06:始まりは転移者
今から30年前、最初の転移者(T1)が確認されたのは青森だった。
到着途中の汽車を駅もろとも破壊し、走る車などを次々に破壊し「なんだよ、乗り物なのかよ。モンスターと勘違いしたよ」
……と笑ったそうだ。
到着した警官隊に囲まれる中、成立した会話にて得られた情報では、異世界からやって来たとの言動。
始めは誰も信じてなどいなかった。
若者が好んで読むファンタジーの設定だ。また、論じられていても証明した者などいない異世界など戯言を信じるはずが無い。精神異常者による爆弾テロとの可能性と判断、それに伴う行動をした警察側は常識的だったと言える。
だがそれでも良かったのだ。相手も常識を持っていてくれさえすれば、異なる者同士でも話し合いは出来る。それらが誤解から生まれたモノならば、話し合いの余地もあった。
そう、常識さえ持っていてくれたらだ。
「今回は、魔王プレイに決めたぜ!」
その場に居た誰もが理解出来なかったと断言しても良い。その言葉の意味するモノ・・・その言葉の後に行われるであろう行動を。
だが、混乱は更なる混乱によって引き戻される。
その場に介入してきた二番目の転移者(T2)。
「%&&%$!!」
「追って来たのかよっ!!」
幸運だったのだ。何の準備も知識もない人類にはそれ以外の言葉が見つからない。
転移者二人の争いが唐突に始まり、そして……やがて終わる。
異世界人による争いの結果が大きな爪痕だけを残す。我々は、ただ巻き込まれたのだ。転移者による二人の争いの余波を受けただけだ。
幸運の代償……転移者同士の潰しあいの代償はあまりにも大きかった。
自衛隊三沢基地の壊滅、原子炉の廃炉、多数の死傷者を出しながら正確な数値は発表出来ない程の被害。本州と北海道の交通は分断され、青森市内を中心に十和田湖までが干上がる焦土と化した。隣接していた秋田、岩手の被害も言うに及ばず。
たった二人の争いの結果がもたらした地獄。
もし、どちらか一方が生き残っていたら?
……考えたくない未来しか想像出来ない。
人類が初めて体験した脅威は、日本の東北地方の一部が壊滅することで回避出来た。だが、それがこの先やって来る転移転生者の最初の二人であったことを世界中が知る事となる。
この日を境に、世界各地に転移転生者が現れ始める。それと同時に、世界中に悲惨な結末を齎すのだ。
だが今では、出現の兆候を捉えて発見後に直ぐに対処することで被害を防いでいる。この世界に『馴染む前の排除』が可能となったのだ。それに比例して、ここに至るまでの30年間でどんどん排除役の年齢層は下がってきている。
しかし、現状で説明するならば問題になるのは転生者の方だ。転移者と比べたら脅威が数段跳ねあがる。
そのまま来訪する転移者と違い、前世の記憶を持ってこの世界の子供として生まれる転生者は発見が非常に困難なのだ。
子供として十分この世界に馴染み、この世界を学び、この世界の知識を蓄えて成長する。
殆どが力押しの転移者に対して、知略と力をバランスよく使う。それが、転生者だった。
キーーーンコーーーン…………
聞き慣れたチャイムが響く。
「今日はここまで!」
日本史の授業が終わる。選択科目ですらなくなった強制の現代史が中心だ。
知っていることを何度も、何度も、何度も……退屈過ぎる。
新たに分かったことは直ぐに追加され教科書に加わる。意外にも追加される情報は多い。
(次の授業は何だっけ?)
時間割を確認する為に顔を上げると?『近衛 唯』が僕の前まで来ていた。
「空気、聴きたい事があるんだけど?いい?」
(僕はそらき……え?そらきって呼んだ?)
『近衛 唯』への好感度が上がった。自分でも単純だと思うよ。
「な、何かな?近衛さん」
「昨日の放課後だけど……」
『近衛 唯』の視線が痛い。
(あのね、近衛さん。そんな「お前を疑っている」的な目で見られてたら本当の事は話さないよ……誰もね?これは、疑ってはいるが確信も無い・・・か)
「……麗奈に会わなかった?」
「え?愛沢さん?」
少し考えるふりをする。あまり長くなり過ぎないように。
『姫』は有名人だ。
空気を見なかった?とかの存在感の無い人間ではない。見ていたなら直ぐに気づける存在だ。
「……実は、昨日の放課後に愛沢さんから呼び出しがあって屋上へ行くはずだったんだ」
「そう」
近衛さんの呟きは「知っているわ」だった。そして、屋上に彼女も居た。
でも、僕を見ていない。だからの問いだ。
「でも、気分が悪くなって帰ったんだよね。その事を謝ろうと僕も探していたんだけど・・・愛沢さんに何かあったのかな?」
何かを言いかけて、言葉を飲み込む近衛さん。
「……何も。邪魔したわね。ありがと」
「え?うん」
近衛さんの後姿を見送る。
(さて、彼女はどうしようか?本当に予定は狂うモノだね……)
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(転生者『愛沢 麗奈』の排除が確認されました)
(へぇ、偶然?故意?)
(まだ、断言できません)
(故意だと嬉しいわね。それって『敵』ってことよ?)
(そう……なりますか)
(うん、楽しみ。この世界では、どんな敵なのかしら?)
た・の・し・み