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特務捜査官になったのですが、イカロスって何ですか?  作者: 伊吹 ヒロシ
第一章 二度目の小学生
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2.公安からのスカウト

 ――九月中旬。

 突然、私の元に警察の人がやって来た。

 AR世界で身分の偽装は出来ないので、私の視界に移る身分証で警察の人だと分かったが、何故警察が自分に用があるのか理解出来ない。

 私は訝しげに学生寮のロビーで警察の人の顔を見つめた。

 「あははは……困ったな。何だか疑われているみたいだな。私は捜査で君を訪ねた訳ではないんだ。……実は話があって来たんだけど、ここでは話せないから場所を変えて、後日に改めてで良いだろうか?」

 スーツ姿の私服警官は名前を名乗らず、私にだけ分かるように私のデバイスに情報を送り、正体を明かす。

 『警察庁 公安 技術対策課 主任 本郷武ほんごうたけし 警部』

 「公安……?」

 「シ――!」

 私の呟きにすぐさま反応した警部さんは、私の顔にセクハラ警報が発動するギリギリの距離まで近づき、人差し指を出して私の言葉を遮った。

 「明日、君が学校の授業を終えた頃、近くの駅前で車を準備して待っているから、話だけでも聞いてくれないだろうか。君にとっても悪くない話をするつもりだし、勿論安全な場所だから心配はいらない。その代わり、私の事や今回の件について秘密にして欲しいのだけど……」

 突然、女子高生に胡散臭い話題を提供して、心配ないとは無理がある。

 幾ら警察の人だと分かっていて、ハラスメントシステムがあっても感情という生理的な思考がパトランプを点灯させ、顔が引き攣ってしまう。

 私は何を動揺しているのだろうと首を振るが、少しずつ警部さんの話に興味を抱きつつあったのかもしれない。

 不安を覚えつつも、『公安』という未知の組織に関心を持ち、頷いた。


 ――翌日の放課後。

 私は約束通り駅前に足を運んだが、警部さんが駅前のロータリーに堂々と覆面パトカーを停めているのを見つけ、驚かされる。

 「何で、こんな目立つ所に堂々と車を停めているんですか!」

 「えっ? 面倒事はゴメンだけど、君が私を見つける事が出来なくて、探しに行く事になったらもっと面倒だろう。リスクマネージメントだ。まだ習ってないのか?」

 警部さんはまたもハラスメント警報が鳴るギリギリの距離に迫り、人差し指を私の前に突き出し左右に振った。

 私は引き攣った笑みを浮かべるが。

 「うっさい!」

 一言文句を言うと頬を膨らませ、プリプリ怒り覆面パトカーの助手席に座った。

 「はい、それでは面接会場まで向かうぞ」

 「えっ、何? どういうことですか……」

 小さく笑みを浮かべる警部さんに、私は両目を見開きあれこれと尋ねたが何も答えてくれない。

 移動の最中も、警部さんは適当に相槌を打つだけ。

 ハラスメント警報や誘拐などの危険を察知する警報も鳴らず、半ば破れかぶれの気持ちになったが、そんな私も自分のモニター地図を眺めて、少しずつ現実味を帯びる。


 ――警察庁。

 私は地図に表示されている場所を呆然と眺めているが、警部さんが助手席のドアを開けた。

 千代田区にある有名なビルに連れられ、胡散臭いと思っていた話に真実味が帯びる。

 駐車場で車を降りた私は警部さんの後ろに続き、建物の中に入った。

 建物の中に入ると、警部さんのIDでエレベータに乗り、私の鼓動は高まる。

 エレベータは建物の半ばを過ぎて、庶務課という階に止まった。

 「警部さん、庶務課って、載ってますが……」

 「えっ? 何を言ってるんだ……あっ? 君は知らないんだったな。いいんだよ。寧ろ、そういう人材の方が適任だから……」

 私の疑問に警部さんは適当に答えると。今度は急に態度を改め、紳士っぽく行く先に手を差し出し、私をエスコートする様に歩み出す。

 私は不安を抱きつつも警部さんの後に続く。

 庶務課という部署を通り越すと、またもID表示で通れる扉があり、警部さんのIDで中に入った。

 

 ――公安。

 私は警部さんに連れられ、大きなフロアにやってきた。

 広いフロアが幾つも仕切られて、私が連れられた区画は一番奥の窓際。

 そこにはデスクが八つ並んでいる。

 八つ並んでいる席から離れた奥の席には、警部さんより少し年上の男の人。

 そして手前から二つ目の席には、私より年上で二十台半ばくらいの大人っぽい顔立ちでスタイルの良い美女が座っており、頬が引き攣る。

 私から見ればみんな大人っぽく見えるが、あまりに理想的な美人過ぎて、忌々しく感じるくらいは許されるであろう。

 警部さんが八つ並んでいる席の一番奥に座り、私は一番手前の美女の隣に座るように促された。

 美女がすぐに席を離れ、気まずい雰囲気が漂う。

 「――はい、お茶よ。遠慮しないで……」

 「ああ、どうも……」

 だが微笑を湛え、私の前にお茶を出してくれた美女に女神さまの輝きを感じた。

 (この美女、いい人だ、きっといい人だわ)

