05:排除の開始
魔法を使った3人組の事も気にはなるが、優先するべきはこちらだ。
動き出したモノは止められない。腹をくくる。
屋上への出口をそっと開けて様子を窺う。
『愛沢 麗奈』の後姿が見えた。
(急いできたつもりなんだけどね・・・)
急ごう。『姫』は怖いからね。
「ご、ごめん、待たせたかな?」
屋上への出口である扉をしっかりと閉じた。戸締りは大事だ。
(これも戸締りって言ったっけか?)
まぁ、いいや。
『姫』は、そのままの姿勢で下校途中の生徒を見下ろしていた。
(あれ?聞こえなかったのかな?)
『姫』からの返事が無い。
「愛沢さん?」
「まさか……本当に……」
『姫』の呟きが聞こえた。
「まさか本当に来るとは思ってなかったわ」
僕も本当ならば、まだ来たくは無かったよ。
「うん、そうだよね?僕も予想外だったよ。愛沢さんから呼び出しがあるなんてね」
『姫』が振り向く。手には……。
(何だっけ?確か大層な名称が付いた剣だった。あの剣で既に二桁の転移者を屠っているはず。まぁ、剣の名前なんてどうでもいいか)
「それは、こんなに早く……って意味かしら?それとも、私からって意味かしら?」
(あぁ、鋭いな……この娘)
瞬間、『愛沢 麗奈』姿が消えた。
(問答無用ですか。判断力も一流だね)
僕の首の位置を払う一閃は同時だった。でも、当たらない。
「わわわ、危ないよ。シャレにならないよ?当たったら死んでしまう」
『姫』が返しの攻撃をせずに距離を取った。剣を構え直す。
「私へのフレンドリーファイアはワザとだったのね?そして今、私の剣を躱した。貴方、何者?」
「知ってるはずだよ?空気 空。愛沢さんのクラスメイトで冴えないボッチだよ」
「素直に答える気は無いのね?……それならいいわ、私の権限を行使させてもらうからっ!」
「ちょ、ま、待ってよ。僕も色々と言いたい事とかあるんだよ?」
……聞く耳も持たないか。
いずれにしても、この女はここで……退場が決まった。
「相棒の『近衛 唯』も居ない、武器も持ってきていない状態で何の権限を行使出来るのさ?」
「え?」
「それに愛沢さんは足を怪我しているよね?立っていられないよね?」
『姫』が倒れる。勿論、『姫』には手にしていた武器もない。
「近衛っ!」
そうそう、本当ならば近衛さんが居るはずだったね。
「だから言ったよ?『近衛 唯』はここに居ないって」
「……貴方、な、何なの……」
『姫』の声に怯えの感情が籠った。
「見た目も完璧、実力もトップクラス。勘違いして当然だよね」
普通なら良心が痛む表情を見せる『姫』。だから余計に腹が立つ。そして残念な結末だ。
「僕はね、殺す相手を前にべらべらと喋る様なことはしないからね。あ、でもこれは言わないとね。17年間の人生、お疲れ様。今度はちゃんと成仏してね」
『愛沢 麗奈』の制服はどす黒い赤。内から噴き出した血液で白の制服が一瞬で染まった。
確認するまでも無く彼女の人生は、今…終わったんだ。
「……あ、しまった。『愛沢 麗奈』が気付けた理由くらいは聴いておくんだった……でも、ペラペラしゃべる奴は大抵逆転されるんだよね」
しかし、準備段階だったのに行動に移す羽目になった事を想えば、『愛沢 麗奈』は仲間に貢献したと言っても良い。
さて、その仲間はどう動くかな?
楽しみだね。