08:迷い込む転移者達
それは俺達の見知った世界だった。
「どう見ても東京よね?失敗したのかしら?」
それは見知ったオフィス街。立ち並ぶビルは良く見ていた光景だ。ただ違う点は昼間なのに人の姿が見えない。途切れることのない自動車の姿も見られない。そして、常に掃除されゴミを見ることの少ない東京でのその光景は特に異様だった。
まるで何年も掃除すらしていない通り。それは、していないのか、出来ないのか。
「いや、そんなはずは……座標的には、ここで間違いないはずなんだが?」
黒髪のブレザー制服姿少女は男から目を離さないまま告げる。
「なら、ここなのよ。それを前提で考えてみて。直ぐに出る答えだわ」
俺達3人はある目的の為に、ある場所へ跳ぼうとしてた。空を飛ぶとかの話では無く、世界を移動する跳躍だ。それは俺の『次元移動』が可能とする。
『次元移動』を詳しく説明すると長くなるので割愛するが、ゼロコンマイチずれても死の可能性を持つ次元断層……と、リスクの伴う『次元移動』での座標計算ミスなど……あの時点では有り得ないはずだった。
計算ミスで無いのなら、やはりここで間違いないのだ。そう確定する。
なら次の可能性は……。
「世界が移動して別の世界が存在している可能性か……」
「それは、どういう事ですか?ファウ様」
蒼の髪そして瞳、蒼の聖女の正装を身に纏う少女がそう口にした。
「分かり易く説明するよ。つまり、住所を頼りに訪ねてみたら、その住人は引っ越していて別の住人が住んでいた……って事だ」
「あら、ファウ君にしては分かり易い説明ね。いつもは簡単な事をワザと回りくどく説明して混乱させて喜ぶ貴方が……」
何故が頭を撫でられた……。
「……で、その元々の住人は何処へ引越したのかしら?」
「分かりませんね……」
黒髪の少女は「そう……」と、満面の笑みで答えた。
「……先輩、楽しんでいますね?」
「ま、まさか?これは、由々しき事態だわっ!」
完全に楽しんでいる。そう、『利瀬 瑠奈』とはそんな女だ。
俺達はここで足止めを喰らっている場合では無いんだが……そう、足止めだ。
「先程の例え話に追加する。住所を頼りに訪ねて部屋に入った。別の住人が居たので部屋を出ようとするとドアも窓も外から鍵が掛かっている。しかも窓は強化ガラスで破ることも出ることも出来ない。それが今の俺達の置かれた状況だ」
「つまり、間違った世界に到着してしまった上に……出られないのですか?」
蒼の髪が風に吹かれ揺れる。魔力の残光がキラキラと輝いた。
「そうだよ、レムリ。どんな原理なのか……。先輩の『許可』で何とかなりませんか?」
「無理ね」
間髪入れずだった。
「そうよ、但し、今は……が付くけれど?原因……勿論、突き止めてくれるんでしょ?」
「まぁ、やるしかないでしょうね。原因が分かれば可能って答えでしょうから」
「マスター、原住民に囲まれています。数20です」
突然、俺のサポートスキルであるディアの声が響く。
「それぞれが武器を所持。形状から銃と思われます」
「騒ぎを起こしたい訳では無いんだけどな……先ずは、話し合いで何としてみるか。東京であるなら日本語だろ?」
「ファウ君?提案があるのだけれど、良いかしら?」
利瀬瑠奈が前に出る。
「瑠奈先輩?」
「ここは見た目のパッとしない男が行くよりも、私の様な美少女の出番だと思うのよ」
「……」
「マスター、利瀬瑠奈の提案は合理的に物事を運ぶ可能性を持っています。幸いなことに20名全ての性別が男性です。その場合の利瀬瑠奈の容姿は、友好的に物事を運ぶ確率を上昇させると判断します。上手くいけば交渉次第ではこの世界の情報を手に入れる事が可能かも知れません」
「そうか……よし、分かったよ、ディアに従おう。瑠奈先輩、頼めるかな?」
「任せて、ファウ君」
利瀬瑠奈が前さらに前に出る。
「さて、私達を取り囲んでいる皆さんの代表にお話があります!」
堂々とした態度。そう言えばこの人は生徒会長だったか。慣れてるって事だ。
「私達は敵意を持ってここに居る存在ではありません!」
姿は見えない。見えないが、ディアが居ると言うのなら居る。
「出来れば、平和的に話し合いで……」
殺気!!
ダァーーーン!!
利瀬瑠奈の眉間を狙った銃の音が響き渡る。
「……成程、これが答えですか……」
利瀬瑠奈が眉間の数センチ手間で止まった弾を指で弾く。
ガンガンと高い金属音を残して転がった。
その大きさに驚く。弾丸の大きさなんてものは大体が想像つく。しかし、これは人に撃って良い口径のものでは無い。
(まずい!!この展開では非常にまずい!)
俺には次の展開が読めてしまった。ディアが一つだけ考慮し忘れた事。
『利瀬瑠奈の性格』。
予想を裏切ることなく、利瀬瑠奈は当然の様に言い慣れた台詞を口にした。
「そう、これが答えね?ならば、殺し合いを始めましょう!!」
出たよ……まぁ、只の口癖なんだけど、殺し合いなんかしないけど……。
(そのセリフは、今はシャレにならないでしょうがっ!!)
「レムリ!!」
「はい!ファウ様!ホーリーシールド!!」
無詠唱でレムリの魔法が発動。俺達3人は光に包まれた。状況判断、最善の行動、聖女モードのレムリに隙は無い。ここで攻撃魔法を選択しない辺り、最善だったと言える。例えばもう一人のレムリである別人格であったスタアなら……殲滅を選んだ可能性が高い。
狙撃の失敗と判断した時点で、銃撃に移ったようだ。
日本だよな?……。
正に雨あられの様な銃撃。だが、全ての銃弾は光の壁に阻まれる。
それこそ普通の銃弾が、まったく効果を発揮できずに俺達の足元を埋めた。
……となれば、次に打って来る手は……近接戦。
五名が姿を現す。皆同じ服装……制服だ。思っていたよりも若い。俺より下なのは間違いなかった。
「よく訓練されているようだが、マニュアル通り過ぎで読みやすいな」
利瀬瑠奈を囲む五名が、攻撃範囲に入る手前で潰す。
勿論、言葉通りではない。
「『重力操作』!!」
範囲を限定して重力を増やす。
五名の踏み出していた足が自らの荷重に耐えられずに折れた。
「マジか……」
思ったよりも脆い。これは想定外だった。
「先輩、取り合えず跳びます!レムリもいいなっ!」
「これ、私のせいじゃないわよ?初めから全然聞く耳を持ってなかったわよ?あの子達」
瑠奈先輩が言うのならそうなのだろう。なんせ、心を映像で観ることが出来る人だ。初めから観て知っていて、自分に対するダメージの『許可』を与えていなかった。つまり、遊んでいたのだ。
「はいはい、分かってますよ」
「『聖女の聖域』!!『完全回復』!!」
「レムリ?」
「あ、ファウ様。あの方達の足は治しておきました。ご心配なく」
正直助かる。この世界での俺の取る行動がどう影響してくるのか未知数の現状、壊す、傷つける、死なせるは避けたい。
ひとまず、この場から離れる為に……。
俺ファウ=バルドは、蒼の聖女レムスタリアと利瀬瑠奈を抱えて跳躍した。
東区、転移者3名発見するも、排除に失敗。
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