 これまでの緊張が解れ、頬が緩む。

 「課長、駿河心さんをお連れしました」

 警部さんが一番奥の人に声を掛けると、

 「はい、ご苦労様です。それでは面接の前に説明を始めましょうか」

 奥の席の人が口を開き、私は思わず驚きでお茶を噴き出す。

 「ぶっふぁ! どういうことですか? 私、何も聞いてないんですけど!」

 私が机に手を付いて立ち上がりそうになると、隣の席の美女が私の肩に手を置く。

 「何も心配いらないわ。面接前の説明をするところだから、きっと減点にはならないわ」

 私の肩に美女が手を載せたが、同性同士で如何わしい行いでなければ、通報歴のない人の場合警報はならない。

 私は何も知らされずここまで連れられ、もう少し抗議しても良い筈だが。普段優しくされた経験が殆どないので、美女の微笑みにうっとりして肩を竦める。

 「まずは自己紹介をしましょう。私はこの部署の課長、佐伯真さえきまこと警視です」

 「私がこの部署で、一番あなたと歳が近いわ。前田桜まえださくら警部補、四年目で二十五歳よ。よろしく」

 「えーっ……私は」

 「よ、よろしくお願いします! 佐伯警視、前田警部補! 前田警部補のことは、桜さんとお呼びしてもいいですか?」

 私は自分のモニターに表示される名前だけでなく、自身の口から自己紹介してくれる公安の方々に興奮して席を立ち、挨拶をした。

 私が興奮した姿に戸惑ったのか、周りの方々の表情が引き攣る。

 「あ、あのーっ……私の自己紹介が、まだなんだが……」

 「えっ? すみません。つい緊張して……でも、警部さんの名前は、先日聞きましたよ」

 「そ、そうだけど……」

 口篭る本郷警部を遮り、佐伯警視が私に答える。

 「まあ、まだ面接は始まってないし、説明前の自己紹介ではないですか。硬い事は抜きにしましょう。それに、私にも同じ年頃の娘がいてですね……オホン」

 佐伯警視は私の顔を見つめ、感慨深そうに語っていたが口篭った。

 私は娘という言葉を聞いて、また子供扱いされたと思い、顔を引き攣らせるが。

 隣から前田警部補が微笑を湛え、頭を撫ででくれた。

 「私の事は面接に受かったら、名前で呼んでくれて良いわ。ただし、TPOを弁えて頂戴」

 「はい、分かりました、ありがとうございます」

 私は元気いっぱいの返事をして勢い良く頭を下げるが、

 「うん、良い返事ではないか……オホン」

 またも佐伯警視が口を挟み、すぐに咳払いをする。

 「あの……私の事はもういいので、話を進めさせてもらって良いですか?」

 本郷警部は一人だけ蚊帳の外にされて拗ねてしまったのか、これまでにない冷ややかな表情で催促する。

 「ああ、そうだね。それでは、駿河さん。あなたは公安という組織の事を知っていますか? 知っていたらどのような事をするのか自由に話して下さい」

 佐伯警視が表情を引き締め、私に質問した様子。

 私は試験が始まったと思い、緊張で胸が熱くなり。

 すぐに立ち上がり、佐伯警視に敬礼をして返答をする。

 「はい、公安とは、謎が多い部署だと認識しています。警察組織に属するとは思いますが、秘匿性が高い部署だと思われます。業務内容ですが、テロを未然に防ぐ捜査や、反社会活動を行う組織の捜査などあるかと思います」

