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特務捜査官になったのですが、イカロスって何ですか?  作者: 伊吹 ヒロシ
第一章 二度目の小学生
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4.先輩との生活

 今日の授業では捜査の進展はなく、他の児童と一緒に下校となった。

 登下校は、ARディスプレイによりナビゲーションシステムと自身の身辺に危機が迫った時、警報する防犯システムが備わっている。

 だが、それでも万一に備え集団で登下校をし、地域の大人たちが付き添っている。

 私は、みんなと一緒に下校しているが、俯き無言で歩く様は以前までと変わらない。

 まさか高校生にもなって黄色の帽子を被らされ、ランドルセルを背負わされるとは、とんだ羞恥プレイである。

 知り合いに見られたら恥かしいが、私にはそもそも親しい友人がいない。

 そんな私の隙を見計らう様に、見覚えのある車が通学路のコンビニに止まっていた。

 そして満面の笑みを浮かべ本郷警部が私を見つめている。

 私は思わずイラッとして、近くの大人に知らせようかと脳裏を過ぎるが我慢した。


 ――帰宅後。

 学校で出された宿題をあっという間に片付けると、桜さんに薦められた問題集と参考書を開き勉強を始める。

 ディスプレイ上に表示される問題集や参考書で分からないことがあれば、そのままインターネット検索で調べる事も出来るが。

 問題集や参考書ではアクセスキーが付録され、その出版社から専用のアクセス先があるので、そちらで検索して調べるのが一般的だ。

 「はあー……」

 一向に勉強が捗らず、溜息が漏れる。

 学校ではそこそこ勉強が出来る筈であったが、桜さんと学力レベルの差があり勉強するのが大変だ。

 四苦八苦しながらも勉強を進め、十八時くらいになると夕食を作り始める。

 今日は材料があったが今後は帰宅した後、遅くならない内に食材を買いに行かなくてはならない。

 桜さんの部下であり、居候の私が家事を任されるのは当然である。

 だが、下校中に夕飯の食材の買い出しに行く訳には行かない。

 小学生が買い物に行くのは、傍から見て変だと思ったからだ。

 私は、これまで周囲に奇異の目で見られていたので、周囲に対して配慮が出来る女子高生である。

 夕食の準備を済ませ、先にお風呂に入った私は桜さんが帰宅するまで再び勉強を続ける。


 ――二十時過ぎになり、桜さんが帰宅した。

 「ただいま……何だか、今まで口にしなかったから不思議な気がするわね。しかも、心ちゃんを見ながら言うと、複雑な気持ちになるわ」

 桜さんが形の整った顎を掌に載せ、首を傾げる。

 私は口元を引き攣らせながら。

 「お帰りなさい。私は嬉しいですが、私を見て母性本能をくすぐるとか、そういうのはいいですから……お風呂にしますか? それとも夕食にしますか?」

 この言葉を口にするのは恥かしかったが、

 「何だか、そのフレーズ良いわ……夕食までもう少し時間が掛かりそうだからお風呂にするわ。でも、心ちゃんと一緒に入ってみたいかも……」

 桜さんが頬を染めながら答える姿に、以前感じた違和感が過ぎるが。

 最後の言葉で確信した。

 桜さんはこれだけの美人なのに彼氏がいないと聞いていたが、異性よりも同性が好きな方なのだろう。

 そして私は同性であるが、年齢が対象外のため、対応に戸惑っているのだろうか。

 私は桜さんとの関わり方を大よそ掴んだ。


 ――夕食後。

 今日の捜査状況を報告する。

 口答でなく、私の見聞きしたメモリから直接確認出来るが。桜さんが言うには、じかに感じた事も大切らしい。

 足を使う捜査が基本だと聞いた事があるが、そういった感覚なのだろうか。

 私が一日の出来事を話すと、

 「心ちゃん、あなた、大人しくて控え目な性格だったわよね。成績は目立っていたけど……。私たちの仕事は目立たない方が良いというのが一般的なのよ。心ちゃんが採用されたのも、そういう性格が加味されてだと思うけど、大丈夫かしら……」

