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特務捜査官になったのですが、イカロスって何ですか?  作者: 伊吹 ヒロシ
第一章 二度目の小学生
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1.過去と現実

 満開だった桜が舞い散り、時折勢いを増す風が肌寒い。

 四月に入り、進学や就職と新しい門出を迎える人たちは希望の満ち、どこか初々しい雰囲気を醸し出ている。

 私もその中の一人の筈だが、気が重い。身体は決して大きくないけど……。

 私の名前は駿河心するがこころ十八歳、今年高校を卒業した女性だ。

 

 ――私は子供の頃、事故で両親を失くした。

 そして、自身も生命の危機に直面した。

 だが、たまたま収容先の大学病院で研究中だった先生が、当時研究中だった特殊なインプラントを私の脳の中に埋め込み、奇跡的に死を免れたのだ。

 その行動は明らかな越権行為であったが、既に手の施し様のない状態に咎める者はいなかったらしい。

 手術は無事に成功して脳医学界世紀の大発明であったが、違法行為を公に出来ず、秘密裏に隠ぺい工作がなされてしまう……。

 私の脳内のインプラントはARデバイスを主体とした機能を有し、本来失う筈だった視覚と聴覚だけでなく多用な役割を果たしてくれた。  

 兎も角、私は病院で研究中だった先生と脳内にあるインプラントのお陰で命を救われたのである。

 その後、無事に退院して身寄りのなくなった私は手術の詳細を知らず、親戚の家に引き取られた――


 ――月日が経ち。

 私は親戚から恐れられ、親戚中を転々とする嵌めになった。

 ちなみにインプラントの事は中学生になった頃、定期受診で病院側から説明を受けて知った。

 それまでは単にインプラントが脳内に埋め込まれているとしか説明されず、手術が成功したと聞いただけで深く考えもしなかったのだ。

 事故当時私が幼かった事もあるが、親戚たちも病院側の言葉を鵜呑みにして詳細を知らなかったらしい。

 私は病院の先生から説明を聞き、インプラントの秘密と自分の身体の事を知るが、親戚たちは何も知らずに私の事を化け物の様に忌み嫌ったのである。

 私は命を救われたにも関わらず、自分の身体に得体の知れないインプラントを埋め込んだ先生を恨んだが、当時研究中だった先生は手術が終わった後消息を絶ってしまった。

 病院側も表沙汰にしたくなかったのか、先生の行方を探そうとしなかったように思う。

 そういった事情があり、手術を行った先生とは違う別の医師から定期的に診察を受けていた――。


 世間一般で普及しているAR装置は眼鏡の様な物から、特殊な目的を必要とする人はゴーグルの様な物を付けたりと色々であるが、私はインプラントのお陰で必要としない。

 それでも病院から、周囲から奇異の目で見られるのは良くないと言われ、眼鏡タイプのAR装置を装着されられていたが、それを使う必要性はなかった。

 また普通の人と違うのは、それだけではない。

 小学四年生の九歳の時に事故に遭ったが、インプラントを脳に入れられてから身体の成長が止まってしまったのだ。

 初めのうちは、成長が遅れているのは事故の後遺症であると病院の先生から言われ、自分もそうだと思っていた。

 だが、身体が成長していないのに、どういう訳か身体能力が普通の子供よりも遥かに高くなっていったのだ。

 身体がなかなか成長しなくて劣等感を抱いていたが、自分より身体の大きな同級生だけでなく、上級生よりも足が速くなるなど。運動で負けないことが唯一の支えとなった。

 しかし、周囲の自分の見る目は変わっていったのだ。

 自分に対して妬む者、恐怖を抱く者、持て囃す者がいたが。

 前者のふたつは、主に同級生や上級生など同じ子供たち。

 恐怖を抱く者は身近な大人たちであり、同級生の親、それから自分を引き取ってくれた親戚であった。

 持て囃す者たちは学校の先生たちであり、特別な施設や進学先を家族である親戚に紹介したが……引き取ってくれた親戚は、ある日耐えられなくなったと言い、私を別の親戚へと預けたのだ。

 学校の先生たちは大いに落胆したが、子供たちや子供たちの両親たちからは喜ばれた。

 私はこうして身体が成長しないまま、身体能力だけが飛び抜けて高くなり。

 高校に入学するまで何度も親戚の家をたらい回しにされてしまう。

 それでも自分の能力をもっとも発揮出来る運動だけは続け、スポーツ進学校に入学してからは複数の部活を掛け持ちして活躍した。

 また、高校入学の際に全寮制の学校を選んだため、引越しの心配はない。

 それから周囲の自分に対する反応は変わりなかったが、ARシステムのハラスメント防止機能で虐めを受けることはなかった。

 私にとっては皮肉としか言えないことであったが……。

 そんな生活が続き、幾つもの競技の全国大会で活躍した二年生を最後にすべての部活を辞めてしまった。

 スポーツ推薦や特待生で入学した訳ではないのに、学校側はしつこく部活を続ける様に言って来たが強制権はなく、ハラスメント機能があるため途中で断念した。

 私が知らない間に、幾つかの競技でオリンピックの代表候補に上がっていたのを後から知ったが興味はない。

 私はいつも見上げて生活したが、今は下を向いて生活している。

 自分の不可解な身体と人間関係に疲れた私は、嘗ての誇りもなくなっていた。

 それでも他人を頼らず独りで生きていこうと、将来について考え始め。

 将来の進路を具体的には決めてないが、後から選択の幅を広げようと大学受験をしようと思った。

 勉強は交友関係が少なく暇だったため、マメにやっていたので問題なかったが……一番の問題はお金だ!

 親戚たちにはこれ以上負担を掛けたくなく……あまり関わりたくない。

 そのためアルバイトをしてお金を稼ごうとしたが、見た目が小学生くらいにしか見えないため、どこにも採用してもらえなかった。

 AR機能で外観を変える事は出来るが、他者に関与する場合は他者からの同意が必要である。便利な機能があっても、外見を偽ることはできなかったのだ。

 私がこうしてお金の工面に悩んでいたある日、運命的な出来事が訪れるのであった――。

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