03:撃墜王
シミュレーターとは言葉通りのモノだけれど、仮想フルダイブゲーム機とでも思ってもらえたら良いかな。そんな健全な代物でないのも確かだけど、イメージしやすいと思う。
当然だけど軍事技術に当たるので一般には極秘の技術だし、この技術が公表されて一般人が娯楽として楽しめるようになるにはまだまだ先の事。
個人的には、この次に来るのはフルダイブエロマシーンだと思っている。
思ってるだけで、興味は無いよ?
さて、そんな事よりも僕は密かに期待していたんだ。
このシミュレーターはクラスの合同授業、いや合同訓練。
即ち、他のクラスであぶれた者が居れば、僕にもチャンスはある!
「さて、あぶれ者……は?と」
当たりを見回していると……知った声が僕を呼んだ。
「おーい、空気。ちょっと来い!」
空気を読めない教師の隣に立つ人物は青を基調とした制服の少女だった。
嫌な予感がする。
本当にこの学園は自由だね、白やら青やら。ちなみに他生徒は黒だ。だからこそ目立つ。
「お前、氷華と組んでやれ」
はい……いやな予感、当たりました。
「せ、先生、正気ですか?」
このモブ教師はなんてことを言いやがるのでしょう?それこそ見た目、五本の指の一本な美少女で実力もその一本な『蘇我 氷華』と組めと?学園にツインテールで来てもいじめの対象にすらならない強者と組めと?
「じ、実力が違い過ぎるペアは悲劇しか生みませんよ?」
「流石、空気。良く分かってるな。だが、何事も経験だぞ。胸を借りるつもりでいけ!」
(いや、僕はそらきです。それに、借りるも何も胸が……)
気温が下がった気がした。理解した、定番のボケ……ヨクナイ。
本能がこれ以上考えるなと囁く。やばいぞ、主に僕の命とか命とか命がだ。
「滝田教員の推薦だ。私はそれで構わないけど?」
凛とした良く通る声だった。
(モブ教師じゃなかったの?名前があったのか……)
学園の強者に「それで良い」と言われてしまっては反論できなかった。
「蘇我さんがそれで良いなら……」
「決まりだ。それと、同じ学年なんだ。呼び捨てで構わない」
『蘇我 氷華』がそう言いながら手を差し出した。
僕の様な弱者が強者に呼び捨てなんて難度が高すぎる。それに『蘇我 氷華』の笑顔が眩しすぎる。
「よ、よろしく。蘇我……さん」
ダメだった。
僕は差し出された手を握る。ひんやりした小さく柔らかい手だった。
この時の僕は、珍しくやる気になっていたんだ。
寧ろ、ここで少しでも良い所を見せようと男しての欲が出てしまった。
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『蘇我 氷華』の戦闘から学ぼうと実況スクリーンの前には人だかりが出来ていた。皆が注目していた。
今回のクラスでは、『愛沢 麗奈』『近衛 唯』ペアと『蘇我 氷華』が注目されない訳が無い。
シミュレーターが起動され、スクリーンには市街地に立つ『蘇我 氷華』と『空気 空』が映し出される。
仮想敵の市街地進行が始まり戦闘が始まる。
ビーーーッ!!
システム音に信じられないモノでも見るかのように静まり返った。
始まって10秒も経ってはいないが合成音声が現実を告げる。
「『蘇我 氷華』戦死しました。『蘇我 氷華』のパートナーはソロ攻略に備えてくだ」
ビーーーッ!!
「『空気 空』が戦死しました。シミュレーター終了します。敵損害0パーセント。味方損害100パーセント。完敗です。」
シミュレーターのロックが外れ上半身を起こした『蘇我 氷華』自身が何が起こったのかを理解していない様子だ。
静まり返り口を開くものはいない。
いや、彼が居た。
「『愛沢 麗奈』に続き『蘇我 氷華』も撃墜しやがった。空気、お前はフレンドリファイアーの『撃墜王』か?」
(先生、頼みますから空気を読んで発言してください……)
この日僕は『蘇我 氷華』にも初黒星を付けた『相棒殺し』としてだけでは無く、味方を撃墜する『撃墜王』の称号まで手に入れた。