 桜さんは、得意気に今日の出来事を話した私を見つめ、整った相貌を顰める。

 「はい、私もそのつもりでしたが、二回目の小学校生活が意外にも楽しくて……。だって、給食が出たんですよ! テンション上がりますよね!」

 「分かったから、落ち着いて頂戴。今日食べたから満足したわよね。明日からは控え目にして頂戴。下手に目立って、心ちゃんの正体がばれたら面倒だわ」

 私は桜さんに叱られ、うな垂れるが……。

 「私、こんな風に叱られるのは久しぶりで、怒られているのに嬉しいだなんて変ですよね。明日は体育があるから、目立たない様に加減します」

 「ええ、そうして頂戴。そもそも高校生の全国大会で、幾つもの種目で活躍した心ちゃんが少しでも本気になれば。……心ちゃんが一度目の小学生の時に、注目を浴びたどころの騒ぎでは済まないわ」

 桜さんは言葉とは裏腹に微笑みを湛え、私の頭を撫でてくれた。

 「はい、十分に気をつけます……」

 私は瞳を潤ませ、明日は給食以外気をつけることにした。

 「ところで、勉強ですが……私には、桜さんから頂いた問題集と参考書は難しいと思うのですが、塾に通った方が良いですか?」

 「勉強? 調べても分からないことがあったら私に聞いて頂戴。塾に通っている暇はないし、志望大学が決まっているなら、今から勉強すれば間に合うわよ。心配なら冬休みに、冬期講習を受けるのはどうかしら?」

 相談に乗ってもらって安心したが、そもそもこんなに人と話す事もほとんどなく、私は嬉しさで満たされた――


 ――潜入捜査二日目。

 桜さんと一緒に朝食を済ませ、登校時間も桜さんの出勤の時間と被った。

 マンションからランドセルを背負った私と桜さんが手を繋いで出ると。

 偶然クラスメイトの鈴木君とすれ違う。

 「あっ、おはよう」

 「おっ……おう? お前のお母さんって、何でそんなに若いんだ? ……い、いや、親戚のお姉さんだったよな。悪い……」

 私の挨拶に反応した鈴木君は。

 桜さんを見て面食らったようだが、母親でないと気づいたのか、苦虫を噛む様な顰めっ面を見せ、謝罪したのだ。

 そんな鈴木君の様子に桜さんは好感を抱いたのか、優しく声を掛ける。

 「心ちゃんのお友達かしら? この子、人見知りで内気な性格だから心配していたけど……。しっかりした男の子の友達が出来たみたいで安心したわ。これからも心ちゃんの事をよろしくね……えー、お名前は?」

 「……は、はい! 鈴木大輝すずきたいきです。俺に任せて下さい!」

 鈴木君は、丁寧に自分の名前をディスプレイに掲載させると頬を染め、真っ直ぐに背筋を伸ばして声を張り上げた。

 「へーっ……鈴木君の名前って、大輝って言うんだ……。桜さんの前だからって、そんなにも緊張しなくてもいいのに……小三のくせに格好つけて……」

 私は、女性としての魅力で桜さんに勝てないと思いつつ、本当は高二だという自尊心がある。

 小三相手に向きになるのは恥かしいが、そんな自分を止められない。

 「うふふふふ……大輝君ね。あまり私がいると桜ちゃんが拗ねちゃうから、私は先に行くわ。後はよろしくね」

 桜さんは大人の余裕を見せつけ、颯爽と立ち去った。

 鈴木君は鼻の下を伸ばし、呆然と桜さんを見つめている。

 「……鈴木君、早く行くわよ」

 「……おう、お前のお姉さんって、テレビとかで出て来そうな大人だよな……」

 私が苛立って声を掛けると、鈴木君は魅了されたかの様に声を漏らした。

 その様子に益々苛立つが、鈴木君のテレビとかでというフレーズに、小三の語彙力ではモデルとかタレントとなどと言った言葉ではなく、そういう表現になるのかと可笑しくなり。

 私は落ち着きを取り戻したのであった。

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