04:ノアの洪水
今、僕はとても困惑していた。
なんとあの『姫』。『愛沢 麗奈』からの呼び出しを受けたのだ。
放課後に屋上に来て……なんて言葉を現実に聞くことになろうとは思わなかったよ。
何故なら僕だからね?
(ん~、困ったな。まだ準備が出来ていないけど……)
こちらの都合では動いてくれないか。
(それとも、気づいたのかな?)
窓の外を眺めながら、結論をどうするべきかと思案しているとクラスメイトの会話の単語に意識が向いた。
「……失敗しらしいよ……」
何て名前だっけ?まぁ、どうでも良い事だよね。それよりも失敗したって単語の方に興味を引かれる。
「東区って西区と同じで100パーセントだったわよね?」
「マジかよ。で、何人死んだんだ?」
「それが死傷者ゼロだと」
失敗で死傷者ゼロ?有り得ない事だった。
『転移転生者排除法』
国際法の中でも優先事項とされ排除方法は国内法による細かい注意事項で成り立つ。
一国で排除できない場合には、他国からの無条件の援助が受けられる。
ここ東京も、東西南北の四つに分かれ各十校からなる分担で転移転生者を排除している。僕らの学園もその内の一つだ。
何故学生が危険な事をしているのか?
簡単な答えだ。戦える年代はもういないからだ。上に居るのは保身に走るお権力者。戦えない高齢の人々が何とか経済を支えている。
僕らの年代が何かの理由で全滅したなら、次は中学生がその役割を担う……それだけの事だ。そして次には小学生か?いくら何でも無理だろう。つまり、どう見ても負け戦だよね?これは。
そんな状況下において、東区の排除失敗は結構な大ごとになる。
今回のが転移者なのか転生者なのかは不明だけど、この世界に馴染んでしまったら面倒なことになるからだ。
彼、彼女らは『ノアの洪水』と呼ばれている。
神の怒りにふれた人類を押し流す洪水なのだと。
その命名はどちらからの視点だよって思うよね。
まぁ、呼ばれ方はともかく、馴染んだ転移者や転生者は『異能』を躊躇いも無く行使するのだ。結果、大惨事が起こる。
不思議な事に大惨事までがデフォルトなのだ。
排除の失敗は、大惨事へと繋がる。ほら、一大事だ。
「全地区への協力要請が入ったらしい。で特徴だが、男一名に女二名の計三名。一人は蒼の髪に蒼の瞳で……何でも、魔法を使用したようだ」
最後の言葉で断然興味が湧いた。