので、その日が待ち遠しい。たまに、お土産で来ると、視線が外せなくなってしまうくらいには、好物だった。

と、会話しつつも、チビチビと食べていたら、廊下から固定電話の鳴る音がして、御師匠様の声もする。しばらく会話をしたのち、ふすまが開いて、御師匠様が顔を出した。しかし、何だか表情がおかしい。困った顔をしていた。


「瑞希、斎、来週か再来週辺りに、うちの師匠が兄弟子と帰ってくるそうです」


あぁ、だからか。二人の内心は納得した。うちの師匠、と呼ばれた人は、60代くらいの細身の叔父さんで、御師匠様の師匠に当たる。が、斎も瑞希も、大先生と呼んでいた。理由は単純で、本人が老師と呼ぶのを拒否したからだ。

兄弟子に当たる方は、先生と呼んでいる。なお、正園の旦那様でもある。

二人にとっては、もう一人のお父さん、お爺さんみたいな人達である。


「やっと帰ってくるんですか?」


「えぇ、ちょっと手間取ったみたいだわ」


やれやれという表情だが、御師匠様はどこか嬉しそうである。


「そういえば、明後日にお客様が来るから、貴方達も手伝ってね」


「「はい!」」


元気よく、二人は挨拶したのだった。なお、パイナップルは、綺麗に二人で食べた事を、ここに明記しておく。瑞希はお残しをしなかったのだ。

次回は、2月9日に更新予定です。

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