09:孤独な〇〇者
『愛沢 麗奈』失踪から二日。
元々四十名だったクラスの空席が、また一つ増えただけではある。
だが、『愛沢 麗奈』は有名人過ぎた。
当然色々な噂が広がり始める。
東区で数十名を相手に逃げ切った三人組に遭遇してやられた……とか、誘拐されて身代金を要求されている……とか、転生者に洗脳され敵に回ったとか……中には夕暮れの公園でブランコに乗ってた……まである。
僕的には最後のは怖い。ホラー要素は苦手だったりする。
空席の隣を見ながら考えもなしにボーとしていた。
いや、思い出していたのかも知れない。
(お前の時は、噂にすらならなかったよな……元々居なかったかのように扱われて、最後には……)
視線を感じて心の中で深呼吸をイメージする。感情が高ぶっている。
(僕は……冷静だ……そう……冷静だ)
教室の入り口に『青』が見えた。
(本当に自己主張が強くて助かるね。誰だか一目で分かる)
彼女は僕の元まで躊躇なくやって来る。
『蘇我 氷華』
「そ、蘇我さん?」
「やぁ、空気くん」
見事なツインテールが揺れていた。見事って表現も可笑しいが、髪の量、艶、長さと三拍子揃っている。
「今日は、比較的に過ごしやすい気温で良かった」
「……そうですね。それで、そ、蘇我さんはどうしてここに?」
答えは直ぐだった
「実は、付き合って欲しい」
……どうしようか……これは、お約束待ちなのか?
それとも、素なのか?判断に迷うところだね。
ああ、もう一つの可能性もあったか……。だからこう答えておこう。
「どうして、僕を?」
どうとでも取れる曖昧な返答だ。それに対する『蘇我 氷華』は僕の予想外の返しだった。
「君、『相棒』を亡くして一人だったね。私もそうなんだ。丁度良いと思ってね」
「付き合って欲しい……の意味が何処にもありませんが?」
「ああ、これは先走ってしまったね。『相棒』としてある場所へ付き合って欲しいんだ」
ソロでの行動は制限される場合が多い。つまり、ソロではいけない所に行くとの意味だ。
「はぁ、それなら意味が分かります。でも、実力差がありませんか?」
「それなら心配いらない」
何の心配が無いと?……うかつな言葉は危険だ。
「…………」
「実はね、信頼できる筋から『転生者三人組』の情報を得てね。今から行こうかと思う。まぁ、偵察程度のものと思ってくれて構わない」
『転移者三人組』か……。例の『魔法』を使い死傷者を出さずに逃走した相手だ。興味はある。だが、真意は何だろう?
現状は確かに僕には『相棒』が居ない。『蘇我 氷華』もそうだ。しかし、彼女の実力を考えれば僕を選ぶ理由が見当たらないよね?
……ある一点を除いて……だけどね。
しかし、魔法への興味が勝ってしまった。魔法、魔法、この世界では空想でしかないモノ。実際に見ることが出来るのなら見たいと思うのが普通だ。
「まぁ、僕でよければ」
『蘇我 氷華』に笑顔が浮かぶ。普通に可愛い。いや、普通じゃないな……抜群に可愛い。見た目はね。
「そう言ってもらえると思っていたよ。感謝するよ。ありがとう」
「い、いいえ。僕こそ……」
「君には……恐怖は無いのね?」
『蘇我 氷華』から笑顔が消えていた。
「……」
「……」
「ははは……。まさか。怖いに決まってますよ……」
「そう?」
『蘇我 氷華』が再び笑顔に戻った。
勿論怖いですよ。
『蘇我 氷華』
貴女がね……。