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特務捜査官になったのですが、イカロスって何ですか?  作者: 伊吹 ヒロシ
第一章 二度目の小学生
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3.初任務は潜入捜査

 ――二日後の週末。

 面接に合格した私は現在の保護者である親戚の家に、課長の佐伯警視と直属の上司になる前田警部補と共に挨拶をし、保護者の承諾を得る。

 そして高校二年生の十月から、私は正式に警察庁公安の非常勤特務捜査官となった。

 また、それに合わせるように、私は警察学校に研修に行く名目で高校を休学することになる。

 

 ――初任務。

 「今日からご両親の都合で転入することになった『まえだこころ』さんです。さあ、前田さんからもみんなに自己紹介して」

 私は担任の大山先生に促され、自己紹介を始める。

 「えー……両親と離れて暮らすことになり、親戚の家に住むことになり転入してきました。前田心です。よろしく……」

 私は打ち合わせ通り簡単な経緯を説明し、引き攣った笑みを浮かべた。

 「おー! すげー! 親と離れて暮らすのか!」

 「何だか、大人みたいな話し方ね……」

 「ば、馬鹿、聞こえてるぞ!」

 「馬鹿とは何よ!」

 教室内で男子と女子の言い争いが始まり、私は引き攣った笑みを浮かべたまま、クラスメイトの受けを見つめて固まる。

 今朝、私は上司の桜さんに連れられ、小学校に転入してきたのだ。

 佐伯警視から面接の時に特殊な業務と言われたのを、身を持って理解した。

 年齢と経歴は捜査のため偽造してあるが、名前だけは初めての任務である配慮から変えられていない。

 勿論、私とは関わりがない街であり、私を知る者がいないという事前調査が行われた上でのこと。潜入捜査で身元が割れては意味がない。

 それでも今後親戚で保護者として生活する桜さんとは、苗字が同じ方が良いだろうと同じにされた。

 昨日は、桜さんと住む事になったマンションに引っ越して浮かれたが。

 夕食後、いきなり桜さんからランドセルを見せられて戸惑った。まさか小学校に潜入捜査をさせられるとは夢にも思わなかったからだ。

 ランドセルを背負った私の姿を見て、桜さんはこれまでの印象とは違った蕩けそうな笑みを浮かべ、吐息を荒くしていた。

 何かしら気になったが詮索している余裕はない。

 私は、どうせ退屈になるだろう小学校の授業の他にやるべきことがあるからだ。

 難関大学として有名なT大学を卒業後、エリートとして入職した桜さんから、大学受験用の参考書と問題集を薦められ、データを公安で支給されたハイスペックの眼鏡型の端末にインストールさせている。

 脳内にあるインプラントの方は、基本的にこういったことには使わない。


 ――ちなみに、今回の捜査は女子児童に対する男性教諭のハラスメント行為に対する調査である。

 所轄の警察署から依頼があったもので、訴えが度々起こるがその都度調べてもハラスメント行為の警報はないそうだ。

 録画などの情報も被害に遭った児童の証言と異なっている事から、違法デバイスを使用した情報の改ざんの疑いが高い。

 他にも近隣で似た様な被害届が出されており、裏ルートで違法デバイスが流通している可能性を考え、現在もっとも有力な容疑者候補である男性教諭を押さえるために、私が派遣された訳だ。

 私の脳内にはインプラントが埋め込まれているが、どういう訳か手術を受けて五年以上経過しているのに、現行型のデバイスより遥かに性能が高く。

 体内に直接埋め込まれているためか、外部からの干渉を受け難くなっている。

 開発者の先生が消息不明なので、謎の多いシステムであった。

 そういった事情もあり、私は今回潜入捜査をする上で打ってつけの人材であるのだ――。


 今回の事件で疑いのある『大山英樹おおやまひでき』教諭のクラスに転入させられた私は、三年二組のクラスメイトへの挨拶を終え、転入生の定番といえる一番後ろの席についた。

 そして、私は早速始まった算数の授業の教科書をディスプレイに出すと、大学受験用の問題集も合わせてディスプレイに出し、大人しく授業を聞き始める。

 それにしても、小学四年生で事故に遭い身体の成長が止まったとはいえ、よりにもよって三年生のクラスに転入させられるとは……。

 (大山ー! お前のせいで……)

 私は心の中で女の子だけど雄叫びを上げ、クラス担任の大山先生をひと睨みすると勉強に集中した――。


 授業の合間の休憩時間では、早速好奇心旺盛な児童クラスメイトたちが私の周りに群がってくるが、何度も転校・転入を繰り返した私の経験が冴えた。

 「前田さんは、いつもどういうことをして遊ぶの?」

 「私は、最近勉強が忙しくてあまり遊ばないわ。両親がいなくなったから甘えられなくて……」

 私には最近の児童が好む遊びが分からない。

 だがこういう時、こういう風に答えれば、大概誰も突っ込んでこなくなる。

 「おい、前田! 勉強ばかりして運動はしないのかよ!」

 今度はクラスでリーダー格の男子が、みんなを代表する様に尋ねてきたが怯まない。

 「たまに習い事で柔道と剣道をやっているわ。空手は初段をとって辞めたけど、一通り型は覚えたし、あれこれやっても仕方ないから」

 私は笑顔で男子に答え、口端を吊り上げ余裕を見せる。

 既に子供の喧嘩レベルではない私を知ると、男子は何も言わずに私から離れていく。

 「凄いわ! 鈴木君、運動は何でも得意だから、いつも偉そうなんだけど、大人しくなったわ」

 クラスのJS(女子小学生)から眩しい瞳で見つめられ。

 少々言い過ぎたと気づき、すぐに態度を改める。

 「そ、そんなことないわ。最近は勉強ばかりであまり運動してないし、私も転入したばかりで学校のことは良く分からないから、これから色々と教えてね……」

 謙遜した態度を示しつつ、最後は甘えた声と笑顔で周囲を見つめた。

 どうだといわんばかりに力強く右拳を引いてしまい、慌てて笑顔を引き攣らせる。

 しかし、不幸中の幸いか、面白い子としてクラスの女子に溶け込めたようだ。


 ――給食。

 私が小学校に転入させられ、一番に楽しみにしていたのが給食である。

 中学校までは普通に食べていて気にも留めなかったが、高校二生年になると懐かしくなり、恋しくなるのだ。

 私は給食当番のそれぞれのメニューの前に、親しくなりつつある女子児童と列に並ぶ。

 「大盛りでお願い」

 仕切りにその言葉を繰り返す。

 私の遠慮のない様子にJSが引き気味になるが、男子児童からは好感を持たれたようだ。

 「さっきから格好つけているみたいで、給食も気取って少なめにすると思ったけど、気に入ったぞ!」

 鈴木君は意外と難しい言葉を知っているなと思い、小首を傾げるが。

 私の何が気に入ったのか分からないが大盛りにしてくれて、それに釣られて他のクラスメイトも大盛りにしてくれた。

 私の身体は成長が止まっているとはいえ、年齢は十七歳である。

 しかも身体能力は同世代の男子よりも遥かに高い。

 平均的な小学三年生の食事量では足りる訳がないのだ。

 鈴木君に気に入られた事は悪くない。

 以前の私は人の目を気にする事がなかったが、不慣れな環境で他者から親しくされる事に有難味を覚える。

 ちなみに給食は残った分でお代わりがあったり、担任の先生に見つからない様におかずのトレードなどが行われるが、大半の女子と鈴木君にも気に入られた私は遠慮なく給食を満喫した。

 私は、再びやって来た小学生生活を満喫しているのかもしれない。

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