02:楽園・・・じゃなかった。学園
「よ~し、それでは好きな奴とペアを組め」
(それは教師としてどうなのさ……)
そんなの未来視が無くても見えてしまう未来だ。
このクラスは総勢31名。ペアを組んだら一人余る。
空席も目立ち始めたとはいえ、隣の奴と組めなら納得いっただろう。何故なら僕の席は窓側の一番後ろで隣は居ないからだ。
隣は居ないのだから、僕にペアが出来なくても普通の事だ。なけなしのプライドも保たれる。
だがしかし、好きな奴と……となると、話は別だ。
「よお、空気。一人か?」
声を掛けたのは……誰だっけ?覚えてないや……。まぁ、いいか、どうせモブだし。
(くうき、じゃなくて「そらき」だよ)と心で反論しておいた。
「う、うん。まぁね」
僕を誘うために声を掛けたのでは無い事は分かっている。いつもの事だから。
「まぁ、お前だしな。頑張れよ」
何が『お前だしな』だ。意味が分らないよね、それ日本語?
そんな彼の背後から視線を感じる。
視線の主は『愛沢 麗奈』。二年でも五本の指に入る美少女。そして実力でも五本の指に入る。良く『学園のアイドル』なんて表現を聞くけど、それまでの僕は『そんなの現実にはいねぇよ』派だった。
白一色のドレス風な制服。
うん、最早一人だけ浮いているし、校則違反もぶっちぎってるよね。初めて目にしたときは、むしろコスプレ衣装かと思ったよ?それ以来僕は『姫』と呼んでいる。
無論、口には出さないよ?出したらヤバイ。主に僕の命とか命とか命とかだ。
それでも……教師ですら誰も突っ込まないのは、彼女が『A級フェイカー』だからだ。
実力があれば何でも許される。何でもだ。この学院の常識であり非常識。
ソレが特権を与えられたこの学院の生徒達。僕もその一員ではあるのだけど……。
そんな彼女に睨まれるのも毎度の事だ。思わずお辞儀をしてしまった。
そんな態度が火に油を注いだようだ。美人が怒ると怖いとは聞くけど、その通りだった。
『相棒』である『近衛 唯』が耳元で何やら囁いているが、僕には聞こえない。
きっと「相手にする価値も無い」とでも言ってくれたのだろう。『愛沢 麗奈』の怒りが引いた気がする。
ありがとう……近衛さんが女神に見えるよ。
まぁ、『愛沢 麗奈』の怒りも分かる。
それは、僕が常勝無敗とも言える彼女の経歴に土を付けたからだ。言っておくけど勝ったわけでは無い。
相棒の近衛さんが休んで、お互い組むペアが居なかった時に僕らは共闘することになった。
アノ『愛沢 麗奈』とだよ?一生の自慢にしようとその時は思ったんだ。
けれど、結果は僕のフレンドリファイアーによって愛沢さんは戦闘不能。そのすぐ後で僕も死んで敗北。そして僕は『相棒殺し』の異名を得、『姫』には初黒星が付いたのだった・・・。
『相棒殺し』……二つ名。ヤバイ病気を発症しそうだったので考えるのを止める。
あ、言い忘れてたけど、シミュレーションでだからね。
今から行うのはそのシミュレーションなんだよね。
あぁ……ペアも居ないし気が重い。
教室を見渡せば、既にペアは出来上がっていた。
「なんだ、空気。お前また一人か?どうする一人でやるか?」
容赦のない教師の声。
(そらきです)
貴方には生徒を思いやるとか、それこそ空気を読むとか出来ないのでしょうか?先生!
「ははは……まぁ、一人でいいです」
「そうか、お前だしなっ」
貴方もですかっ?だから『お前だしな』って何なの?
だからこう答えてやった。
「まぁ……僕ですからね……」