 私の堂々とした姿に見惚れたのか、三人とも呆然と私を見つめている。

 「はい、そうですね……ですが、驚きました。思いの他、詳しく知っているのですね。将来警察官になりたいと思っているのですか? それから敬礼する姿が、うううう……」

 佐伯警視は私の回答を褒めてくれたが、最後に顔を伏せて身体を震わせているのは何故だろう。

 周りを見ると、本郷警部と前田警部補が顔を伏せて身体を震わせているが、隣に座っている前田警部補は両手で顔を押さえている。

 「あ、あのー……何か、私の答えが間違っていましたか?」

 「い、いえ、そうではありませんが……」

 「課長、もう我慢出来ません。あはははははははははははは! ……いやー、さっきの敬礼は実に良かった。私はまだ若いつもりだったが、自分が歳を取ったのを実感したね」

 「本郷警部、失礼ですよ。確かに愛らしかったのは認めますが……」

 私の問いに佐伯警視、本郷警部、前田警部補が順に答えて理由を知った。

 自分では格好良く敬礼したつもりでいたが、私の見た目は幼いのだ。

 普段は周りとこれほど熱く語る事がないので、この様な失態を犯すこともない。

 私は羞恥に耐え、ゆっくりと席に座った――。


 佐伯警視が再び仕切り直して、私に尋ねる。

 「……オホン。では、先程の続きですが、将来は警察官になりたいと思っているのですか?」

 「はい、私は今、将来どの様な職に就こうか考えている最中です。今後の事を考えて大学に行こうと思います。それで学費を稼ぐためにアルバイトをしようとしていますが……見た目が、その……こんな風なので、雇ってくれるところがなくて途方にくれています……」

 私は将来の夢を熱く語り出したものの、自分のコンプレックスに関する事を口にすると、みるみる覇気が下がってしまう。

 「学費を稼ぐためにアルバイトを探していたのですか?」

 「はい、そうですが……」

 なおも佐伯警視に尋ねられ、私は呟く様に答えるが。

 「アルバイトの希望職種などはありますか? 例えばサービス業とか、女性ではあまり多くないかもしれませんが、力仕事とか……それから企業や施設の調査員とか……」

 「はい? そうですね……運動には自信がありますので、身体を使う仕事などは興味があります。時給も高そうですし……サービス業とかは、あまり人と話をしない方なので少し自信がないですが、それでも頑張りたいです。それから、これまでどこにも採用されなかったので、正直希望職種はありません」

 これまでどこにも採用してもらえず意気込みを伝えてみたが、肉体労働の仕事で思わず本音が出てしまったり、接客業に関しては今までの生活が思い切り足かせとなってしまった。

 私の覇気は再び下がってしまう。

 佐伯警視は表情を変えずに話を続けた。

 「そうですか……あなたのことを調べさせて頂き興味を持ちましたが、今の自己PRを聞いて確信しました。駿河さんは、あなたは十分に戦力になる人材だと思います」

 佐伯警視の言葉に力を感じるが、私は嬉しい反面疑問を抱いた。

 佐伯警視の質問に答えている最中、人間関係の弊害から消極的な返事をしてしまったのに、何故か好印象を受けてしまったのだ。

 「あのー……私は運動には自信があるので……公安という部署ではなく、SATの様な激しい部署からお話がくるのは分かるのですが、何故私に声が掛かったのか腑に落ちないといいますか……」

 私はまだ公安で働くと具体的に話が出てもいないのにもかかわらず、知っている知識を最大限に活用させ時間稼ぎをした。

 「本当に良くご存知ですね。SATのことも知っているとは……でも、駿河さんの素晴らしさは身体能力だけではありませんよ」

 「はい、そうですよね……えっ?」

 私は時間稼ぎする余裕もなく、佐伯警視の言葉に返事をしながら驚いてしまう。

 「では、ここで働いてみますか? 非常勤の時給扱いですが、一般的なアルバイトよりも高額だと思います。……但し、色々と特殊な業務を行ってもらいますが、よろしいでしょうか?」

 佐伯警視が一気に話を進めてきて困惑するが、確かにこの話は魅力的だ。

 特殊な業務が何をするかは疑問だが、これまでどこにも採用されなかった。

 しかも公安という警察でも特殊な部署のアルバイトの時給が安い筈がない。

 それに、公安はエリートばかりと聞いている。

 これから進路相談や勉強の相談に乗ってくれるかもしれない。

 私は頭の中で利益を考えて決めた。

 「はい、ぜひ、私にやらせて下さい!」

 「おっ? 想像以上に早く結論を出しましたが、何故でしょうか? 私は今日、この場で決めて欲しいと言っていませんが」

 佐伯警視は微笑を浮かべているが、その口端が吊り上る。

 「はい、アルバイトといえども、公安という特殊な組織で働く以上、瞬時に利益と不利益を考えて即決する必要があると思いました」

 「良い返事です。身体能力は申し分なかったのですが、色々なスポーツで全国レベルだけに駆け引きも若い割りに上手く、賢い人だと分かりました。面接は合格ですが、後は未成年ですので、保護者の方の承諾が必要になります。――これからは、隣の席の前田警部補が駿河さんの直属の上司であり、パートナーになりますので後を頼みます」

 前田警部補は素早く立ち上がり一礼して答える。

 「はい、承知しました」

 「はい、これからよろしくお願いします」

 私も後に続いて挨拶したが、前田警部補の素早い返答に驚いている。

 (マジ、あり得ない……)

 私の面接は無事に終了した――。

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